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■第1章 幼年期

✦第3話「奴隷、王子になる」

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✦第三話「奴隷、王子になる」

 前の出来事で僕が王子だった、という衝撃的な事実が明らかになった。
 前世で僕を処刑した人とほぼ同じ役職。内心穏やかではない。
 しかし、奴隷よりかはマシということに変わりはない。


 そして、王子になったというのにあまり驚いてない自分がいる。
 以前から広すぎる家やメイドをたくさん見てきたこともあり、案外すんなりと受け入れられた。
 今まで疑問に思っていたことが解消された感じだ。
 それより、今まで嫌悪していた王族なんぞになって逆にいやな気分だ。

 そして、怪しげな本を手に入れた。
 『万象の魔導典 第一巻 攻撃魔術編』などという得体のしれない本。
 文を読むだけで、様々な事象を起こすことができるファンタジーの塊のようなものを手に入れた。

 本当だったら、四六時中魔術の練習をしたいところだが、難易度が上がるにつれて、解らない文字が出てきた。
 きっと、異種族の文字なのだろう。全く読むことができない。



 なので、それらのいろいろなことが起こったにもかかわらず、生活にはなんら変化はない。
 いつも通りの日常だ。
 普通に、起きて、ショウと勉強したり、部屋で遊んだり、本を読んだり……そして寝る。

 唯一変わったことといえば、あれからショウの言いつけは守っているということだ。

「――ウィル様、聞いていますか?」
「ん? あ、ハイ」
「では、続けますね」

 そんな僕は今、地理の授業を受けている。
 真剣に? と聞かれると微妙だが、前回に比べると泥雲の差だろう。

 それと、ショウとの距離が少し近づいてきた……気がする。
 前はウィルソン様と呼ばれていたが、最近ではウィル様と呼ばれている。
 ウィルソンって名前は長いから呼びやすいように略したのだろう。

「――まずですね。
 この世界は五つの大陸がありまして、名前をヴェルディア大陸、アニマリア大陸、ドラゴニア大陸、神樹大陸、暗黒大陸、と言います」




「そして、私たちはヴェルディア大陸の南部、ライト王国というところにいます。
 ヴェルディア大陸には他の大陸に比べると人族が多い傾向にあるんです。」

 ていうか、ライト王国って名前ダサいな。
 厨二っぽい。
 初代国王は一体どういう思いでそんなダサい名前を付けたんだ?
 そのダサい国名が王族の家名にも使われてるというわけか。
 ウィルソン・ライト。いかにも厨二が考えそうな名前だ。

 ……いや、王のことを馬鹿にすると、また処刑されてしまうかもしれない。
 このことを考えるのはやめよう。

「他の大陸で言うと……
 アニマリア大陸には獣族じゅうぞくが、
 ドラゴニア大陸には竜族りゅうぞくが、
 神樹大陸しんじゅたいりくには鳥族がちょうぞく
 暗黒大陸《あんこくたいりく》には魔族がまぞく
 それぞれ多い傾向にあります」

 

「ライト王国には人族以外の種族はいないんですか?」
「いない……というわけではないんですが、国民の中にはいませんね」
「どういうことですか?」
「殆どは奴隷だったり、魔族なんかには特殊体質の者も多いですから実験用に国が保有していたりします。私には魔族の血が混じっているので、昔は風当たりが強かったですが、あなたの父親。ラセフ様が守ってくださいました。
 あとは、知能の低い他の種族ならたくさんいますよ。
 例えば、りゅうなんかもそうですね」

 …………この世界にも奴隷なんてあるのか……。

「なんだかしらけてしまいましたね。
 キリもいいですし、今日はこれで終わりにしましょうか」

 そういうと、ショウは立ち上がった。
 そして、部屋から出ていこうとした。
 しかし、ハッと何かに気づいたような顔をすると、ショウは扉からひょっこりと顔を出した。

「あ、そういえば。忘れるところでした。明日はウィル様のお父様がお見えになりますので、頭の片隅に入れておいてください
 それでは、ウィル様おやすみなさい」
「ハイ」

 マジか。
 僕のこの世界での父親か。
 数年音沙汰がなかった父親とご対面。
 僕が王子っていうことは、父はもちろん王、ということになる。
 なので、多忙だということはわかる。
 だが、両親は今まで両手の指で数えられるくらいしか会いに来なかった。
 そもそも、赤ん坊のころにしか会っていないから、喋ったことすらない。

(どんな人で、明日はどんなことを話すんだろうか?)

 そんなことを考えながら、僕は眠りについた。

 ★ ★ ★


 次の日。
 いつも通りに目が覚める。
 そして、朝の支度をしていると、いつもに時間にショウが部屋に入ってきた。

「ウィル様、おはようございます」
「おはようございます」
「今日もいい天気ですね」

 ショウが窓を開く。
 心地の良い風が部屋中に吹き抜ける。
 ……ていうか、今日は父親と会うのか。なんだか緊張するな。
 
「ウィル様? なんだか顔色が悪いですよ?」

 あ、考え事に夢中になっていたな。いけないいけない。
 まあ、テキトーにごまかしておこう。

「あ、いえ、なんでもないです」
「……そうですか? 何か悩み事とか心配事があるなら聞きますよ?」
「あ、そんなこと……いや……実は父様と会うのが久しぶりで、緊張というか、心配というか……」
「そんなに考えすぎなくていいと思いますよ。
 それに、ウィル様の父親、ラセフ様は今では『寛大で優雅な人』なので心配することは何もないかと」

 ふぅん。そうなんだ。
 なんだかちょっと安心した。
 『今では』ということは昔は違ったんだろうか?
 ラセフ・ライト。謎多き人物だ。
 前世の王様みたいな感じじゃないといいな。
 ……あんなこともう勘弁だ。

「じゃあ、私は次の仕事がありますのでこれで失礼しますね。
 ラセフ様がお呼びになったら声を掛けますので」
「あ……」

 ショウはそう言い残すと部屋から出て行った。
 そして、部屋に取り残された僕は暇人となった。

 ★ ★ ★


 ――コンコンコン と扉をノックする音が聞こえた。

「ウィル様、ラセフ様がお呼びです」

(どうやら、時間が来たようだ)

 僕は慌てて本を隠し、ショウの所へ行った。
 そして、ショウに道案内をしてもらいながら、駆け足で父様のもとへ向かった。
 ほんの少しの恐怖心とともに。

 ★ ★ ★

 王の間の前に到着。

 つまり、僕の父様の部屋に到着した。
 僕は、扉を開ける前に深呼吸をしてから中に入った。
 父様は豪華な部屋で、落ち着いた顔をし、座わりながら待っていた。
 そこで、僕も席に着く。

「ウィル、久しいな、元気そうで何よりだ。
 私がお前の父、ラセフ・ライトだ。
 もはや、覚えてすらいないか?」

 あれ? 僕の名前をウィルソンではなく愛称のウィル、と呼んでいる?
 とりあえず、敬語で話しかけられたので敬語で返す。
 前世で僕は王様に処刑されたのだ。
 父とも言えど王様。
 内心はビクビクとビビっていた。

「いえ、お久しぶりでございます。父様」
「今回、お前を読んだのはある理由がある
 ウィル、お前が今、この城で何と噂されているのか知っておるか?」
「? 存じていません」
「知らぬのか? お前はライト王国『初代国王以来の天才』と噂されているのだ」
「え?」
「その歳で、勉学に励み、何でもこなす姿が『初代国王以来の天才』などと噂されているのだ。
 そのような噂を聞き、私もお前の才能に期待をしている。
 そして悪影教を信仰する仮面の組織。ガーラ団という反乱勢力の被害も広がってきている。
 だから――」

 父様はニヤリと笑った。

「これから、王族としての本格的な教育を受けさせる」

 こうして本格的に王子としての生活が始まった。

 ★ ★ ★

 王の間から出た。
 肩の荷が下りた。

 やることは主に二つらしい。

 一つ目は、剣術。
 と、言ってもまだ体が全然出来上がっていないので、体力作りの段階だ。

 二つ目は、秘密だそうだ。
 気になって、父上に聞いてみたが一向に教えてくれなかった。



 と、いうわけで、今は体づくりのために、庭を走っている。
 ショウがコーチだ。
 そして、なぜか剣を携えている。
 の、だが……。

「なんですか?その走り方は! 
 フォームが汚すぎます。 まったく基礎がなってないですね!」

 ボロクソに言われている。
 もしかしたら、剣を持つと性格が変わるタイプだろうか。
 いつもの面影がなく、まるでスパルタ教師の様だ。

「すいません。こうですか?」
「もう、何度言ったらわかるんですかっ!」

 僕には運動の才能は皆無の様だ。
 前世の影響もあるのかもしれない。

「…………。
 そこは飛ばすとして、一つ聞きたいことがあるんですが。
 ウィル様は生まれてから、剣を持ったことがあるんですか?」

 僕は、前にも言ったが、争いが怖い。
 前世が奴隷だったのもあり、そのトラウマが、まだ根強く残っている。
 そんな僕が、剣を持ったことがあるはずがない。

「……ありません」
「なるほど、じゃあこの剣を持ってみなさい」

 そういうと、ショウは剣を手放し、僕に渡した。
 ――重い。とても重い。
 やはり、剣というのは、人なんて容易に殺せる、ということをビンビン感じる。

「ウィル様、どうですか?
 やっぱり、怖いですか?」

 そんな僕の心情を読み取ったのか、読み取っていないのか、ショウが心配してきた。
 ていうか、剣を手放したからか、ショウの口調が元に戻った。
 ショウってもしかして、二重人格……?

「はい、怖いです」
「まぁ、無理もありません。
 今まで、剣に触れる機会もなかったでしょうし……
 でも、大丈夫ですよ。
 剣術の練習では本物の剣は使わず木刀で練習するので
 けどいつかは、その剣で大切な人を守ってあげるのですよ?」

 どういうことだ?

「じゃあ、その剣を返してください」
「はい!!」

 僕はショウに剣を返した。

「えーっと、次って何するんでしょうか?」
「シャラップ! 庭を二百周~!」
「!? え~ッ?」


 ★ ★ ★

 とりあえず、ショウに開放してもらえた。
 今は完全に足が棒になっている。
 足が身体にくっついているのが、不思議なくらいだ。
 つまり、もう限界!
 初日でコレなので、この先が心配である。

 それはさておき。
 僕は今、人気の少なく、レンガで囲まれた部屋の前に来ている。
 父様に呼ばれて。

 父様に何をするのかを聞いたのだが、なぜか頑なに教えようとしなかった。
 もしかして、部外者に聞かれたらマズいことなのだろうか?
 そんなことを考えながら、僕は扉をたたいた。

 ――コンコン。

「……入れ…」
「失礼します」

 部屋に入る許可が出たので、部屋に入る。
 部屋には僕と父様の二人。
 しばらくの沈黙が続く。

 最初に口を開いたのは、父様だ。

「ウィル。
 この部屋に入るところは、誰にも見られていないよな?」
「はい」
「そうか、ならいい。
 では本題に入ろうか」

 まじめ臭い口調で、父様は喋りだす。

「これから話すことは、他人には言うなよ?
 まず、この世界に魔力というものがあることは知っているよな?」
「はい。知っています」
「今から話すのは、この世界で禁忌とされている魔力を扱う技術。
 その名も『魔術』について話す」

 !? 魔術という単語を他人から初めて聞いたぞ。

「禁忌ってどういうことですか?」
「一般的に、魔術は知られていない。
 魔族は無意識に、特定の魔術一つを使える個体もいるが、魔術として知っている者は主に位の高い王族や位の高い貴族だ」
「なぜですか?」
「それは、そのほうが都合がいいからだ。
 一部の権力者が力を独占したほうが、国が安定する」
「そうなんですか」
「そうだ。
 まぁ、そんなことはどうでもいい。
 話を戻すぞ」

 父様は座り方を正し、こちらを向きなおした。
 でも、どこか余所余所しく、違和感を覚える。

「こほん。
 魔術というのは、最初のうちは呪文を唱えるものだ。
 しかし、我らの人語ひとごでは限界がある。
 そこで使うのが、魔人語マシンごだ」
「魔人語?」
「なんだ? しらないのか。
 そもそも、魔術というのは、魔族が発見した技術だからな。
 魔人語マシンごが一番使いやすい」
「だから、今日から魔人語マシンごを習う。
 いいな?」
「はい」

 ★ ★ ★

 最近、勉学と訓練の毎日だ。
 そんな日常が数か月続いた……。
 ……最近、毎日同じことばかりしている……。
 はあ、もうウンザリだ。

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