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昔話&童話

✦フェアリー・イン・ラブ

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 そこは、聖樹・・大陸の南。
 奥地に隠されている妖精の森だ。
 別名、迷いの森とも呼ばれている。
 よそ者がその森に足を踏み入れると、九割九分、濃い霧によって五里霧中となってしまうからである。
 そんな安全な森で、妖精たちは、いつものようにスローライフを満喫していた。

「はぁ 退屈ねぇ……」

 少女の名前はルミナ。
 そんな生活を退屈に思っている王女様だ。
 寛大な妖精王の一人娘である。
 耳が長く、羽が生えており、金髪が美しい。
 少女とはいっても、妖精に寿命らしい寿命はないので、見た目が幼いというだけの二千歳を超える立派なおば……これ以上言ったら、ルミナが烈火のごとく激情するので割愛させていただこう。
 ともあれ、時間にルーズな妖精を快く思っていなく、外の世界に関心がある、好奇心旺盛な少女であった。
 そして、妖精王の次に魔力量が多く、すべての属性に適性がある異例の存在でもあった。


(だいたい、妖精は怠惰すぎるのよ。
 代々この森を管理し、勇者の剣を守るという使命を放棄して、ただのんびりと生活しているだけなんだもの)

 ルミナはぐるぐると空中を回りながら考える。

 ちなみに、妖精には様々な能力がある。 
 羽を生やし、空を飛ぶ能力。
 他人に加護を与えることができる能力。
 言葉の真意をつかむため、どんな言語でも意味が伝わり、そして嘘が分かる能力。
 マークした人物の声なら、どんなに遠くにいても、聞こえる能力。
 上記の四つがある。
 実際には加護を与えているのは妖精ではなく精霊なのだが、そこは割愛させていただこう。

 そして、妖精には二つの使命が与えられている。
 一つは、聖なる力の宿る、この森を管理すること、
 一つは、強大な力を持つ、勇者の剣であるルクの剣を守ること、
 神々によって定められた、使命である。
 そのため、妖精は森から外に出てはいけない、という掟がある。
 妖精の森は長い間外界と隔絶されていた。

 妖精の森は、完全自動でよそ者を寄せ付けない。
 妖精に危機感はなく、怠惰に何もせずに生きていた。
 生きているというより、まだ死んでいないだけだった。


「もう、みんな馬鹿ね。
 ただ生きるだけじゃ、何も面白くはないのに……
 人族のように好奇心ってものがなくちゃッ!」

 ルミナは人族にあこがれている。
 寿命が短いなりに、工夫し精いっぱい生きている人族を尊敬し、自分もそんな人間のようになりたいと思っていた。
 何もしないで、突然病気で死んでしまうような妖精はあまり好きではなかった。



 そんなルミナには秘密がある。
 誰にも言えない秘密だ。

(誰もいないわね?
 今のうちよ!)




 ルミナは時々、森から抜け出して、海岸へ行っていた。
 掟を破っていたのである。
 時々いなくなるルミナを皆怪しがってはいた。
 しかし、もともと変な子だと周りに思われていたルミナは余計な詮索をされることもなかった。

「えへへ~
 私のコレクション達~
 お待たせ~」



 その行動の目的は一つ。
 人族を知りたい。
 人族は好奇心旺盛で、独特な発想を持ちいろいろなものをゼロから作り出す。
 そんな人族の考えをもっと理解したいと思ったのだ。
 だから、人族の道具を集めていた。
 そのコレクションの数はもはや百を超え、近くの洞穴へ収納している。

 銀色の皿やフォーク、魔石などいろいろなものを集めていた。
 もっとも、本人はそれらを鏡や櫛、装飾品などだと思っていた。

 そんな彼女は、今日も今日とて、海岸で変な物の物色をしていた。

「何かしら、この布?
 三角形でリボンが付いていて、なんだかかわいらしいわ。
 服なのかしら?」
(こんなもの、見たことないわね
 布が薄いわ……。
 大きな穴が一つ。
 小さな穴が二つ?)





 パンツだった。
 ルミナの知らぬことではあるが、妖精は下着を履かない。
 そういう文化がなかったのだ。
 そのため、ルミナが三百六十度、いろんな角度から見てみるが、何なのかを知ることはできなかった。



「あ!
 これもしかして、帽子なんじゃないかしら?」

 妖精に下着を身に着ける文化は無くても、帽子を身に着ける人ならいる。

「よいしょ♫」

 ルミナはパンツを被った。
 覆面レスラーのような外見で、この世界に警察が居たら一瞬のうちにお縄にかけられてしまうだろう。
 はたから見ればただの変態である。

「えへへ」

 この人、パンツを被って笑ってる……
 怖っ! 変質者! 痴漢よぉ!
 おさわりマン あ、違った お巡りさんコイツです!




 うp主がそんな変態的行動を少女にさせて楽しんでいる時、転機が訪れた。





 遠くに船が見えたのだ。
 見えたのは悪人面だが顔はいい男。
 何やら、その男が縛られ、海に落とされていた。
 ついでに、重そうな斧も。

(わぁ
 あれが船なのね!
 ……なんで、同じ種族の人を落としたのかしら?)

 ルミナは疑問に思う。
 なにせ、妖精の間では仲が悪いということはあっても、裏切りや殺人なんてことは絶対しないからだ。
 殺されている、なんて発想はなかった。
 なので、ショーを見るつもりで、木陰からひっそりと鑑賞していた。
 しかし、その男が何もせずにおぼれ、さらに船がその男から遠ざかっているのを見て確信した。

(あ、事故かしら。
 可愛そうに……
 このままじゃ、死んじゃう)

 と。
 飛行能力のあるルミナなら助けに向かうことは簡単だ。
 しかし、すぐに助けに行けない事情があった。

(ど、ど、ど、どうしましょう。
 妖精の掟では、他の種族と接触することは固く禁じられているわ。
 この人を助けたら……私は……)

 ここで、男を助けてしまっては、掟を破ってしまったどころではない。
 もしかしたら、他の妖精たちに何か罰でも与えられるかもしれない。
 王族だとしても実刑は免れない。
 それほどの禁忌なのだ妖精がほかの種族と接触するということは。

 でも――。

(放っておいたら……死んでしまうじゃない。
 それに意外とハンサム……。
 もう! ええい! なるようになりなさい!!)

「大丈夫?
 頑張ってッ!」

 少女は男を助けた。



 ★ ★ ★



 ルミナは男の頬をツンツンとつつく。
 男は、水を吐き出すと、ガバっと起き上がった。

「あ?!
 ここは!?」
(元気な人ね)

 ルミナは若干あきれ顔で、その男を見ていた。
 ちなみに、ルミナは相も変わらずパンツを被っている。
 その男がルミナの姿を認めるとポカーンとした。
 そのあとすぐに、ギョっとしていた。

「お前が助けてくれたのか、
 ん~ あ!?
 パンツ被った変態妖精?」

 男はどうやら、自分で言って驚いている。

「俺は夢でも見てるのか?」
「えぇ!?」

 ルミナも驚いた。
 初対面で変態と言われて。
 そして、男の真意が流れ込んできた。
 外見とは違って意外とおちゃらけた人物のようだ。

(私が変態!?
 なんで!?)
「ちょっと待って……パンツってなんなの?」

 パンツのことについて質問をする。
 男は哀れみの顔をした後、口を開く。

「ああ そんなことも知らねぇのか
 世間知らずな嬢ちゃんだな
 パンツっていうのは……」
「ピー(自主規制)」
「ピー(自主規制)」
「ピー(自主規制)」

 真実を告げられた。



 …………………………………………。
 …………………………………………。
 ルミナは空中で真っ赤になって、顔を隠して、転げまわった。





 ルミナと男はそのあとも、いっぱい話をした。

 オンガス・ツパイレーという名前であること。
 彼が海賊であったこと。
 その仲間に裏切られたこと。
 行く当てがないこと……。


 ルミナは疑問に思ったことをすぐに聞く。
 いい意味でも悪い意味でも裏表がないのが妖精だ。

「ねぇ? あなたはこれからどうするの?」
「……」

 バツが悪そうな顔だ。
 オンガスは誰がどう見ても屈強な戦士だった。
 体には歴戦の傷がついているし、そのそばに置いてある斧からもわかる。
 今回、殺されそうになったのだって、もうなんかめんどくさくなったから、らしい。
 どこか無気力な顔をしていた。

「じゃあ、私の洞穴に来ない?」

 ルミナが提案したのは、自分のコレクションを置いている部屋に、オンガスを匿うということだった。
 オンガスは最初は渋っていたが、ルミナの勢いに押されて渋々了承した。





「おお~
 すげぇな。
 妖精の癖に、よくこんなに人族の道具を集めたな」
「えへへ すごいでしょ。
 ホラこの鏡とか」
「は!?
 それは銀の皿だぞ?」
「え!?
 じゃあ、この櫛は?」
「それはフォークだな」
「この装飾品かわいいでしょ?」
「それはガラスの破片な」
「えッ…………」

 ルミナはことごとく、不正解する。
 その瞳は少し揺れていた。


「ニシシっ!」
「も、もう! 笑わないでよ!」
「悪い悪い」

 ルミナは今まで自分が想像していたものとは違って、恥ずかしがりつつも、プクーっと頬を膨らませる。
 涙をこらえながら。

「おいおい泣くなよ。
 俺が色々教えてやっから」
「ホント?」


 ★ ★ ★


 それからのルミナはオンガスの所へ通った。
 毎日毎日。
 まるで通い妻のように。

 ルミナにとってオンガスの外の世界の話は楽しかった。
 道具の使い方だとか。
 どの島でどんな宝を見つけただとか
 とても不思議な生き物を見ただとか
 どんな人と戦って勝ったかなど
 オンガスの話はいつも、変だけどワクワクした。

 ルミナの好奇心を満たす存在だった。


「初対面の時は面白かったよな。
 頭にパンツを被ってww」
「もうそれは言わない約束でしょ?」
「ニシシっ!」
「もう! すぐ笑う!」
「だって、お前といると退屈しねぇんだもん」
「おだてても何も出ないわよ?」
「悪い悪い」
「絶対思ってない!」

 ルミナはそうは言っているが、本当に嫌がっているわけではない。
 毎度の会話なのだろう。
 なんとまぁ、仲のいい二人だ。



「あ~。
 腹減ってきたな」

「ちょっと待ってて……」

 ルミナは少しの間、何かを探しに出かけた。
 数分後。




「これ食べて?」
「え?
 なんだこれ?
 花じゃねぇか」
「それは、ルナの花よ。
 月明りで成長する植物。
 栄養がとっても豊富なの」


 オンガスは不思議に思いながらも、その花の花弁を口いっぱいにほおばった。

「すげぇ花弁の中にも甘い汁がたっぷりだ。
 ニシシっ!
 面白しれぇ食べもんだな!
 お前と一緒にいるとホント、楽しいことばっかだぜ!」
「もう、いつもそれ言うわよね」
「そうさ。なにせ、俺は昔から、他人とうまくやれなくてよ。
 こんなに、楽しく話せるのはお前だけだ。
 お前となら、仲良くやれそうだ」

 オンガスの真意がルミナの中へ流れ込んでくる。
 オンガスの口からは聞くことのできない、波乱万丈な人生が。
 オンガスは話しながら一つのものを差し出す。

「そうだ、お前が前言ってたガラスの破片でよぉ、他のコレクションと組み合わせて指輪を作ってみたんだ。
 ホラこれやるよ」

 オンガスはルミナの左手の薬指に指輪をはめた。
 ルミナはクリティカルを食らい真っ赤になった。

 オンガスは続けて、口を開こうとする。



 しかし……
 そんな時ある人物がやってくる。


「そこで何をしている!
 な!? 人間?」

 妖精王だった。
 その日、ルミナは森を出るところを妖精王に見つかっってしまった。
 王は仕方なく、掟を破り、ルミナを連れ帰ることを選択したのだ。
 そんなさなか、たまたまオンガスを見つけた。
 オンガスは洞窟内に幽閉され、ルミナと離れ離れにした。
 その時の二人は両想いだった。


 ★ ★ ★


「戦争じゃ~!!」

 突然だが、勇者の剣についておさらいをしておこう。
 勇者の剣。
 それは、魔に取りつかれた存在を打ち滅ぼす剣だ。
 妖精の森にある台座に刺さっており、選ばれた勇者にしか抜けない。
 ということになっている。
 だがしかし、台座ごと盗むことなら可能なのだ。
 そうならないように、妖精が守っている、ともいえる。

 つまるところ、妖精はもう守ることは、していなかった。
 ただダラダラと怠惰に生きているだけだった。
 つまり、妖精の森は、魔族の恰好のまとであったのだ。

 端的に言おう。
 妖島帝国ようとうていこく鬼人族オーガである魔族が、戦争を仕掛けて来たのだ。
 鬼将軍を筆頭に妖島帝国ようとうていこくの人口三割が攻めてくる。
 鬼人族は迷いの森で迷わない術を持っていた。

 なんの対策も訓練もしていなかった妖精たち。
 勝ち筋は殆どない、と言って良い。


 戦争のさなか。
 ルミナはオンガスの元へ向かう。
 オンガスを逃がすために。
 オンガスは無気力な顔をしていた。


「ルミナ!? なんでここに?」

 しかし、ルミナを見ると生気が戻ったように感じられた。

「シーッ 静かに
 戦争が起こったからよ。
 今ならまだ気づかれてない
 ここにいても、敵に殺されるだけよ
 今のうちに逃げて」
「ルミアはどうするんだ?」
「……私は、最後まで戦う」

 ルミナのそれは命をなげうつ覚悟であった。

「なら、俺も逃げない」

 即答である。
 なんてイケメンなのだろう。
 オンガスも命をなげうつ覚悟であったのだ。
 ルミナの頬がポッと赤く染まる。

「俺にはもう、居場所はない。
 あるとしたらそれは、ルミナの隣だけだ。
 助けてくれたお前を見殺しにするつもりもねぇし、お前の故郷が壊されるのを、ノホホンと見守るのもゴメンだ」
「あなたも、この戦争に参加するの?」
「ああ」
「あなたには関係ないじゃない!
 馬鹿な事言ってないで、早く逃げて!」
「関係あるさ。
 なにせ、俺はお前が好きなんだから」
「え?」
「戦争が終わったら――」


(……すきぃ)

 ルミナは空中で真っ赤になって、顔を隠して、転げまわった。
 とってもチョロい。
 ヒロインならぬチョロインだった。
 そうして、オンガスは、妖精側として戦争に出陣することとなった。





 戦場の手前。
 敵兵の鎧が月光に反射し、鋼の冷たい光を放つ。
 数を見てみる。
 誰が見ても、妖精側が劣勢であると答えるだろう。

「私たち、妖精には他人に加護を与えることができるの」

 ルミアはポツリとオンガスに語り掛けた。
 加護には個人差があり、身体能力を二~十倍まで強化できるのだ。
 また、呪文詠唱ができるようにもなる。

「ああ、聞いたことがある。
 加護を受けている人が呪文を唱えれば、魔術が使えるってそして基礎戦闘力があがるって」
「そうよ。
 そして、妖精は妖精に加護を与えることができないし、妖精自体が使う魔術はそこまで強くないの。
 ねぇ、だから私の力をあげる」
「ああ。
 ありがとうな」



 鈍い音が鳴り響く戦場。

 オンガスはルミアの加護によって力を増し、鬼人族の兵士たちを次々と倒していった。
 しかし、戦いは熾烈を極めた。
 そんななかでも、戦い続けるオンガスの勇気と戦いぶりに鼓舞された妖精たちは、次第に士気を取り戻していった。

 だが、戦局は依然として厳しかった。
 鬼人族の数は圧倒的で、彼らの戦闘力も高かった。
 ルミナはオンガスの背中を見守りながら、自分もまたできる限りの魔法で支援を続けていた。
 戦いのさなか、ルミナとオンガスは合流する。

「オンガス、まだ大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ。お前の加護のおかげで、まだ戦える」

 ルミナは心配そうに問いかけた。
 オンガスは極力笑顔で答えたが、その顔には疲れが浮かんでいた。
 妖精の加護は魔力消費を最大限抑えて魔術を行使できるが、魔力は消費されるのだ。



 その時、鬼人族の中でも特に強力な戦士、鬼将軍が姿を現した。
 鬼将軍も使う武器は斧。
 その巨大な斧を振りかざし、周囲の妖精たちを襲っていた。

「オンガス、あれが鬼将軍よ。
 あれを倒さない限り、戦局は変わらないわ」
「分かった。俺が奴を引き受けるぜ」
「気をつけて……」

 覚悟を決めた表情のオンガス。
 そんなオンガスの背中を見送るルミナ。

「水の精霊よ。魔の世界より力を授け、その大いなる力を、広大な大地へと振るい大いなる敵を打ち砕かん『激浪レイジング ウェーブス』」

 それを皮切りに、オンガスと鬼将軍の戦いが始まった。

 ガキーン!!
 斧と斧とが激しく衝突し、火花が舞う。
 鬼将軍の力は圧倒的だったが、オンガスはルミナの加護のおかげで何度も立ち上がった。
 魔術は詠唱が必要なので、戦闘中はめったに使うことはできない。
 どうしようもないときに、早口で回復魔術を使うのみだ。

「グっ!」

 鬼将軍の力は凄まじく、次第にオンガスも劣勢に立たされていった。
 斧がオンガスの右の太ももに深く食い込み、血が飛び散る。
 しかし、それはオンガスの罠だった。

「ニシシっ!」
「なっ!」

 オンガスの強靭な肉体は斧のスピードを遅くした。
 そのすきに、斧の柄背部分をたたき割ったのだ。
 片足を犠牲に、相手の武器を壊す。
 オンガスは移動を失った。
 諸刃の剣。苦肉の策であった。

 鬼将軍は一度距離をとり、斧の上部分を何とかつかみ、構えた。
 戦いを見ている者みなが思った。
 次の瞬間ですべてが決まる、と。

 オンガスはルミナを信じていた。

「ルミナ、最後の力を貸してくれ!」

 オンガスは叫んだ。

「オンガス!」

 ルミナも叫んだ。
 頭の中には何もない。
 ただ、オンガスを助けなくては、という強い願いだけがあった。
 使った魔術は分からない。
 ただ、その魔術を使った瞬間、左手の薬指にある指輪から、眩い光があたりを包む。

 鬼将軍とオンガスの位置が若干違う位置に移動したように見える。
 本人たちが移動したのではない。
 空間ごと移動したように見えたのだ。

(どうなったの?
 勝敗は?
 ッ! オンガス……//)

 土埃でよく見えない。
 風であたりが晴れて、見えるようになるのを待つ。



 立っていたのはオンガスだった。
 鬼将軍は首を斬られて、即死だった。
 タイミングがほんの少しでも違えば、勝敗は違ったものになっていただろう。
 紙一重での勝利だった。

「はぁ はぁ」

 ルミナは走るオンガスの元へ。
 オンガスは猛スピードのルミナを難なく受け止める。

 二人はハグをした。
 身長差はオンガス:ルミナ=2:1なのでよく映える。

 二人は甘いキスをした。
「えへへ
 オンガス 大好き」
「ニシシっ ああ 俺もだ」

 ルミナは空中で真っ赤になって、顔を隠して、転げまわった。
 オンガスも照れくさそうに、自分の顔を腕で隠した。


 将軍を失った軍は勢いを失った。
 終戦だ。
 その戦争で、鬼人族は八万、妖精は二万が戦死した。




 戦争で功績をあげたオンガスは妖精王にも認められた。
 王は褒美をとらせることにした。

「財宝でもなんでも、いうがよいぞ」
「俺にとっての、財宝はルミアだ。
 俺は海賊。自分の欲しい財宝は手に入れるまで諦めねぇ
 ルミアをもらうぜ……」

 王も渋々了承。

 戦争が終わったら――

「結婚してくれ」


 ルミアは大好きな人族と結婚した。
 そして、森の復旧&復興をした後。
 二人は新婚旅行をした。


 ★ ★ ★

 数年後。
 妖精の森。

「名前は何にするのかしら?」
「そうだな~
 じゃあ……頭文字をとって
 ルミオン、なんてどうだ?」
「いい名前ね」


 新婚旅行から帰った二人には子供が生まれていた。
 名前はルミオン。

「ルミオン
 私とあなたの子」

 ルミアは大事そうにその子を抱きかかえる。
 子供が生まれた。男の子だ。
 その容姿は、羽は生えていなかったが、ルミアの耳の長さと金髪を受け継いでおり、オンガスの瞳の色であった。
 オンガスの遺伝子は弱かった。
 そして、裂けていないか心配である。



 そうして、子供も生まれた夫妻は幸せに暮らしましたとさ。
 めでたしめでたし。
 ちゃんちゃん♪



――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 その後、妖精の王は娘の結婚に安心し、オンガスに王位を譲り病気で死亡。
 オンガスは寿命で数十年後に「世界を豊にするために、ルミナの力を使ってほしい」と遺言を残し他界。
 ルミナはオンガスを看取る。
 ルミナは未来永劫、左手の薬指にある指輪を外すことは無かったという。
 そして、ルミナは妖精のクイーンとなった。
 オンガスの遺言通り、他種族と交渉し、加護を与えた。
 呪文詠唱による魔術の発動を確立し、世界的な偉人異人となる。
 現代でそのことを知っている人はほとんどいないが。

 そして、ルミオンもいずれ旅に出ることになるのだが、それはまた別のお話。
 
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