異世界転移物語

月夜

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三十日目の朝

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「かといって、こっちの状況だってかなり綱渡り的なのは間違いない」とドクター。

「もし、この後、新しく来る人がいなくなって、不定期の食物の補給とか絶たれたら、かなり厳しいですもんね。湖の魚だって、いつまで釣れるかわかりませんし」

    普段はあまり意見を出さない釣りキチさんまでが自分の考えを述べた。

「ちなみになんですけど、クラスメイトの何人かが同じように目眩がしたのはわかったんですが、逆にまったくそんな風にはならなかった友達もたくさんいたんです」

    今日来たばかりで、なかなかみんなの議論の輪に加われなかった海原君だったが、これは聞いてもらったほうがいいだろうと思ったのか、躊躇せずにその話をしてくれた。

「その友達はもうこっちには来ないってことなのかな……」と宙は考えこんだ。

「結局、まだまだサンプルが少な過ぎて、この現象の解明は無理だってことだな」

    議論の最後にはドクターがそうまとめた。

    その日からしばらくは、僕たちは大事件もなく、割と平穏に日々を過ごした。毎日一人、新しい人が来るパターンは、ずっと維持されていた。

    海原君のあとは、高校の数学教師の算田誠(さんだまこと)さん、車の部品工場の設備担当エンジニアの持田円治(もちだえんじ)さん、薬剤師の楠田まどか(くすだ)さん、左官の戸部慎太郎(とべしんたろう)さんと、専門技術を持つメンバーが次々と加わっていった。

    やはり不思議なことに、新しく来たメンバーに共通しているのは、比較的穏やかな性格でかつポジティブなところだった。これだけいれば、一人ぐらいは精神的に不安定なメンバーがいてもおかしくないと思うのだが……本当に不思議だ。

    そして、とうとう三十日目の朝を迎えた。その日の空は雲一つなく晴れ渡っていた。

「今日でお前さんが来てからちょうど一か月か。早いもんだな」

    朝、外で顔を洗っていた僕に、大工さんが声をかけてきた。

「ええ。いつの間にかって感じです。まあ、色んなことがありましたけどね」

    僕はそう言いつつ、そういえば大工さんも比較的早いうちにここに来たんだよな、と思い返していた。

「電気さんたち、元気でやってるかな?」

「さあ、どうでしょうね。もう現場に着いてるとは思うんですが、連絡手段がないからどうなってるのかさっぱりですね」

    僕は苦笑した。

「案外、こっちより設備が整った集落だったりしてな」

「だとしたら、連絡なんて面倒くさくなって、向こうで快適に暮らしてるかもしれませんね」

「ああ、電気さんならあり得るな」
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