異世界転移物語

月夜

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研究道具

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「この中には何が入ってるんですか?」

「非常食とかかな。私、中学で非常用品のチェックをしてたんです。私が担当なんで生徒のいない日曜日にゆっくりやろうと思って。学校は緊急時の避難所になっていることもあって」

    僕のケースに近い。他にも誰か似たような人がいたはず。それぞれに共通点でもあるのだろうか。

「こっちは何ですか?」

    桂坂さんがプラスチックケースのほうを指差す。

「それは研究用具かな」

「へええ。どんなものが入ってるんです?」

「フィールドワーク、外での調査用の小型器具のセットなの。例えば、携帯顕微鏡、双眼鏡、水質検査セット、ガス濃度計とか、その他検査器具がいくつか」

「双眼鏡があるんですか!  それは使えそうですね」

     僕は驚いた。森の中は見通しは良くないが、例えば湖の向う岸を見たりするには役立つかもしれない。

「あ、それと電子百科事典も。そういえば、ここってスマホは使……えないわよね?」

「残念ながら」

「でも、通信はダメですけど、ソーラー式のバッテリーあるんで、スマホ自体を使うことは出来ますよ」

   それを聞いて理科さんは目を輝かせた。

「なら、スマホのオフラインで使えるアプリは使えるわね。私、オフラインで使えるデータアプリいくつか入れてるから」

「データアプリってもしかして理科年表みたいなデータが詰まったアプリですか?」

「よく分かったわね。まあ、そんなもん。理科年表だけじゃないわ。化学、天文学、地質学のデータは個別に入れてある」

    理科さんはちょっと自慢気だ。

「医療、防災、建築、生活などの豆知識がそれぞれアプリになったものがあってそれを入れてるの。まさか使うとは思ってなかったけどね」

「すごいですね。僕のスマホじゃ使えるのは英和辞典や国語辞典ぐらいですよ」

「理科さんならこの世界の謎も解けるかも!    なーんてね」

    桂坂さんが嬉しそうに言う。

    ほどなく僕らは家に着いた。すると家の入り口に大工さんが何か取り付けているところだった。

「よう!  そっちの白衣が新しい人か?  まさか理科の先生とかじゃねえだろうな」

「鋭い!」

    僕は声を上げたあと、大工さんに理科さんを紹介した。その間に、料子さんも出てくる。

「生果さんたちは畑ですかね?」

「そうね。午後はドクターも畑に行ってるわ」

「へええ。ドクターって見かけによらず、そういう仕事も好きなのかなあ」

「ところで大工さん、何やってるんです?」

    桂坂さんが再び仕事を続け始めた大工さんを呼び止める。
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