異世界転移物語

月夜

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行方不明

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「もうすぐ夕飯にしたいんだけど、釣りキチさんてまだ帰ってないですよね?」

    僕がドクターの家族について下世話な心配をしているところに、生果さんが近づいてきて僕たちに問いかけた。

「ええと……僕は見てないですけど……」

    戸惑いながら僕は答える。

「そういえば、釣りキチさんの姿見てないですね。まだ帰ってないんじゃないですか?」

と自転車君が言う。

「おかしいな……いつもはだいたい俺たちより先に帰ってることが多いのにな。もうすぐ暗くなるから、もう帰ってないといけない時間なんだが」

    スカウトさんが怪訝な顔をする。

「もしかして、どこかで倒れてたり……」

   自転車君が不安を口にする。

「その可能性はあるな。気分が悪くなって、湖あるいは帰り道で動けなくなっているとか」

「何かの危険に巻き込まれたってことはないですかね?」

「何かの危険て?」

    僕の推測にスカウトさんが逆に質問した。

「例えば……何かの怪物に襲われたりとか……」

    我ながら突拍子もない考えだと思う。言ったあとちょっと後悔した。

「怪物はともかく、湖で転落して溺れるって可能性もあるな」

  「心配ですね……」

    スカウトさんの危惧に生果さんも同意する。

「湖まで行ってみましょうよ」

    自転車君が提案したが、それは僕も考えていたし、スカウトさんもおそらくそのつもりだったのだろう。「ああ」と一言言ったあと、生果さんに告げた。

「俺と健太と自転車君の三人で今から湖まで行ってくる。他のみんなは動かないでここで待っててくれ。もし集落内を見回りたければ、必ず複数で行動すること。いいな」

「はい。分かりました。みんなにも伝えておきます」

「頼む」

    ドクターは僕らのやりとりを黙って聞いていたが、最後の最後で口を挟んだ。

「もし何か具合が悪くなっているようならすぐに診てやるから連れてこい」

     僕ら三人は懐中電灯や救急用品を持って、急いで出発した。もうすでに辺りは暗くなり始めており、懐中電灯やスマホで照らさないと歩きづらくなっている。月が出ているらしく、それなりに明るくはなっているが、月そのものは森の樹々に隠れているため、煌々と照らすような状態ではないのだ。この時間までに釣りキチさんが帰ってこないのはどう考えても変だ。何か異常事態が発生していると考えるべきだろう。

    湖までは走れば小一時間ほどで着くはずだ。途中で釣りキチさんに会う可能性もあるので、周囲に気を配りながら先を急いだ。

「いませんね……」

「ああ。こう薄暗いと、草叢の中に倒れていたら見逃すかもしれないから、よーく見とくんだぞ!」

    僕らは目を凝らして進んで、とうとう湖のほとりまで来た。ぱっと見たところ、釣りキチさんらしいシルエットは見当たらない。
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