異世界転移物語

月夜

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北の若者

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「まあ、気長にやるこったな」

     僕が効果の見られない堆肥づくり作業にくじけそうになるたびに、農家さんはそう言い残してゆく。農業というのはそもそも一日二日で結果が分かるものではなく、数ヶ月、あるいは数年のスパンで考えなくてはならないことも多い。都会の慌ただしい生活に慣れっこになっていた僕にとってはとても気の長い話だ。

    午前中の終わりに雨が降り始めたので、僕らは慌てて家に戻った。宙たちはずっと中で作業していたらしく、外から戻ったのは僕ら畑組だけだった。湖のほうでは雨が降っているか分からないが、少し前、大工さんが雨宿り用の簡易的な小屋を作ったので大丈夫だろう。それほど強い雨ではなく、このぐらいの雨なら時々降って、空気中の湿気を増やしてもらったほうが過ごしやすいように思う。

    昼食後には雨が上がった。今日は桂坂さんはこちらにいたので、以前のように二人で場に迎えに行く。

    昨日の大地さんの話が急に思い起こされた。今からここに出現する人も、もしかしたら地震を回避した幸運者なのかもしれない。もちろん本人の自覚はないだろうが。

   今回現れたのは、これまたガッチリとした体格の精悍な若者であった。僕や自転車君と同世代くらいだろうか?

 「ここ、どこや?」

    お決まりのパターンであるが、やはりその質問からすべては始まる。僕と桂坂さんは交互に彼に説明してやった。そのあと彼が語った内容は以下の通りである。

    名前は北野広(きたのひろし)。北海道十勝の農業高校の三年。今は実習中で、いきなりめまいに襲われ、気づいたらここに来ていたということだ。

    彼の話をよく聞いたところ、今までの例では見られなかった面白い事実があることが分かった。

   それは彼がめまいに襲われた時、同級生の一人も同じようにめまいに襲われているのを目撃したことだ。今までは本人だけがそういう現象になるパターンばかりだったが、複数人同時発生というのは新しいパターンだ。

   それにどんな意味があるのか分からないが、夜にでもみんなで検討したら何か意味を見つけられるかも知れない。

    ところで北野君と同時に一輪車もこちらに来た。農家さんの時と同じだ。一輪車には堆肥と石灰の袋が二袋ずつ。化成肥料と書かれた袋も一袋ある。あと野菜の苗が少々。農業実習中に校内の畑で堆肥まきをしようとしていたそうだ。

    僕は北野君に一緒に家に行くよう説得し、三人で集落へと向かった。集落についてから最初に畑にいた農家さんの元に彼を連れて行った。
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