異世界転移物語

月夜

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北極星

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「私は5/20から来たばかりだから、6月と聞くと変な感じだけど、健太君は来てからもう10日以上経ってるわけだよね?」

   理科さんにそう言われて考えた。確かに僕が来た日から数えて13回目の夜を迎えている。仮に僕が目覚めた日が5/20でなく数日過ぎていたとしても6月上旬にぴったり一致する。

「はい。僕の感覚では今は6月上旬でもおかしくないんです」

   理科さんは大きくうなずくと今度は振り返って北の方へ顔を向ける。僕も北向きに体の向きを変えた。

「北側の星はちょうど家の裏側に隠れていて、ここからあまり見えないけど、北極星は確認できるわね」

「どれが北極星なんですか?」

僕は北の夜空を眺めながら理科さんに尋ねた。

「あら。小学校で北極星の見つけ方習わなかった?」

「すみません。忘れました」

    僕はなんだか学校で補習授業を受けている気分になった。

「じゃ、簡単なものからいこうか。ええと……北斗七星は分かる?」

    それなら分かる。大きなひしゃくの形のあれだ。

「はい」

「ひしゃくの汲むほうの先を伸ばした直線上の星が北極星よ」

「ええと……あれですか?」

    僕は視線を移動させたあと、空を指差した。

「正解。よく出来ました」

「北極星はほぼ真北にあるから、あれの高さを正確に測れば、ここの緯度が算出できるはず。ただし、北極星といえどずっと真北から動かないわけじゃなくて、一応回転はしてるんだけどね」

「へええ、そうなんですか」

「今は測定器がないから正確には分からないけど、見た感じではやはり日本の緯度くらいだと思うわ」

    やはりここは日本なのだろうか?

「でも日本て決まったわけじゃないわ。つまり日本と同じような北半球の中緯度帯のどこかってこと。アメリカやヨーロッパや他のアジア諸国かもしれない」

「なるほど」

   僕らはしばらく夜空を見つめ続けた。

「たまにはこうやって星を見上げるといいよ。ここは灯りもないし、空気もきれいだから最高だよ。もう少し視界が広ければ言うことなしなんだけどなあ……」

「そうですね……なんだか自分がものすごく小さな存在に感じられます」

「ほう。君って、なかなか感受性が豊かじゃない。そうやって日常から解放されて、星を見ながら『人生とは何か、己とは何か』ってしばらく考えてみるのも悪くないと思うな」

    こんなところまで来て、人生とは何ぞやと考えたところで、今更どうにもならないような気もするが、とりあえず理科さんのアドバイスは胸に刻み込んでおく。
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