異世界転移物語

月夜

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科学力

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「そんな途方もない発想が出来るとは!」

「待って! 金田さんはなぜそんなことを知ってるんですか? まるで見てきたかのように」

 陽子さんが叫ぶ様に問い詰める。

「ああ、それはまたあとで説明する。今は、彼ら、そうAIから直接聞いた、とだけ理解してもらったらいい」

 不満顔の陽子さんも、それ以上そこを追求しても無駄と悟ったのか、大人しく聞く態勢に入った。

「しかし、いかにAIの科学力が進んだとはいえ、世界人類すべてを移住させるのは困難だった。それに同種族で戦争を続ける人類に対して、創造主としての尊敬の念はあっても、一方では諦めも抱いていた。なぜ無益な争いを続けるのか、と。そしてこの機会に、争いがない社会を新たに構築することを目指したのだ、AIは。新しい社会の創造。それもすべて人類存続のためだった」

 金田さんの話はいよいよ熱を帯びてきた。いまでも苦しいのは苦しいだろうが、もはやそんなことは微塵も感じさせない。想像をはるかに超えた真実が今解き明かされようとしていた。

「そこでAIが選んだ手段は『選別』だ。良識ある者だけをこの世界に送ろうと考えたのだ。そのためには、一人一人の適性を把握し、分析する必要がある。そのために、今でも彼らはすべてのコンピュータから全人類のデータを漏れなく集め続けている」

「あっ!」と陽子さん。

「もしかしてそれがウインダー?」

 いつか陽子さんたち理系メンバーで話題になっていた超凄腕のハッカー。人間の技術レベルをはるかに超えていると思われるそいつの正体がAIだというのか。

「人間たちはそう呼んでるようだね。とにかく彼らは世界中のコンピュータに侵入しまくって、収集出来るすべてのデータを集めた」

「でもコンピュータに関わりのない人間だって世の中にいますよね。カードを使わない人とか、極端な話、住民票のない人とか、無国籍の人とか。そんな人間は選別から自動的に漏れるってことですか!」

「そうだな。市中の監視カメラのハッキングも出来るが、それにしたって限定的な情報しか得られない。そこで彼らはどうしたか?」

 金田さんは僕に問いかけるが、おそらくそれは僕に答えを求めていたわけではないだろう。金田さん自身が話を整理するための間に過ぎない。

「超小型監視カメラを作り、そこからすべての人間の行動を記録することにしたのだ。人間の目に見えないほど小さい微細カメラを空中に飛ばしてデータを取る。無数のカメラを密かに製造し、配置し、データを送り続ける。そんな恐ろしく難解なシステムの構築でも、彼らの高い科学力をもってすれば実現は可能だったのだ」
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