異世界転移物語

月夜

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食糧事情

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「よくもまあこんなに揃えたわね。準備万端じゃない」

     生果さんが感心する。

「うちの親は本当、キャンプ好きなんですよ。普通の家庭よりよく行ってると思います」

「私も公園でバーベキュしたり、キャンプ場に家族で出掛けたりしたことはあるけど。最近ブームではあるけどね……宙君たちは本格的にキャンプしてるみたいね」

    料子さんも思い出しつつ言う。

「食材は早いうちに使ったほうがいいですよね?」

「そうね。肉好きの健太君としてはやはりそこが気になるのね?」

    僕の問いに料子さんは笑いながら答える。

「今晩、食べてしまいましょう。残ったら明日のお昼で」

     僕は心の中でガッツポーズをした。

「そういえば、食糧のほうもそろそろ不足してきませんか?」

    桂坂さんがふと料子さんに尋ねた。彼女は料理には直接携わってないので、その辺りの事情は疎いのかもしれない。みんなも気を使ってか、その問題が会話の話題にのぼることはないから、僕もそれを忘れそうな時がある。僕もこの際、食料事情について知っておきたいと思った。

「そうね……。万全とはとても言い難いけれど、今のところは釣りキチさんが釣ってくる魚で急場はしのげてたわね。ただ、こう人数が増えてくると、これからは少しずつ厳しくなるかもね」

     料子さんの返答に生果さんが付け加えた。

「時々いいタイミングで新参者の差し入れがあるから、それでかなり助かっているわ」

     新参者の差し入れとは、今回のバーベキューの食材みたいに、新しく来た人がこちらの世界に持ち込んだもののことだろう。
日常食や非常食を今までも色んな人が持って来ている。僕自身も桂坂さんもわずかではあるが、非常食を持ってきた。確かに絶妙のタイミングで運に恵まれているとしか思えない。

「畑の方も農家さんが一生懸命やってるけど、収穫自体はまだまだだしな……」

「鳥や動物の狩りでも出来ればいいのだけど肝心の野生動物がいなくちゃね」

    僕の畑についての言及に続いて、桂坂さんが動物のことを指摘しながら、お手上げのポーズをした。

「桂坂さん、解体とか出来るの?」と僕。

「出来るわけないでしょ。でも農家さんとかなら出来そうじゃない?」

「適当だなあ」

    僕は半分呆れながら言った。

「野生動物がいない、ってどういうことですか?」

    宙が不思議そうな顔で問う。

「なぜかこの森には一切の動物がいない。猿もイノシシも熊もウサギも。鳥も全然いない。いるのは小さな虫だけなんだ」

     僕は答えながら思った。正直、森自体あまり入ったことがないので、普通森にどれくらいの動物がいるかなんて全く知らない。熊なんて滅多にいないかな……。
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