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農家さん
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今度は僕が答えた。
「ええ、家が十軒ぐらい集まった集落があります」
「集落なら村人もたくさんいるんか?」
「いえ。信じられないことですが、村人は一人もいないのです。僕たちだけなんです」
「誰もいない……」
米本さんはあまりの想定外の状況のためか、絶句した。
「何故かは僕たちにもよく分かりません。でも家だけがあるんです。僕らはそこで寝泊まりしています」
「そうなんか……」
米本さんは、現実を受け入れられただろうか。とりあえず真摯に僕たちの話を聞いてくれたのは助かる。
「今からその家に一緒に行きましょう」
桂坂さんが米本さんを促した。
「ああ……そうじゃの、そうすっか」
米本さんは少し迷っていたが、他にするあてもなく、結局、僕たちについてくることになった。
「それは何の苗ですか?」
一輪車を押しながら歩く米本さんに僕は尋ねた。
「ああ、これか。これは野菜の苗じゃ。色々あるぞ。それからこっちの袋には種が入っとる」
「大きい農家さんなんですか?」と桂坂さん。
「いや、そうでもないべ。周りにゃあ、わしんちより大きな農家はいくらでもあるだべ。わしは趣味にちと毛が生えた程度じゃ」
僕から見たら気のいいおじさんにしか見えないけれど、野菜や果物の知識が豊富ならこれから生活してゆく上ですごく頼りになりそうだな、と思った。
家に着くと、僕らの話し声を聞いて、料子さんが出てきた。
「あらあら、お帰りなさい。この方が新しいお方ね」
「ええ、農家の……」
「米本と申しますじゃ」
桂坂さんはまだ名前を覚えきれなかったらしい。
「へええ、農家さんなんですか」
料子さんは感心したような声を上げる。
「ああ、わしんちは農家じゃ」
「じゃあ、やっぱり農家さんてお呼びしていいかしら」
そんな安易な、と僕は思ったが、米本さんは意外にも呼び名にはこだわらなかった。
「別に構わねえ。呼びやすい呼び名で呼んだらいいべ」
僕たちは家の中に農家さんを連れて入った。
「ほう、そこそこまともな家じゃのう」
「農家さんて、何か食べ物とか持ってきてます?」
「食べ物じゃと? いや、何も持っとらん」
「そうですか。それじゃ、みんなの食材を分け合う形で毎食食べるようになると思います」
「そういえば、食べ物はどうしとるんじゃ? 来るとき見た限りでは畑とか田圃とかないみたいじゃったが」
「少し離れたところに湖があって魚が釣れるのと、皆が持ってきている食料を取り崩して食べてます」
「魚が釣れるのか……なるほど」
そのあと、しばらく農家さんに色々と説明していたが、この後、晩飯までどうするかは決めてなかったことに気づいた。今はスカウトさんも釣りキチさんも居ないし、困ってしまった。
「ええ、家が十軒ぐらい集まった集落があります」
「集落なら村人もたくさんいるんか?」
「いえ。信じられないことですが、村人は一人もいないのです。僕たちだけなんです」
「誰もいない……」
米本さんはあまりの想定外の状況のためか、絶句した。
「何故かは僕たちにもよく分かりません。でも家だけがあるんです。僕らはそこで寝泊まりしています」
「そうなんか……」
米本さんは、現実を受け入れられただろうか。とりあえず真摯に僕たちの話を聞いてくれたのは助かる。
「今からその家に一緒に行きましょう」
桂坂さんが米本さんを促した。
「ああ……そうじゃの、そうすっか」
米本さんは少し迷っていたが、他にするあてもなく、結局、僕たちについてくることになった。
「それは何の苗ですか?」
一輪車を押しながら歩く米本さんに僕は尋ねた。
「ああ、これか。これは野菜の苗じゃ。色々あるぞ。それからこっちの袋には種が入っとる」
「大きい農家さんなんですか?」と桂坂さん。
「いや、そうでもないべ。周りにゃあ、わしんちより大きな農家はいくらでもあるだべ。わしは趣味にちと毛が生えた程度じゃ」
僕から見たら気のいいおじさんにしか見えないけれど、野菜や果物の知識が豊富ならこれから生活してゆく上ですごく頼りになりそうだな、と思った。
家に着くと、僕らの話し声を聞いて、料子さんが出てきた。
「あらあら、お帰りなさい。この方が新しいお方ね」
「ええ、農家の……」
「米本と申しますじゃ」
桂坂さんはまだ名前を覚えきれなかったらしい。
「へええ、農家さんなんですか」
料子さんは感心したような声を上げる。
「ああ、わしんちは農家じゃ」
「じゃあ、やっぱり農家さんてお呼びしていいかしら」
そんな安易な、と僕は思ったが、米本さんは意外にも呼び名にはこだわらなかった。
「別に構わねえ。呼びやすい呼び名で呼んだらいいべ」
僕たちは家の中に農家さんを連れて入った。
「ほう、そこそこまともな家じゃのう」
「農家さんて、何か食べ物とか持ってきてます?」
「食べ物じゃと? いや、何も持っとらん」
「そうですか。それじゃ、みんなの食材を分け合う形で毎食食べるようになると思います」
「そういえば、食べ物はどうしとるんじゃ? 来るとき見た限りでは畑とか田圃とかないみたいじゃったが」
「少し離れたところに湖があって魚が釣れるのと、皆が持ってきている食料を取り崩して食べてます」
「魚が釣れるのか……なるほど」
そのあと、しばらく農家さんに色々と説明していたが、この後、晩飯までどうするかは決めてなかったことに気づいた。今はスカウトさんも釣りキチさんも居ないし、困ってしまった。
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