異世界転移物語

月夜

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宙の挑戦

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    午後になり、僕と桂坂さんはいつものように場に行こうとしたが、宙が「僕も連れていって欲しいです」と言ってきた。自分自身では経験しているものの、まだ人が現れるという現象が信じられないらしい。今日は三人で行くことにした。

 「本当に毎日同じ時間に一人ずつ現れるんですか?」

    道すがら、今までに他の人にもさんざん聞かれた質問を、宙が投げかける。

「本当だよ。実際にその目で見れば納得するさ」

「白い靄がかかるんだけど、あの靄ってなんだろうね……」

    桂坂さんがつぶやく。

「あれもよく分からないんだよな。こちらとしてはあれで出てくるな、って分かるから、心の準備が出来て助かるんだが。まあ粋な演出ってとこか」

「疑問なんですが、もし出現する場所に誰かがすでにいた場合はどうなるんですかね?   例えば僕があの場所に立っていたら」

「えっ。そんなの考えたことなかったなあ。単に脇に弾き飛ばされるだけじゃない?」

    桂坂さんが適当に答えたのに対して、宙は意外なことを言った。

「僕、ちょっと思ったんですけどね。もしかしたら、新しく来る人が現れる場所にいたら、入れ替わりに元の世界に戻れるんじゃないかって」

「なんだって!」

「新しくこちらの世界に来る人がいるってことは、この世界のものがどんどん増えていくことになるじゃないですか。それでいいのかなあって思ったんです」

「だから元の世界に、その増えた分だけ移動していると考えたわけか」

    宙の考えには一理ある。僕らはこの世界にとっていわば異物、余計なものである。大げさに言えば、この世界の秩序をぶっ壊しかねない存在なのだ。世界のバランスを保つために、何かを取り去ることがあってもおかしくはない。

「私はなんだか無理があるような気がするわ。あの場所が特別な場所であるのは確かだけど、元の世界のほうは位置が特定できないわけで、単に入れ替わるとかそんな簡単な話では無いように思うのだけど」

    桂坂さんが彼女なりの見解を述べる。

「ええ。だから僕が今日、試してみようかと」

「宙があの場所に立っているってことか」

「はい」

    宙は好奇心に溢れたように目を輝かせる。確かにそれで元の世界に帰れることがわかれば、すべての問題は解決する。ノーベル賞級の大発見ではあるが……

「それは危険過ぎない?」

    桂坂さんが心配そうな顔をする。無理もない。この仕組みについて何も分かってないのに、憶測だけで無謀なチャレンジをするのは危険極まりないと思うのは常識的な判断だろう。
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