異世界転移物語

月夜

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秘密基地

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「そういえば湖の近くって雨やどり出来るような場所ってあるんですか?」

   ナースさんが僕の顔を見る。今いる中で湖に実際に行ったことがあるのは、僕と桂坂さんだけだった。僕は湖の景色を思い浮かべた。

「うーん、なかったかなあ……」

草叢や葉が生い茂った樹はあるからある程度の雨避けにはなるが、隠れられるような洞穴とかはもちろんない。この世界には傘もないので釣りキチさんたちは持っていっていないから大雨になったら困るだろうな。

「釣りキチさんは多分、簡易ガッパを持ってると思いますよ。前に見たことあるような気がします」

    桂坂さんが記憶を呼び出す。

「保育士さんのほうは何も持ってないよね。この雨の中、どうしてるか分からないけど風邪ひかなきゃいいけどね」

   料子さんが心配そうな表情をする。

「まあ、土砂降りってこともねえし、気温もたけえから大丈夫だべ」

「スカウトさんたちはどうかな?」

「あ、スカウトさんと自転車君はレインコートを持ってるはずです」

    ナースさんの問いに僕は答えた。それは以前確認した。二人とも移動が多いので、常に持ち歩いているそうだ。携帯出来る安物のコートだが。

    農家さんの見立てではすぐに止むとのことだったが、雨はその後結局1時間以上降り続けた。ただ小降りの状態ではあったが。

    雨が止んだ後は農家さん一人で畑に戻った。土もべとべとだし、時間ももうそんなにないのでたいした作業は出来ないだろうという判断だ。僕は溜まった雨水を石桶に移す作業などをして、午後を過ごした。

   夕方になり、帰ってきた釣りキチさんと保育士さんに会うと、昼間の雨のことを聞いてみた。

「ああ、湖も少し降ったよ。でもそんなに大降りではなかったなあ……」

   こちらと違って湖では小雨程度だったらしい。

「でも、雨やどりしたよ。秘密基地で」

「秘密基地?  そんなものどこに」

    釣りキチさんはにやりと笑った。

「保育士さんに作ってもらったんだ」

   保育士さんが照れたように微笑む。

「私、手持ち無沙汰だったんで、なんかやることないかなあと思ってたら、ふと雨が降ったらどうなるんだろう?って考えたんです」

   なんという虫の知らせ。

「それで、木の枝とか草とか色々組み合わせて秘密基地作っちゃおうかなって。ほら、みんな子供の頃やったりするじゃないですか」

    そういえば僕も小さな頃、田舎の親戚の家に行った時、従兄弟たちと一緒に作ったことがある。とてもワクワクして面白かった記憶が薄っすらとある。あれは男の子の遊びだと思っていたが。
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