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幸せを感じること
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「私たちもいつか向こうの世界に戻れたらいいんですけどね……」
保育士さんがつぶやく。それはみんな同じ気持ちだろう。
「今のところ、なぜ俺たちが選ばれてここに来ることになったのか、それが分からないことには戻る算段もできまい。その共通項でも発見出来れば、事態は何かしら変わるかもしれないが」
スカウトさんがそうまとめた後も、僕たちはこの世界のこと、向こうの世界のことをみんなで話し合った。それぞれ向こうの世界に残してきた人もたくさんいる中で、そうした話をするのは辛い気持ちもあるだろうが、いつかは検討せねばならないことだ。今までそれについて深くは触れてこなかったので、今夜こうしてそれぞれの考えを出し合ったことは良かったと思う。
夕食後、理科さんは大工さんから、昨日頼んでいたものを受け取った。そして、昨日と同様、僕を外へ誘った。今度はランタンか懐中電灯が要るとのことだった。
外に出ると昨日と同様に、頭上には満点の星空が広がっていた。昨夜も感動したが、今夜もまたその素晴らしい光景に心を奪われてしまう。
「今夜はこれ使うわよ」
そう言って、外の平らな石の上にセットしたのは、先ほど大工さんから受け取った木製の観測道具だった。
「それ、何ですか?」
「高度計よ」
理科さんの説明によると、高度計というのは、星や太陽に照準を合わせ、それが位置している角度を調べる道具だそうだ。
「これで北極星の正確な高さが分かるわ」
台となる石は、大工さんの持っていた水準器で水平であることを確認済みらしい。あとは高度計がどのぐらいの精度で作られているかが問題らしいが、そこは大工さんの腕を信じたい、と理科さんは言っていた。
「よし」
数値を記録していた理科さんは声を出した。観測が無事に終わったらしい。
「データはとれたわ。北極星以外にもいくつかの星も見てみたから、あとはパソコンにデータ入力して詳細に分析すれば何か分かるかもしれない」
「すごいもんですね。こんな簡単な仕組みの道具なのに」
「そうね。人類ってすごいよね。もっと何千年も前から高度な天文観測技術を持っていたんですもの。昔の人は、星の動きを知ることが死活問題だった面もあるけど」
「今じゃ、スマホで世界の星空の様子も一目で分かる時代ですからね。逆に直に星を見る体験てあまり出来なくなっちゃってますけど」
「便利になるってのが、必ずしも幸せじゃないのかもしれないわね」
今、僕たちは普段の生活では味わえないシンプルな生活の中で、ささやかな幸せを感じる日々を送っている。辛く厳しいことのほうが多いが、それでもその中で本当に大切なものを感じることが出来たなら、それを幸せと呼んでもいいのではないだろうか。
保育士さんがつぶやく。それはみんな同じ気持ちだろう。
「今のところ、なぜ俺たちが選ばれてここに来ることになったのか、それが分からないことには戻る算段もできまい。その共通項でも発見出来れば、事態は何かしら変わるかもしれないが」
スカウトさんがそうまとめた後も、僕たちはこの世界のこと、向こうの世界のことをみんなで話し合った。それぞれ向こうの世界に残してきた人もたくさんいる中で、そうした話をするのは辛い気持ちもあるだろうが、いつかは検討せねばならないことだ。今までそれについて深くは触れてこなかったので、今夜こうしてそれぞれの考えを出し合ったことは良かったと思う。
夕食後、理科さんは大工さんから、昨日頼んでいたものを受け取った。そして、昨日と同様、僕を外へ誘った。今度はランタンか懐中電灯が要るとのことだった。
外に出ると昨日と同様に、頭上には満点の星空が広がっていた。昨夜も感動したが、今夜もまたその素晴らしい光景に心を奪われてしまう。
「今夜はこれ使うわよ」
そう言って、外の平らな石の上にセットしたのは、先ほど大工さんから受け取った木製の観測道具だった。
「それ、何ですか?」
「高度計よ」
理科さんの説明によると、高度計というのは、星や太陽に照準を合わせ、それが位置している角度を調べる道具だそうだ。
「これで北極星の正確な高さが分かるわ」
台となる石は、大工さんの持っていた水準器で水平であることを確認済みらしい。あとは高度計がどのぐらいの精度で作られているかが問題らしいが、そこは大工さんの腕を信じたい、と理科さんは言っていた。
「よし」
数値を記録していた理科さんは声を出した。観測が無事に終わったらしい。
「データはとれたわ。北極星以外にもいくつかの星も見てみたから、あとはパソコンにデータ入力して詳細に分析すれば何か分かるかもしれない」
「すごいもんですね。こんな簡単な仕組みの道具なのに」
「そうね。人類ってすごいよね。もっと何千年も前から高度な天文観測技術を持っていたんですもの。昔の人は、星の動きを知ることが死活問題だった面もあるけど」
「今じゃ、スマホで世界の星空の様子も一目で分かる時代ですからね。逆に直に星を見る体験てあまり出来なくなっちゃってますけど」
「便利になるってのが、必ずしも幸せじゃないのかもしれないわね」
今、僕たちは普段の生活では味わえないシンプルな生活の中で、ささやかな幸せを感じる日々を送っている。辛く厳しいことのほうが多いが、それでもその中で本当に大切なものを感じることが出来たなら、それを幸せと呼んでもいいのではないだろうか。
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