異世界転移物語

月夜

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あの場所

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   その夜はなかなか寝付けなかった。十日経って、向こうの世界に残してきた家族や友人のことを再び思い出したからだ。今頃、どうしているのだろうか……。一方、大工さんは雑魚寝には慣れているのか、初日の夜でもあっという間に眠ってしまった。あの胆力は僕も見習いたい。

    翌日は大工さんが家で仕事をすること以外は、昨日と一緒な動きである。

「おい、今日はちょっと森へいくべ。スコップ持っていくからな」

    農家さんが早朝からそんなことを言うので、詳しく聞いてみると、森の腐葉土を採取して、畑に混ぜ込んで土づくりをするつもりらしい。今まで、土地を耕してきたが
、本格的に作物を植える準備に取り掛かるということだ。

「動物の糞はねえが、森の中には枯葉と虫がいるからいい腐葉土が手に入るべ。まあ、どんだけまともに作物が出来るかやってみねえと分からんが、打てそうな手は打っとかんとな」

    農家さんの指示でスコップを使って土を集め、一輪車で運ぶ。その繰り返しだった。畑のことは一切分からない僕にも、荒地がだんだん畑らしくなってきたのは分かった。

    午後になると、いつものように僕と桂坂さんは「場(ば)」に向かった。場とは新しい人の出現現場のことだ。今日の昼飯の際、この場所のことが話題になったのだ。

「昼からまたあの場所へ行くんだよね?」

料子さんが僕と桂坂さんに訊いた。

「ええ。どうかしたんですか?」

僕の聞き返しに料子さんが答えた。

「ああ、ちょっと思っただけなんだけど。ちょっとした食料とか治療道具とか持っていったらどうかなあ、って」

「ああ、なるほど。不慮の事態とかに備えるわけですね」

「いいですね! 早速そうします」

     桂坂さんもその案に乗った。

「あの……あの場所っていう言い方、なんか意味深な感じでちょっと嫌なんですけど」

    突然、ナースさんがそんなことを言い出した。

「それ、分かる。なんか訳ありの符号みたいで」

    生果さんの言葉に、何人かうなずいている。

「別の言い方とかないのかしらね。『新しい人の出現場所』じゃあ、長すぎるし味気ないし」

    料子さんがそう問いかけたので、僕は思いついた意見を言った。

「出現ポイント、とかどうですか?」

「長い!」

    自分としては分かりやすいと思っていたんだが、桂坂さんにあっさりダメ出しを喰らった。

「現場じゃ作業場みたいだし……人に会うから会場(あいば)とかはどうだい?」

   大工さん、なかなか良いこと言うな。僕は割といい名前だと思った。

「うーん……あいばねえ……」
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