異世界転移物語

月夜

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再転移経験者

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 陽子さんは戸惑った顔をした。

「いや、なんでって聞かれてもこっちが聞きたいくらいよ。気がついたらこの家の中にいたんだから」

「家の中?」

 それはちょっと驚いた。まさか室内で転移が起こるとは想定していなかった。それを想像するといろいろと危なっかしい状況も考えられそうだ。

「そうよ。今からほんの少し前。そうね、一時間くらい前かしら?」

 謎だらけだが、陽子さんの語り口は穏やかだ。肝が据わっているのか、それとも……。

「あ、もしかして陽子さんは、日本からではなく、森の中で転移したんですか。あ、つまりこの世界の中でってことですけど」

 僕はその可能性に気づいて確かめようと陽子さんに問いかけた。陽子さんは頭に手をやりながら「よく分かったわね」と驚いた表情を見せた。

「もしかして君もそのクチ? どうやらそこそここの世界の状況は把握しているみたいね。そうよ、私はおよそ3週間前にこっちの世界に来たの。いきなり森の中に一人で放り出されて面喰らったけど、幸いすぐ近くに集落があってね。そこに居た人たちに世話になりながら、今まで何とか暮らしてきたんだけど。さっき急にこっちに飛ばされちゃったのよね……まったく嫌になる」

 それなら僕の状況とほぼ同じような感じだ。通りで手慣れた感があるわけだ。だがお互い共通認識があるので、今後の話はし易そうに思った。

「ここにいる元の世界で理科さんは中学校の理科教師だったんですよ。同じ理系なので、色々と話が合うかもしれませんね」

「あら、そうなの。それは嬉しいわ」

 その後、しばらく陽子さんの話をみんなで詳しく聞いた。さすがにこの人数では、家の中で聞くには狭すぎた。ちょうど天気も良かったので外で座って話を聞くことになった。

 それによると、陽子さんは日曜日だったので、買い物に行き、ちょうど家に帰ってきたところだったそうだ。野菜とかお菓子とかたくさん入った買い物袋をとりあえず玄関に置いたところ、急に目眩に襲われ、そのまま森の中へ移動したという。やっぱり5月20日の午後1時頃だったらしい。

 近くの集落に八人ほどの仲間がいたので、一緒に生活して、その間三人ほど新しい人が増えたそうだ。その三人は、陽子さんが森で気がついたのと同じ場所に現れたということだ。そして今日、再びこの場所に転移してきたというわけだ。

 そっくりだ……。僕は陽子さんの話を聞いて、最初にそう思った。僕の経験したことを辿っているような錯覚さえさてしまいそうだ。それはつまり、この世界のあちこちで似たようなことが多発しているということなのだろう。
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