異世界転移物語

月夜

文字の大きさ
上 下
51 / 319

名簿

しおりを挟む
「いいじゃない。似合ってるし。当たり前だけど」

    料子さんがさらっと言って、その問題は解決。僕らはその後少し打ち合わせをした後、夕食までの短い時間にそれぞれがやれることを進めた。

    そのうちに湖から釣りキチさんが帰ってきた。

「ただいま~。あっ!」

    家に入るなり、素っ頓狂な声をあげた。もちろんナースさんを目にしたからだ。

「びっくりしたあ……ナースさんがいるとは!  もしかして今日来た人?」

「はい。深沢亜希っていいます。前の世界では病院勤務の看護士でした」

「そ、そりゃ、どうも。ぼ、僕は佐川三平っていいます。皆さんからは釣りキチさんと呼ばれてます」

    ナースさんを前にして緊張しているのだろうか。釣りキチさんは少し吃った。それにしても釣りキチさんの本名なんてすっかり忘れてた。聞いたのは来た日以来だよ。

「あ、そこっ」

    ナースさんが釣りキチさんを見ながら声を出した。

「血が出てるじゃないですか!」

    見ると、釣りキチさんの手首から少し血が出ていた。

「平気ですよ、こんなの。ちょっと擦りむいただけですから」

「ダメです。こんなとこでばい菌が入ったら危ないですよ!  今、処置しますからちょっと待っててくださいね」

    最初は遠慮していた釣りキチさんも、そうまで強く言われては断るわけにもいかなかったのだろう。大人しく、ナースさんの治療を受けた。

「いや、まあ。やっぱ、こういう時、ナースさんが居てくれると助かりますね」

    釣りキチさんは照れ隠しなのか、いつもより雄弁になっている。

    その後夕食となったが、その前に農家さんの様子を確認した。農家さんは少し良くなったみたいだったが、まだご飯はいらないと僕たちに言ったので、農家さんを除く六人で夕食をとった。

    僕はその夕食の席上である一つの提案をした。さっきの釣りキチさんとナースさんのやりとりを聞いて、思いついたことがあったからだ。

「あの、提案なんですが……」

「なんだ?」とスカウトさん。

「僕たちの名簿みたいなものを作ったらどうでしょうか?」

「名簿か……どうしてそう考えたんだ?」

「僕たちこれから増えていけば、誰がいるのかも把握することが難しくなるでしょうし、そもそも本名とか誰も覚えてないでしょう。本名や生年月日、血液型、持病などのデータをまとめておくことで、誰でもすぐにいろんなことに対応出来ると思うんです」

「看護士の視点からは歓迎ね」とナースさん。

「それに、前の世界での住所や連絡先、家族なども記録しておいたほうがいいと思います。何かのキッカケで、もし戻れることがあったなら、その時は本人でなくても家族と連絡取れたりできますから」
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

潦国王妃の後宮再建計画

紫藤市
ファンタジー
内乱の末に潦国の第九代国王に就いた游稜雅は、宰相の娘である桓蓮花を妃として娶った。王妃として後宮で三食昼寝付きの怠惰な生活を送れることを期待して嫁いできた蓮花は、後宮として使用される殿舎が先の内乱で焼け落ちて使えないことや、自分以外の妃がいないことに驚く。王は、戦禍を被った国を復興させるため、後宮再建に使える国費はほとんどないと蓮花に告げる。後宮必要論を唱え、なんとか後宮を再建させようと蓮花は動き始めるが、妃はひとりで良いと考える王や国費の浪費を心配する大臣たちの反対以外にも蓮花の計画を邪魔をする存在が王宮には跋扈していることが明らかになっていく――。 王宮にあるべき後宮を再建しようとする新米王妃の蓮花と、なりゆきで王に即位したものの一夫一妻が希望で妃の計画を阻止したい(蓮花ひとりを寵愛したい)稜雅の、なかなか平穏無事に新婚生活が始まらない王宮立て直し(王妃は後宮の建て直しも希望)の顛末。

転生令嬢は現状を語る。

みなせ
ファンタジー
目が覚めたら悪役令嬢でした。 よくある話だけど、 私の話を聞いてほしい。

人の身にして精霊王

山外大河
ファンタジー
 正しいと思ったことを見境なく行動に移してしまう高校生、瀬戸栄治は、その行動の最中に謎の少女の襲撃によって異世界へと飛ばされる。その世界は精霊と呼ばれる人間の女性と同じ形状を持つ存在が当たり前のように資源として扱われていて、それが常識となってしまっている歪んだ価値観を持つ世界だった。そんな価値観が間違っていると思った栄治は、出会った精霊を助けるために世界中を敵に回して奮闘を始める。 主人公最強系です。 厳しめでもいいので、感想お待ちしてます。 小説家になろう。カクヨムにも掲載しています。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

元英雄 これからは命大事にでいきます

銀塊 メウ
ファンタジー
異世界グリーンプラネットでの 魔王との激しい死闘を 終え元の世界に帰還した英雄 八雲  多くの死闘で疲弊したことで、 これからは『命大事に』を心に決め、 落ち着いた生活をしようと思う。  こちらの世界にも妖魔と言う 化物が現れなんだかんだで 戦う羽目に………寿命を削り闘う八雲、 とうとう寿命が一桁にどうするのよ〜  八雲は寿命を伸ばすために再び 異世界へ戻る。そして、そこでは 新たな闘いが始まっていた。 八雲は運命の時の流れに翻弄され 苦悩しながらも魔王を超えた 存在と対峙する。 この話は心優しき青年が、神からのギフト 『ライフ』を使ってお助けする話です。

かの世界この世界

武者走走九郎or大橋むつお
ファンタジー
人生のミス、ちょっとしたミスや、とんでもないミス、でも、人類全体、あるいは、地球的規模で見ると、どうでもいい些細な事。それを修正しようとすると異世界にぶっ飛んで、宇宙的規模で世界をひっくり返すことになるかもしれない。

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

処理中です...