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十人目
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午後になると桂坂さんと共に、今日来る人の迎えに行った。もうすっかり当たり前になってきて、あまり緊張感がなくなったが、よく考えてみると、今日もまた同じように新しい人が出現する保証なんて何もない。あくまで経験に基づく予測にしか過ぎない。それはいつも肝に銘じておきたいと思う。
午後1時になり、例の靄が現れた。続いて姿を見せたのは、一目で職業が分かる男の人だった。
「こりゃ、どうしたんだ?」
戸惑いながら、キョロキョロと辺りを見回すその男の人は、僕らにすぐに声をかけてきた。特に怯えたりはしてないようだ。
「ああ、何と言えばいいのか分かりませんが、落ち着いて聞いてください」
「はあ?」
「ええと……ここは森なんですが、その……」
「もう~、ちゃんと説明しなさいよ。森なんて言わなくても分かるでしょ!」
僕との応答がまどろっこしくなった桂坂さんがお冠だ。僕から会話役を引き継いだ。
「あなた、大工さんですよね?」
「ああ、そうだが」
「大工さんは、謎の力でこの世界に飛ばされたんです」
「なんだって」
「ここは私たちがいた世界とは異なる世界なんです。たぶん。どうしてこんなことになったのかは分かりませんが、大工さんは私たちと同様、この世界に無理矢理送り込まれたんです」
「……」
桂坂さんの説明もかなり強引だと思う。案の定、大工さんも理解が追いついていないようで返す言葉もないらしい。
「この森はどこまでも続いていて、今のところ脱出出来る方法が見つかっていません。そのかわり、この近くに集落があって、私たちはそこで生活しています。今は九人居て、あなたが十人目です」
「森から出れない……そんなことがあるのか……」
大工さんもやっと現状を認めたようだ。僕らにとってもまだ分からないことだらけなのだ。そう簡単には受け止められなくても致し方ない。
「ここで詳しく話すより、実際に集落を見てもらってから話した方がいいと思うので、今から一緒に行きましょう」
ここは僕がびしりと締めた。僕も少しは仕事しないとな。
大工さんーーー僕らは見た瞬間に分かった。耳に釘を挟んで、腰に道具袋を付けていたからだ。袋からカナヅチが顔を覗かせている。それだけじゃない。うまく説明出来ないが、全身から職人気質的オーラが出ている。
大工さんはビニール袋を二つぶら下げていた。どうやら仕事で作業をしていたわけではないらしい。ビニール袋の中身はなんと缶コーヒーやら清涼飲料水のペットボトルやらたくさんの飲み物だった。
午後1時になり、例の靄が現れた。続いて姿を見せたのは、一目で職業が分かる男の人だった。
「こりゃ、どうしたんだ?」
戸惑いながら、キョロキョロと辺りを見回すその男の人は、僕らにすぐに声をかけてきた。特に怯えたりはしてないようだ。
「ああ、何と言えばいいのか分かりませんが、落ち着いて聞いてください」
「はあ?」
「ええと……ここは森なんですが、その……」
「もう~、ちゃんと説明しなさいよ。森なんて言わなくても分かるでしょ!」
僕との応答がまどろっこしくなった桂坂さんがお冠だ。僕から会話役を引き継いだ。
「あなた、大工さんですよね?」
「ああ、そうだが」
「大工さんは、謎の力でこの世界に飛ばされたんです」
「なんだって」
「ここは私たちがいた世界とは異なる世界なんです。たぶん。どうしてこんなことになったのかは分かりませんが、大工さんは私たちと同様、この世界に無理矢理送り込まれたんです」
「……」
桂坂さんの説明もかなり強引だと思う。案の定、大工さんも理解が追いついていないようで返す言葉もないらしい。
「この森はどこまでも続いていて、今のところ脱出出来る方法が見つかっていません。そのかわり、この近くに集落があって、私たちはそこで生活しています。今は九人居て、あなたが十人目です」
「森から出れない……そんなことがあるのか……」
大工さんもやっと現状を認めたようだ。僕らにとってもまだ分からないことだらけなのだ。そう簡単には受け止められなくても致し方ない。
「ここで詳しく話すより、実際に集落を見てもらってから話した方がいいと思うので、今から一緒に行きましょう」
ここは僕がびしりと締めた。僕も少しは仕事しないとな。
大工さんーーー僕らは見た瞬間に分かった。耳に釘を挟んで、腰に道具袋を付けていたからだ。袋からカナヅチが顔を覗かせている。それだけじゃない。うまく説明出来ないが、全身から職人気質的オーラが出ている。
大工さんはビニール袋を二つぶら下げていた。どうやら仕事で作業をしていたわけではないらしい。ビニール袋の中身はなんと缶コーヒーやら清涼飲料水のペットボトルやらたくさんの飲み物だった。
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