異世界転移物語

月夜

文字の大きさ
上 下
239 / 319

金田さんの提案

しおりを挟む
 何が理由の一つなんだか。結局のところ、そこしか行けなかっただけじゃないか。でも理由はどうあれ、なんか今は大学生活が充実しているみたいでちょっと羨ましく思う。ただこっちに来てしまったからには、羨ましいも何もあったもんじゃないが。

「そういえばそのカバンには何が入ってるの?」

「ノートパソコンやその他諸々です」

 安食さんの問いに和也は迷うことなく答える。

「ちょうど家で非常持ち出し袋をどうしようか検討中だったんですよ。巾着タイプにするか、リュックにしようと思ってたんですけど、あんまり量が入らなくて、それで」

 和也はそう言いながら緑のカバンを持ち上げた。

「こいつに入れてみたんです。いやあ、やっぱりこれだと結構入りますね」

「いやいや、普通はリュックで充分だと思うけど」

 僕のつっこみに和也は照れ笑いをする。

「飲料水とか非常食、それに着替えを入れてるだけなんですけどね。それ以外にはライター、マッチ、ラップやティッシュ、タオルとか軽いものばっかりです。まあ嵩張るのはノートパソコンぐらいですかね」

「バッテリーとかはあるんですか?」

 桂坂さんが訊く。

「うん。モバイルバッテリーはある。でもその充電が出来なかったら、いずれ無用の長物になってしまう運命だけど」

「とりあえずはしばらくはノーパソを使えるってことだね。ネットには繋げられないけど、何かの役には立つかもしれない」

 金田さんの言葉で、僕もこの世界に来てからのことを思い出した。

「以前、ノートパソコンを持って来た人がいて、その人は計算とか画像分析とか色々活かしてたな。まあ、その時はソーラータイプのバッテリーがあったんで、使い勝手も良かったんだが」

「なるほどね。ソーラー充電か。確かにそれが出来るモバイルバッテリーがあれば、この世界でも電気製品を使えるかもしれないな」

「和也はそっちのほうも詳しいの?」

「いや。コンピュータに関してはそれなりに専門知識があるけど、電気そのものにはあんまり詳しくないな」

 何はともあれ、自分の分だけでも食料とかを持ってきてくれれば、こちらは幾らかでも助かる。物に関しては以前の村のように、人が増えてくれば自然に物も充実してくるだろうから、さほど心配はしていない。

 夕食後のミーティングではあらためて和也の紹介をしたあと、金田さんからまた善蔵さんがいた場所に行ってみようと思う、と提案があった。こちらで行方不明者が出た以上、善蔵さんたちのところにも何か変化があるかもしれない、運が良ければまた別の人が転移してきている可能性もあるかもしれない、というのが金子さんの言い分だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

本物の恋、見つけましたⅡ ~今の私は地味だけど素敵な彼に夢中です~

日之影ソラ
恋愛
本物の恋を見つけたエミリアは、ゆっくり時間をかけユートと心を通わていく。 そうして念願が叶い、ユートと相思相愛になることが出来た。 ユートからプロポーズされ浮かれるエミリアだったが、二人にはまだまだ超えなくてはならない壁がたくさんある。 身分の違い、生きてきた環境の違い、価値観の違い。 様々な違いを抱えながら、一歩ずつ幸せに向かって前進していく。 何があっても関係ありません! 私とユートの恋は本物だってことを証明してみせます! 『本物の恋、見つけました』の続編です。 二章から読んでも楽しめるようになっています。

冷徹女王の中身はモノグサ少女でした ~魔女に呪われ国を奪われた私ですが、復讐とか面倒なのでのんびりセカンドライフを目指します~

日之影ソラ
ファンタジー
タイトル統一しました! 小説家になろうにて先行公開中 https://ncode.syosetu.com/n5925iz/ 残虐非道の鬼女王。若くして女王になったアリエルは、自国を導き反映させるため、あらゆる手段を尽くした。時に非道とも言える手段を使ったことから、一部の人間からは情の通じない王として恐れられている。しかし彼女のおかげで王国は繁栄し、王国の人々に支持されていた。 だが、そんな彼女の内心は、女王になんてなりたくなかったと嘆いている。前世では一般人だった彼女は、ぐーたらと自由に生きることが夢だった。そんな夢は叶わず、人々に求められるまま女王として振る舞う。 そんなある日、目が覚めると彼女は少女になっていた。 実の姉が魔女と結託し、アリエルを陥れようとしたのだ。女王の地位を奪われたアリエルは復讐を決意……なーんてするわけもなく! ちょうどいい機会だし、このままセカンドライフを送ろう! 彼女はむしろ喜んだ。

別れた婚約者が「俺のこと、まだ好きなんだろう?」と復縁せまってきて気持ち悪いんですが

リオール
恋愛
婚約破棄して別れたはずなのに、なぜか元婚約者に復縁迫られてるんですけど!? ※ご都合主義展開 ※全7話  

【完結】愛されなかった私が幸せになるまで 〜旦那様には大切な幼馴染がいる〜

高瀬船
恋愛
2年前に婚約し、婚姻式を終えた夜。 フィファナはドキドキと逸る鼓動を落ち着かせるため、夫婦の寝室で夫を待っていた。 湯上りで温まった体が夜の冷たい空気に冷えて来た頃やってきた夫、ヨードはベッドにぽつりと所在なさげに座り、待っていたフィファナを嫌悪感の籠った瞳で一瞥し呆れたように「まだ起きていたのか」と吐き捨てた。 夫婦になるつもりはないと冷たく告げて寝室を去っていくヨードの後ろ姿を見ながら、フィファナは悲しげに唇を噛み締めたのだった。

【完結】地味令嬢の願いが叶う刻

白雨 音
恋愛
男爵令嬢クラリスは、地味で平凡な娘だ。 幼い頃より、両親から溺愛される、美しい姉ディオールと後継ぎである弟フィリップを羨ましく思っていた。 家族から愛されたい、認められたいと努めるも、都合良く使われるだけで、 いつしか、「家を出て愛する人と家庭を持ちたい」と願うようになっていた。 ある夜、伯爵家のパーティに出席する事が認められたが、意地悪な姉に笑い者にされてしまう。 庭でパーティが終わるのを待つクラリスに、思い掛けず、素敵な出会いがあった。 レオナール=ヴェルレーヌ伯爵子息___一目で恋に落ちるも、分不相応と諦めるしか無かった。 だが、一月後、驚く事に彼の方からクラリスに縁談の打診が来た。 喜ぶクラリスだったが、姉は「自分の方が相応しい」と言い出して…  異世界恋愛:短編(全16話) ※魔法要素無し。  《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆ 

【完結】結婚式当日、婚約者と姉に裏切られて惨めに捨てられた花嫁ですが

Rohdea
恋愛
結婚式の当日、花婿となる人は式には来ませんでした─── 伯爵家の次女のセアラは、結婚式を控えて幸せな気持ちで過ごしていた。 しかし結婚式当日、夫になるはずの婚約者マイルズは式には現れず、 さらに同時にセアラの二歳年上の姉、シビルも行方知れずに。 どうやら、二人は駆け落ちをしたらしい。 そんな婚約者と姉の二人に裏切られ惨めに捨てられたセアラの前に現れたのは、 シビルの婚約者で、冷酷だの薄情だのと聞かされていた侯爵令息ジョエル。 身勝手に消えた姉の代わりとして、 セアラはジョエルと新たに婚約を結ぶことになってしまう。 そして一方、駆け落ちしたというマイルズとシビル。 二人の思惑は───……

兄を溺愛する母に捨てられたので私は家族を捨てる事にします!

ユウ
恋愛
幼い頃から兄を溺愛する母。 自由奔放で独身貴族を貫いていた兄がようやく結婚を決めた。 しかし、兄の結婚で全てが崩壊する事になった。 「今すぐこの邸から出て行ってくれる?遺産相続も放棄して」 「は?」 母の我儘に振り回され同居し世話をして来たのに理不尽な理由で邸から追い出されることになったマリーは自分勝手な母に愛想が尽きた。 「もう縁を切ろう」 「マリー」 家族は夫だけだと思い領地を離れることにしたそんな中。 義母から同居を願い出られることになり、マリー達は義母の元に身を寄せることになった。 対するマリーの母は念願の新生活と思いきや、思ったように進まず新たな嫁はびっくり箱のような人物で生活にも支障が起きた事でマリーを呼び戻そうとするも。 「無理ですわ。王都から領地まで遠すぎます」 都合の良い時だけ利用する母に愛情はない。 「お兄様にお任せします」 実母よりも大事にしてくれる義母と夫を優先しすることにしたのだった。

婚約者の為にと尽くしていた私ですが…ただのお節介女と言われ捨てられてしまいました。

coco
恋愛
婚約してからというもの、ずっと彼に尽くしてきた私。 しかし彼は、そんな私が疎ましくなってしまった様で…?

処理中です...