異世界転移物語

月夜

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元の世界へのこだわり

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「ああ、分かります。僕もそうです」

 勢い込んで和也が割り込んできた。金田さんの前ではやっぱり「僕」使うのか。

「僕は結婚してる姉がいて、やっぱり僕の甥っ子や姪っ子がいるんです。まったく同じですよ。本当、早く結婚して子供育てたいなあ」

 僕にはそこまでの実感はない。身近に赤ちゃんとかいないこともあるだろう。まだやっと二十歳過ぎたところだし、人生設計を描くにはまだまだ早いというのが本音のところだ。

「まあ、もう元に戻れないんなら、こっちの世界でこれからの人生を模索していくしかないだろうがな」

 金田さんは特にため息をつくようなことはなかったが、どことなく寂しげな口調だった。

「僕はまだ希望は捨てちゃいませんよ。来たばっかりですし、悪あがきでも可能性があることはなんでもチャレンジしてみようかと思ってます」

 和也の元気さは僕も見習いたいほどだ。僕は別に絶望しているわけではないが、現実を嫌というほど見てきただけに、元の世界へのこだわりは今はあまりないように自分自身でも感じている。

「あんまり危ないことはするなよ」

 金田さんは和也に年上の立場からのアドバイスをする。

「大丈夫ですよ。僕は特に無鉄砲ってわけでもないし、金田さんや健太みたいな仲間がいるから協力して頑張りたいな、と思ってるだけです」

「和也はまだ休みの日に森の中にハイキングに来た、ぐらいの感覚なのか?」

 僕の問いに和也は「うーん」と唸った。

「よー分からん。なんかめっちゃ緊迫してる感もあるし、一方ではなんとかなるさ、っていうお気楽さも確かにあるんだ」

 僕は和也の話を聞きながら、初日のことを思い出していた。僕の場合は、本当に見える範囲に誰もいなくて孤独だった。この先、どうなるのか、まったく見通しもたたず、不安しかなかったように思う。和也の場合、最初から知り合いもいて、他にもたくさんの仲間に囲まれているから、その点でも精神的にずいぶん楽なんだろうと思う。

 善蔵さんの家まであと少しというところで、思わぬ事態になった。木の陰から「うーん」という唸り声が聞こえてきたのだ。それはごく小さな声だったので、最初僕は気がつかなかったが、耳がいいらしい和也が最初に気づいた。

「なんだろ? なんか聞こえないか?」

 僕と金田さんは顔を見合わせた。僕もだが、金田さんにも何も聞こえなかったらしい。

「なんか、人の声みたいだった。女の人?」

 そう和也が繰り返すので、僕らは歩を止め、周囲に聞き耳を立てた。微風が吹いているが、森の中でほとんど雑音はない。
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