異世界転移物語

月夜

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不安な帰途

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「いや、大丈夫ですって。今日は予定通り、みんなで帰りましょ。俺だけ残る選択肢はどうせないんだし」

 確かに金田さんだけを残して帰るわけにはいかない。具合が悪化するようなら面倒見る人もいないといけないが、食料の問題もある。今日は少々無理してでも一緒に連れて帰るのがベストの選択であろう。

「それにしても陽子さん、手慣れてますね」

 和也が感心する。

「そりゃ、そうよ。これでも男の子三人も育ててきたんだから」

「あっ」

 和也は思わず驚いて声をあげてしまっていたが、僕も正直驚いた。結婚はしているかもな、とは思っていたが、まさか三人もの子持ちだったとは!

 そんなアクシデントもあったものの、結局、なんの成果も得られないまま、僕らは予定通りに善蔵さんたちの住処を出発した。順調にあいけば午前のうちに村に帰ることが出来るだろう。

 帰りの足どりは女性陣は思ったより速かったが、やはり金田さんは本調子ではないようで、途中休み休みでないと歩けないような状態だった。

「すまないね」

木の根元に座りながら力なく金田さんが皆に詫びる。陽子さんがすかさず側に寄って熱を計る。

「うーん、さっきと変わりないわね。でもそれほど高熱ってわけではないわ」

「でも、困りましたね。お医者さんも看護士さんもいない状況では適切な対応がとれるかどうか……」

 前の村ではドクターも看護士さんも介護士さんもいたので安心だったが、今のメンバーでは不安が残る。そんな想いから僕はつい本音を漏らしてしまった。

「大丈夫だって。俺は全然平気だよ。大袈裟だなあ。それよりこのペースだとお昼までにたどり着けなさそうだが、みんな構わないかな」

 金田さんが強気の発言をするが、実際にはやや苦しそうな表情を見せている。

「金田さん、他人の心配してる場合じゃないですって。私は大丈夫ですよ。理科さんも平気よね?」

 陽子さんが少しおどけた感じで理科さんに振る。

「あ、ええ。昼飯だったら一回ぐらい抜いてもどうってことは」

「陽子さんや理科さんがそう言うなら僕も異存はないです。おい、和也も当然我慢できるよな?」

「腹減った」

 思いがけない和也の返答に一気に場が和んだ。和也もおそらく冗談で言っただけだろうと思う。

「まあ、昼過ぎには着けるでしょうから、金田さんは自分の身のことだけ心配してください」

 僕がみんなの気持ちをまとめて伝えると、金田さんは「そうだな」と小声で言って一人うなずいた。それでこの話はひとまず終わる。
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