異世界転移物語

月夜

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森と自転車君

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スカウトさんの希望に満ちた言葉は、僕の心まで明るくしてくれる。ただの缶からそんな風に考えられるのっていいなと思った。

「そういえば、今日自転車君と一緒に森の中を探索したんだが、やはり方位磁石があると助かるな。正確に方角が分かると、迷わずに進める」

    話題は変わって、今日の森の探索の話になった。スカウトさんたちは、簡単な手書きの地図を持って探索していたはずだ。探索するたびに書き込みが増え、かなり内容も充実している。それに加え、方位が正確に分かれば確かにスムーズに移動出来るのかもしれない。

「体力には自信あったんですが、結構疲れますね~」

     話す内容とは裏腹に、自転車君は僕から見たらまったく疲れてないように見える。

「正直、森を抜けられないわけないじゃん! とタカを括っていたんですが、甘かったです……ありゃ、なかなか無理そうですね」

    一日歩き回ってそれを悟ったようだ。そうだろ。今まで僕やスカウトさんが散々歩き回っても、何も見つけられなかったんだから。こんなことで優越感に浸るのも大人気ないが、悪い気持ちはしなかった。

「それでも探索はこれからも続けていかなくちゃならん。人が増えてくれば、ここもだんだん手狭になってくるだろうし」

    スカウトさんは真剣な表情でそう言ったあと、一言付け加えた。

「まあ、それはかなり先の話だとは思うが」

    その後の夕食には、大工さんが即興で作った箸が登場した。今までも木を削ったものを使ってはいたのだが、あまり「本格的ではなかったので、出来た箸を見てみんな感心した。大工さんは、大物だけではなく、ちょっとした木工細工も得意なようだ。

「家の修理のついでに、小物も色々作ってもらうと助かるかもね」

    箸を見ながら生果さんが言った。

「例えばどういうものです?」と僕。

    生果さんは少し考えたあと、唸りながら答えた。

「うーん、しゃもじとか木のスプーン。お盆とかお皿とか汁椀とか。木箱なんかもあると便利かもね」

「そう言われてみると色々ありそうですね」

     僕がなるほどと感心していると、大工さんが笑って言った。

「そんなに色々出来ねえよ。せめて接着剤でもあれば」

「あ、接着剤なら僕持ってますよ」

     聞くと、木工用ボンドと多用途の瞬間接着剤はいつも持ち歩いていたそうだ。

「咄嗟のときに何かと役に立つので」

「そりゃ助かる。まあ、小物は様子を見ながらだな。家の修繕とかそっちの方が先だろ」

 「そうだな。いずれにしても大工さんは日中も家で仕事してくれ」

    スカウトさんがそう判断したのは正解だと思う。技術を持った人は、なるべくそれに応じた仕事をやってもらうのが効率的であろう。逆に僕や自転車君は、なんでもやりますという姿勢で必要な仕事をするのがベストではなかろうか。
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