異世界転移物語

月夜

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必要性の議論

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「この宝泉さんたちが住んでいる村から東北東に進んだところにまた集落があることが分かっています。理科さんが少しの間、居たところです。その距離は歩いて四日。それ以外では善蔵さんたちの家の場所、謎の小屋の場所も分かっているので、これでかなり点から面への展開が考えられるかもしれません」

「どういうこと?」と安食さん。

「既知のポイントを拠点にして、長期間の調査を可能にするということです。そこにある程度荷物を置いておいて、宿泊しやすくすれば少ない持ち物でも探索が楽になります」

「うん。それはいい考えかもしれない。向こうでは湖付近も既に拠点化しているしな」の宝泉さんが感心したように付け加える。

「あの釣りキチさんが毎日釣りに行っていた湖ですか! そう言えばあそこには湧き水があって水も確保できたんですよね?」

「ああ。だから人が増えても水には不自由しない」

 僕と宝泉さんが盛り上がりそうになるところに、林さんが割って入った。

「だが結局、宝泉さんが迷ったってことは向こうの村の正確な位置は分かっとらんのだろ? まずはそこから手をつけないと」

「それはもちろんです。一番最初にしなければならないのは、確実に宝泉さんの村とのルートを作ることです」

「じゃあ、やっぱりもう一度、宝泉さんと誰かが組んで、あっちの村に行ってみる必要があるわね」

 陽子さんがそう言うと、海原君が「ちょっと待ってください」と議論に楔を打ち込んだあと、自論を述べ始めた。

「それはそうだと思いますけど、向こうまで行くのに最低一週間はかかるんですよね? 往復二週間、それだけの間、ここを離れる必要性が今あるかってことも考えたほうがいいと思います。その間、まったく連絡手段は無いわけですし、旅する方も残る方も、どんなアクシデントに巻き込まれるか分かりません。現に和也さんや理科さんが消えたりしてるわけですし。二週間の行程を安全に終えるのは、かなりのリスクがあります」

「なるほど。それはそうだな。調査に出掛けるより、もう少し村の基盤作りを優先させたほうがいい、という考えか」

 宝泉さんが感心したようにうなずく。

「確かに向こうの村でも、今でこそ、積極的に調査に出掛けてはいるが、それは人数も増えて生活も安定してきたからってのが大きい。今この村で何が最優先されるかはよく考えたほうがいいかも知れないな」

「それに……」

 あまりこういう議論には率先して絡んでこない料子さんが不安げに口を挟んだ。
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