異世界転移物語

月夜

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犯人指摘の意味

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 そんなことが可能だろうか? 不可能ではないだろうが現実的には非常に難しいのではないかと僕は思った。  

「それを言うならまだ候補はいるわよ」

 それまで黙っていた理科さんが突然口を挟んだ。

「誰?」と料子さん。

「釣りキチさんよ。私たち、誰も釣りキチさんに会わなかったでしょ。先に帰って、密かに隠れながら食材を隠したんじゃないかしら。優子ちゃんは外部からの侵入はなかったと言っていたけど、釣りキチさんなら家の構造とかも把握してるから、隠れてチャンスを窺ってても不思議じゃないわ」

 指摘された当の釣りキチさんは「へっ」という顔をしていた。とぼけている芝居かもしれないが、釣りキチさんの性格を考えると突然の指摘にただ戸惑ってるだけのように見えるのだが。

「誰が盗んだかを探るのもいいけど、これ、どうするんです? 食べるものなくなっちゃいましたけど」

 安食さんが痺れを切らしたように言う。

「そうね。困ったわね」と料子さん。

「みんなで探してみる? そんなに遠くに捨てたってわけじゃないでしょうし」

 理科さんの提案に対してすぐに反対意見は出ない。犯人探しは途中になってしまったが、確かに今は食べ物をなんとかするほうが切実な問題かもしれない。きっとみんなそう思ったんだろう。

「とはいうものの、もう夜だし。どうしましょう? 家の中だけでも探してみますか?」

 僕は皆に意見を求めた。

「ええと、今日も一応、魚釣れたから、当座はこれで凌げるとは思うけど」

 まず釣りキチさんがそう報告した。

「家の中っつっても、実際隠せるようなところないだろ。やっぱ外に運び出したんじゃねえのか?」

 林さんがそう言うと、海原君や料子さんがうなずく。

「うーん。では今夜は魚で。食材探しは明日にでも本格的にやるってことでいいでしょうか?」

 僕は落とし所を探った。

「それでいいんじゃないですか」

 海原君が答えたほか、他の人もだいたいうなずくのが見えた。とりあえずみんな同意してくれたようだ。

「それじゃ、犯人探しの続き、やりますか?」

 海原君が提案したが、僕はそれを聞いて一言
言わずにいられなかった。さっきからちょっとずつ考えていたことだ。

「それなんだけど。犯人が誰か、とかもういいんじゃないかな」

 海原君の目が点になる。あまりに予想外だったのだろう。

「いや、もちろんそれをはっきりさせるってのは大事なことなんだけど、たぶんやった人にはそれなりの事情があるんだと思うんだ。ここまで一緒に暮らしてきて、いきなり独り占めしようとするなんてよほどのことがない限り考えないと思う」
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