160 / 319
宝泉さん
しおりを挟む
「そんな馬鹿な話……俺たちはどこか見知らぬ土地にタイムスリップでもしたと言うのか?」
今にでも笑い飛ばしそうな軽い雰囲気で僕たちに尋ねているが、その通りなので僕はやや強張りながら答えた。
「まあ、そんなものです。とにかく、ここでは常識外れなこともいくつかあるんです」
「ふーん……」
彼は目を落として考えこんだ。
「そういえばまだ名前聞いてませんでしたね。お名前は?」
「俺か? 俺は宝泉洋二(ほうせんようじ)。38歳、独身。岡山のホームセンターで働いてるよ」
「ああ、それでその台車ですか」
俺は傍らの鉄の台車に目をやった。
「ああ、仕事中でな。台車で商品運搬してたんだが、急にクラっと来て、気づいたらこんなところに来ていた」
「なんか一杯載ってますね」
「ああ、詰め込んだからな」
黙っていた桂坂さんがそこで口を挟んだ。
「ねえ。詳しい話は、家でしましょ。みんなに話すなら二度手間になっちゃうし」
「そうだな。そうしよう。宝泉さん、この近くに集落があるんです。僕らはみんなそこで生活してますから、宝泉さんも一緒に来てください」
「ほう。集落か……」
宝泉さんもそれは想像してなかったみたいだ。
「よし、行こう! まあ、それはいいが、どうするよ? これ」
宝泉さんが指差したのは台車だった。
「台車は流石に運べませんね……」
まさか台車が来るとは想定していなかった。みんなでえっちらこっちらと持ち上げて運ぶわけにはいかないし、もちろんキャスターで楽々移動ってわけにはいかない。
「しょうがねえな。それぞれ持てそうなもんを抱えて家まで行って、残りはここにしばらく置いとくか」
僕にもその方法しか思いつかなかった。おそらく置きっ放しにしておいても、雨さえ降らなければ支障はないだろう。今日の天気ならおそらく心配いらない。荒らしに来るような動物もいないし。
大物は置いておくことにし、僕たち四人は、それぞれ持てる程度の荷物を持って家に向かった。帰路の間、宝泉さんから詳しい状況を教えてもらったが、笑美さんが特に興味を持ったらしく、しきりに現れた時の様子を聞き出していた。
家に着くと料子さんたちが迎えてくれた。僕は帰路を歩きながら、少し考え直したことがあった。
「あの……まだ荷物を森の中に置いてあるんです。これから何人かで取りに行こうと思うんで、宝泉さんのことお任せしちゃって良いですか?」
僕の頼みを聞いた料子さんは「そういうことなら任しとき!」と快く受けてくれた。やはり、森の中に置きっ放しというのはちょっと気持ち悪い感じがする。
今にでも笑い飛ばしそうな軽い雰囲気で僕たちに尋ねているが、その通りなので僕はやや強張りながら答えた。
「まあ、そんなものです。とにかく、ここでは常識外れなこともいくつかあるんです」
「ふーん……」
彼は目を落として考えこんだ。
「そういえばまだ名前聞いてませんでしたね。お名前は?」
「俺か? 俺は宝泉洋二(ほうせんようじ)。38歳、独身。岡山のホームセンターで働いてるよ」
「ああ、それでその台車ですか」
俺は傍らの鉄の台車に目をやった。
「ああ、仕事中でな。台車で商品運搬してたんだが、急にクラっと来て、気づいたらこんなところに来ていた」
「なんか一杯載ってますね」
「ああ、詰め込んだからな」
黙っていた桂坂さんがそこで口を挟んだ。
「ねえ。詳しい話は、家でしましょ。みんなに話すなら二度手間になっちゃうし」
「そうだな。そうしよう。宝泉さん、この近くに集落があるんです。僕らはみんなそこで生活してますから、宝泉さんも一緒に来てください」
「ほう。集落か……」
宝泉さんもそれは想像してなかったみたいだ。
「よし、行こう! まあ、それはいいが、どうするよ? これ」
宝泉さんが指差したのは台車だった。
「台車は流石に運べませんね……」
まさか台車が来るとは想定していなかった。みんなでえっちらこっちらと持ち上げて運ぶわけにはいかないし、もちろんキャスターで楽々移動ってわけにはいかない。
「しょうがねえな。それぞれ持てそうなもんを抱えて家まで行って、残りはここにしばらく置いとくか」
僕にもその方法しか思いつかなかった。おそらく置きっ放しにしておいても、雨さえ降らなければ支障はないだろう。今日の天気ならおそらく心配いらない。荒らしに来るような動物もいないし。
大物は置いておくことにし、僕たち四人は、それぞれ持てる程度の荷物を持って家に向かった。帰路の間、宝泉さんから詳しい状況を教えてもらったが、笑美さんが特に興味を持ったらしく、しきりに現れた時の様子を聞き出していた。
家に着くと料子さんたちが迎えてくれた。僕は帰路を歩きながら、少し考え直したことがあった。
「あの……まだ荷物を森の中に置いてあるんです。これから何人かで取りに行こうと思うんで、宝泉さんのことお任せしちゃって良いですか?」
僕の頼みを聞いた料子さんは「そういうことなら任しとき!」と快く受けてくれた。やはり、森の中に置きっ放しというのはちょっと気持ち悪い感じがする。
0
お気に入りに追加
120
あなたにおすすめの小説
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う
こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。
億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。
彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。
四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?
道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!
気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?
※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。
謎の能力【壁】で始まる異世界スローライフ~40才独身男のちょっとエッチな異世界開拓記! ついでに世界も救っとけ!~
骨折さん
ファンタジー
なんか良く分からない理由で異世界に呼び出された独身サラリーマン、前川 来人。
どうやら神でも予見し得なかった理由で死んでしまったらしい。
そういった者は強い力を持つはずだと来人を異世界に呼んだ神は言った。
世界を救えと来人に言った……のだが、来人に与えられた能力は壁を生み出す力のみだった。
「聖剣とか成長促進とかがよかったんですが……」
来人がいるのは魔族領と呼ばれる危険な平原。危険な獣や人間の敵である魔物もいるだろう。
このままでは命が危ない! チート【壁】を利用して生き残ることが出来るのか!?
壁だぜ!? 無理なんじゃない!?
これは前川 来人が【壁】という力のみを使い、サバイバルからのスローライフ、そして助けた可愛い女の子達(色々と拗らせちゃってるけど)とイチャイチャしたり、村を作ったりしつつ、いつの間にか世界を救うことになったちょっとエッチな男の物語である!
※☆がついているエピソードはちょっとエッチです。R15の範囲内で書いてありますが、苦手な方はご注意下さい。
※カクヨムでは公開停止になってしまいました。大変お騒がせいたしました。
いらないスキル買い取ります!スキル「買取」で異世界最強!
町島航太
ファンタジー
ひょんな事から異世界に召喚された木村哲郎は、救世主として期待されたが、手に入れたスキルはまさかの「買取」。
ハズレと看做され、城を追い出された哲郎だったが、スキル「買取」は他人のスキルを買い取れるという優れ物であった。
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
ぽっちゃり女子の異世界人生
猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。
最強主人公はイケメンでハーレム。
脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。
落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。
=主人公は男でも女でも顔が良い。
そして、ハンパなく強い。
そんな常識いりませんっ。
私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。
【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる