異世界転移物語

月夜

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安食さん

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「そういえば、安食さんは結婚なさってるんですか?」

「あ、あ、そうね。一応、旦那はいるわ……」

「なんか歯切れ悪いですね。もしかして触れちゃいけなかったかな……」

 僕は決まりが悪くなり、最後はゴニョゴニョと言葉を濁した。

「そんなに気を使ってくれなくてもいいのよ。今、旦那とは離婚調停中なの。原因は旦那の浮気だけどね。残念ながら子供いなかったからその点で揉めることはないのだけれど……」

 安食さんの表情を見る限りでは、それほど深刻な案件ではないように思われ、とりあえず僕は安堵した。

「もし、また元の世界に戻れたなら、旦那とまたやり直せるかな、とかもちらっと思ったりするけど、やっぱりそれも無理そうな気がする。私は随分心境の変化があったけど、旦那のほうも変わらないと難しいんじゃないかな。いっそ、旦那と一緒にこの世界に来れば良かったのにとさえ思う」

「もしかしたら、旦那さんも別の場所に来てるかもしれませんよ」

「まあね。まあ、そんなこと考えてもしょうがないし。正直、今は自分が生きていくので精一杯かな」

 それぞれみんなドラマを抱えている。愛する人の一人や二人、みんないるものだ。それが夫や妻であったり、息子や娘であったり、他の家族であったり、友人や彼氏彼女であったり。

 この世界に来た人は、多かれ少なかれ、愛する人との突然の別れを否応なく経験させられるわけで、それを乗り越えることでそれぞれがまた強く生きていけるのだろう。

「健太君はどうなの? まさかその若さで結婚してるってことはないわね」

「おっしゃる通り、独身ですよ。今のところ結婚の予定もないです」

「彼女は? 彼女もいないの?」

 安食さんが妙に食いついてきてしまった。プライベートな話題は出来れば避けたいところだが、女の人が恋バナが好きなのはお決まりのようなものなので仕方ない。

「ノーコメント」

 それでも僕は素っ気なくかわした。

「ふうん。まあ、いいわ。じゃあさあ、優子ちゃんとはどんな関係?」

 どうしてみんなストレートな質問をぶつけてくるのだろう? よほど暇なのか。

「どんな関係と言われましても、ただの仲間です。それ以上でもそれ以下でもないですね」

「なんという当たり障りのない答えなのよ。健太君、まじめに答えてないでしょ。それに厳密にいうと『それより上でもそれ未満でもない』が正しいと思うけど」

 僕は思わず、立ち止まり安食さんを見た。突然、理屈を捏ねられたのは、僕の想定外だったからだ。
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