異世界転移物語

月夜

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急変

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    お昼になり家に戻ると、スカウトさんたちはもう昼飯の準備を始めていた。あと一人居ないようだが。

「釣りキチさんは?」

「ああ。釣りキチさんは、今日は昼は帰って来ないって」

     料子さんが手を拭きながら答える。

「ほら、湖まで往復するのも結構大変じゃない。だから夕方までぶっ通しでやるってさ」

「お弁当……ってほどじゃないけど、昼飯になるようなものは渡したけどね」

    料子さんに続いて桂坂さんが僕に教えてくれた。

「そうなんだ。確かにその方が合理的だな」

「むしろ、今までそうしなかったのが不思議なくらいだよな。ところで健太のほうはどうだい?」

    スカウトさんが僕に訊く。僕は大きくため息をついた。

「正直、しんどいです……」

「おいおい、もう音を上げたのかい」

「いえ、もちろんまだまだやりますけど。いつもはこんな力仕事しないんで慣れてないだけだと思うんです」

    するとそれを聞きとがめた農家さんが、僕を軽く叱り飛ばした。

「あんなのを力仕事っていうようじゃ、先が思いやられるわい。あれぐらいガキんちょでもやるべ」

「はあ……」

    僕には反論するだけの気力もなかった。とりあえず、飯食ったら少し休もう。

「午後からはまた健太と桂坂さんで迎えに行ってくれ」

    昼飯をとりながら、スカウトさんが僕らに言った。しばらくはそれは僕らの仕事になりそうだ。

「うぅっ……」

    黙々と昼飯を食べていた農家さんが、突然呻き声を上げた。

「どうしたんです? 農家さん」

    スカウトさんが心配そうに声をかける。僕らも何が起こったか分からず、農家さんの様子を見守った。

「腹が……お腹が痛え……」

「大丈夫ですか!」

    駆け寄った料子さんが、農家さんのお腹をさすって介抱する。

「吐きそうだ……」

    料子さんに連れられて農家さんは外に出た。すぐに、ゼイゼイしている農家さんの声が聞こえた。僕らの食事の手は自然に止まり、事の成り行きをただ不安そうに待つだけだった。

    しばらくして二人は中に戻ってきた。

「吐いちゃったけど、まだお腹痛いみたい。誰か薬とか持ってないかなあ……」

    農家さんを寝かしながら、料子さんは僕らを見渡した。しかし、誰もそれに応える者はいなかった。残念ながら、僕も薬の類は持出袋に入れていない。せいぜい絆創膏ぐらいだ。

「すまん。俺も持ってないんだ。何か薬草でもあればいいんだが、そこまでの知識は俺もない……」

    スカウトさんが申し訳なさそうに言う。

「痛え……」

農家さんが横になった姿勢のまま呻く。
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