異世界転移物語

月夜

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車明夫

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「俺を拉致しようとしてるんじゃないだろうな」

「そんなことしませんよ。どうしても疑うんなら、僕らの手を縛るでもなんでもしてください」

「……分かったよ。とりあえず、その家とやらに行こう。車には鍵をかけておくからな」

「それでいいです。詳しい話は歩きながらおいおい」

「ええと……君たちの名前は?」

「僕は田所健太、こっちは桂坂優子さん、そして中学生の風間陸です」

「俺は車明夫って言うんだ。自動車の車って書くんだぜ」

「珍しいですね」

「まあな。じゃあ、家とやらに行こうか」

「あっ、ちょっと待って」

    桂坂さんがストップをかけた。

「車の中には荷物があるんでしょ。それはこのままでもいいのかな?  どうせ持って帰るんなら少しでも手分けして運んだほうがよくない?」

    僕はトラックを見た。

「車さん、あの中には荷物がたくさん載ってるんですか?」

「ああ。ちょうど配達に出たばっかりだったからな……。おいおい、まさかあの荷物をかっぱらおうなんて言うんじゃないだろうな」

「いえ、その通りです。もうおそらくあの荷物は無駄になります。受取人の元に荷物が届くことはないと思います」

「なんでそんなことが言えるんだよ!」

「ここに来た人は誰一人として帰れていないからです!」

    僕はぴしゃりと言い放った。ただ、よく考えたらあの消えた人たちが元の世界に戻ってないとも言い切れないことに後で気がついた。

「そ、そうなのか……」

     車さんもようやく事の重大さと深刻さを悟ったようだ。さっきまでの反論は影を潜める。

「僕たちはなんとかこの世界で生き延びていく必要があります。そのためには役に立つものならなんでも欲しいんです。あの荷物も全部活かされます」

「……分かった。あの荷物を配達するのはもう諦めるよ。後ろのドアを開けるから、適当に持ってってくれ。ただ……そこで豹変して俺を襲うなんてことは無しにしてくれよ」

     荷台の箱の中にはたくさんの荷物があった。冷蔵シールの貼ってあるものもいくつかある。伝票を見れば中身は分かるから、冷蔵のものから先に運ぶことにした。

「陸は無理しないで軽いやつでいいぞ」

「大丈夫ですよ。中学生女子って結構力持ちなんですよ」

「私もちょっとは気遣ってよ」

    僕たちの軽口を聞きながら自らも荷物を抱えた車さんが口を開いた。

「なあ。車ごと行くってのは……無理だな」

    言いかけてやめた。この樹々の密集具合ではトラックがまったく役に立たないのは一目瞭然だ。

    とりあえず一人一箱抱えて帰途に着いた。
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