異世界転移物語

月夜

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無精髭の老人

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「この近くに集落でもあるんでしょうか?」

「それにしたって、こんなところで火をつけておく意味が分からない」

 火を絶やさないための設備なのだろうか。例えば定期的に見回りして火が消えないようにしておき、必要なときはここから火種をとるとか……。これなら有り得なくもないか。

「おい、誰だ!」

 僕が深い思考に沈んでいると、突然後ろから
怒鳴り声が聞こえてきた。慌てて振り返ると、そこには山男然とした無精髭の老人がいた。

「あ、すみません。怪しいものじゃないんです」

 慌てて安食さんが謝る。厳密に言えば、僕らはただ火を見ていただけなので、特段悪いことをしたわけでもないのだが。

「お前たち、初めてみる顔だな。ここら辺の者と違うだろ」

 老人は近づくと仁王立ちしながら、僕らを品定めするように睨んだ。

「はい。ここからはかなり離れたところで生活しています」

「それで、こんなところに何しに来た?」

 威圧的に迫られるとつい萎縮してしまう。僕の悪い癖だ。だが、冷静に考えると、今こそ、事の経緯と僕らが来た目的を伝えて、彼らのことも知る必要があることに思い至る。

「ええと……僕らは、僕ら以外の集団の方に出会うのが目的で森の中を歩いていたんです。確認したいんですが、あなたたちも日本からここに飛ばされてきたんですよね?」
 
 その老人は一瞬、怪訝そうな顔を見せたが、とりあえず理解したのか、穏やかな口調に変えて話し始めた。

「そうか。あんたらもこっちに飛ばされてきたのか。それならわしらと一緒だな」

 とりあえず話が通じたことに僕はほっとした。ただ老人の話の中で一点だけ気になった。

「さっき『わしら』と聞いたように思うのですが、そちらは何人で暮らしているんですか?」

「何人だと?」

 意外なことにその質問に対して、老人は予期せぬ反応を見せた。

「わしと妻の二人だけじゃが……。あんたらも二人じゃないのか?」

 僕と安食さんは思わず顔を見合わせた。そんなことって……。

「あなたと奥さんが一緒にこの森に来たってことですか?」

「ああ、そうだ」

 まったく想定外の事態に直面してしまった。これはさらに詳しく話を聞く必要がある。

「ええと、この近くに家があるんですかね?」

「ああ。そっちに行くか? あんたら、危険な奴らじゃないだろうな?」

 老人は警戒心をあらわにして、僕らをしばらく観察していたが、「こんな覇気のない奴にわしらをどうこう出来るとは思えんな」と、喜んでいいのか分からない評価が下り、警戒心を緩めてくれた。
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