異世界転移物語

月夜

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部屋の片隅の少女

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「それほど酷くはないと思うんですけどね。ドクターみたいな診断できる人がいないとはっきりしたことは分からないですね」

 料子さんも医療知識はないので、少し対処に困っているようだった。まあ今は金子さんにはとにかく安静にしてもらうより他ないだろう。そう料子さんに告げた僕は、家の隅っこでうずくまっている見覚えのない少女に気がついた。全身にやや陰りのある雰囲気を身にまとっている。

「あの子は?」

「ああ。あの子。彼女は神村いのりちゃん。昨日の昼、こっちに来たのよ。物静かな子でね。パニックにこそなってないけど、まだこの環境に慣れないみたい。きっと不安なのね」

 僕は神村いのりをもう一度見てみた。学校の制服らしきものを着ている。日曜のはずだから、部活か何かの用事で学校に行っていたのだろうか。やや幼い顔立ちではあるが、中学生にしては全体の雰囲気が大人っぽい。

「彼女、いくつなんですか?」

「さあ。本人と話してみれば?」

「そうですね。そうします。ところで桂坂さんと安食さんの姿が見えないようですが」

「二人は、新しい来訪者がいないか、見に行ってくれてるわ」

「なるほど」

「あの……私、化野陽子といいます」

 僕と料子さんの会話に入るタイミングを図っていた陽子さんが、待ちかねたのか遠慮がちにかつ強引に自己紹介を入れてきた。

「神谷料子です。みんなからは料子さんて呼ばれてるわ」

 料子さんの姓が神谷なのは覚えていたが、本人がそう自己紹介するのを聞くのは久しぶりで、なんか新鮮な感じがする。

「理科さんとは行く途中で合流し、陽子さんは善蔵さんの家で一緒になったんです。理科さんのほうは僕が元居た村の村人だったんですよ」

「あら、そうなの? そんなことがあるのね」

 僕は理科さんと陽子さんの対応を料子さんに任せて、神村いのりと教えられた少女に話しかけることにした。彼女のほうに視線を移すと、なんと和也がもう話かけているではないか。しかも、二人でニコニコ笑いあっている。まさか、この短時間で意気投合したとか。

「よう、健太。いのりちゃん、腹減ったって」

「マジかよ。さっきお昼食べたばかりじゃねえのか」

 僕は軽口を叩きながら、二人のそばに寄る。

「いのりちゃんだっけか? 僕は田所健太。よろしく」

「……よろしく」

 いのりは僕を直視しないで俯いたまま一言だけポツリと言った。

「いのりちゃんさあ、極度の人見知りなんだって」

 和也が頼まれてもいないのに僕に情報をくれた。まあ、でもそれは見れば分かる。
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