異世界転移物語

月夜

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八人目

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    昼飯前にナースさんに聞き取りをして、新たな情報を得た。ナースさんは、現在28歳独身。埼玉県で一人暮らしをしている。中程度の規模のクリニック勤務。両親は健在で、姉とともに長野県に居るそうだ。

    大規模病院に勤務したあとクリニックに移ったので、色んな患者さんの対応経験があるとのこと。やはり頼りになる存在だ。

    僕は早速そういった内容をメモしていった。人命と項目に区切られた表を作成していたが、今の段階ではそれにとらわれすぎることなく、自由に書き込んでいくことを意識していた。

    今日も釣りキチさんは湖に行っているので、残りの六人で昼食を摂る。ナースさんは午前中、料子さんと一緒に動いていたようだ。昼食時にもさりげなく僕らの健康状態を気にかけてくれた。

    昼飯が終わると、僕と桂坂さんはまたあの場所に向かう。これがこれからも毎日延々と続くのだろうか。気の遠くなる話だが、逆にそれがもし途切れたなら、これほど不安になる話もないだろうと思えた。

「昨日はほんといいタイミングでナースさんが来てくれたよな?」

「そうね。まるで神様が見てるみたい」

    なるほど。やはり、そういう感覚があるのか。桂坂さんも僕と同じようなことを考えているのだろう。この世界は偶然に仕組まれたわけではないのではないか。

    ご都合主義を地でいくような展開であるが、僕らとしては偶然の幸運なしでは生き延びられなかったかも知れない。集落があったこともそうだし、湖があり釣りキチさんが来たこともそうだし、喫緊の食料を各自が持ったままこちらに来たことも、昨日のナースさんの来訪もそうだ。運命は一体どこへ僕らを導こうとしているのだろうか。

    そしてまた今日も誰かがこの地を訪れる。時間になった。靄がかかる。

「え、ど、どこ?」

    靄の中から現れたのは女の人だった。少しパニックになっているようだ。料子さんより少し若いぐらいだろうか。それに彼女と一緒に、食べ物なとがたくさん入った買い物用のカートも出現した。

「落ち着いてください。何も心配要りませんから」

    慎重に言葉を選びながら桂坂さんが声をかけた。女性ということもあって、僕は桂坂さんに任せることにした。

「ここはとある森の中です。信じられないかも知れませんが、あなたはここに転送されたんです」

「転送?」

「仕組みはよく分からないのですが、いきなりこちらの世界に飛ばされたんです」

「世界……今、世界って言いましたよね?    ここは現代日本ではないのですか?」
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