異世界転移物語

月夜

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懐かしき手掛かり

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 翌朝、僕と桂坂さんは昨日打ち合わせた通りに、北東方向に向けて探索を開始した。今回はなるべくまっすぐ進んでみる予定だ。迷子にならないようにしっかり目印の用意もしてある。

「桂坂さん、少し早足でも大丈夫?」

「うん。健太君こそ、平気なの?」

「やってみないと分からない」

 日帰り必須という限られた条件の中で成果をあげようと思えば、少々無理するぐらいは覚悟しないといけないだろう。頑張りすぎて帰り道でバテてもまずいが、元気な内になるべく遠くまで進んでおくのは有効だと思う。

 歩き始めてもしばらくは特段変わったものに出会わなかったが、十時を少し過ぎた頃だろうか、偶然、樹々の間に小さな池を見つけた。池というべきか沼というべきか。池の水はそれほど綺麗でなく、とても飲めそうな代物ではなかったが、上から覗いて見ても魚たちが少々生息してるのは分かった。大きさはざっと幅50メートルぐらいだろうか?

 ただ周辺に人の気配はなさそうだ。釣りをしている人はもちろん、周囲が踏み荒らされている形跡もなかった。

「誰もいないわね」

「ああ。ここに来たのは僕らが初めてか、あるいは相当久しぶりに人が来たってことだろうな」

 僕らは池を見るだけにして、さらに先へ進んだ。折り返すことを考えると、あまり悠長にはしていられない。

 その後、一時間ばかり歩を進めたが、どうもそのあたりが限界だった。

「結局、たいした成果はなかったけれど、今日はここまでにして引き返そうか」

「そうね。じゃ、ここで軽く食事しましょ」

 僕らは昨日、楓さんが持ってきていたちくわを昼飯代わりに持ってきていた。

「昼飯がちくわとはね……」

「文句言わないの」

 僕だってそれは冗談に決まっている。本音を言えば、むしろ、ちくわを食べれるのは有り難いぐらいだ。

 そして二人で座ってちくわを食べていると、包んでいた袋が風で地上を転がりながら少し飛ばされてしまった。それを何気なく見ていた僕は、あるものに目が留まった。

「あれって……」

「えっ」

 僕は立ち上がると、ちくわの袋を取りに行った。そしてその袋と一緒に、見つけたものを拾って帰った。

「これ見て」

「あっ」

 僕が差し出したものを見て、桂坂さんが驚きの声を上げた。

「なんでこんなところに、メロンパンの袋があるの!」

 それは市販のメロンパンの袋だった。メーカー名や賞味期限も読み取れる。間違いなく、僕らが元々いた世界の最新のものだ。

「誰かがここに居たんだよ。僕らの世界から転移してきた人が」

「本当にいたんだ」

 桂坂は興奮気味にメロンパンの袋を手にする。
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