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「松岡さんは、颯人君にそう元気づけてもらってから、意識し始めたんですか?」
「きっかけの一つではあるかな。でも気が付いたら、好きになってた。一緒にいるようになってから、今まで以上に彼の優しさを知って、心がドキドキしっぱなし。ドキドキするけど、落ち着く気持ちもあって、もっと一緒にいたいと思ったの」
由美の颯人への告白に、千尋は母から聞いた言葉を思い出した。
(心がドキドキする。一緒にいて落ち着く。もっと一緒にいたい。それが恋……)
千尋は無意識にきゅっと、手に力を込めていた。その手を、そっと由美が包み込む。
「わたしね、実は言うと、真島さんに嫉妬してたの」
「えっ?」
千尋は信じられないと、目を見開く。
「本当よ。わたしといるとき、九条君はいつも、真島さんの話ばかりするの。
その時の彼の顔は、すごくイキイキとしてて。本当に真島さんのことが大事だってことが伝わってくる。それで一途な人だなぁって。そこが好印象ではあったけど、わたしでは絶対に引き出せない顔を簡単に引き出すことができる、あなたが羨ましかった」
千尋は顔を真っ赤にした。まさか颯人が、自分のことを他人に話しているとは思わなかったからだ。
由美はその愛らしい千尋の姿に、目を細める。
「どんな子なんだろうってずっと思ってた。わたしの好きな人の心を掴んで放さない、彼の幼馴染はどんな女の子なんだろうって。でも、なんとなくだけど、彼が警戒しているのに気付いていたから、会いたいなんて言えなかった」
「警戒……」
千尋は考えるように、唇に指を当てる。
千尋は学校にはあまり通えない。そのせいで、弾かれるのは小学生、正確には幼稚園時代から当たり前のようにあった。なので、進んで友達を作ろうとはしなかった。
それでもちょっかいを掛けてくる者は、必ずいる。だが彼女に手を出した者は、遅くて翌週、早くて翌日には態度を一変させ、千尋に対してペコペコと、頭を下げ、中には怯えた表情を見せることもあった。
(今思えば、全部、颯人君がなにかやっていたってことなのかな……)
「だから、九条君がわたしを真島さんと会わせてくれたことに驚いたの。でも、ずっと理由がわからなかった。わたしなら無害だと思ったからなのかなって。わたしなら危害を与えない。だから、近づくことを許した」
「それは違いますよ。さっきも言いましたけど、颯人君は松岡さんを信頼してます」
「でも、それは恋愛感情じゃない」
千尋はフルフルと、首を横に振る。
「颯人君は、松岡さんのこと信頼もしてるし、ちゃんと好きだと思います」
「どうして、そう思うの?」
千尋は視線を落とした。
「松岡さんから電話があったとき、颯人君、嬉しそうだったんです。雰囲気が私と一緒にいるときとは違う、ふんわりとした柔らかい感じにもなって。だから、私も松岡さんに嫉妬してたんです。ずるいって、思っていたんで」
「……わたしたちは、ある意味、九条君のことを知らないのかもね」
由美の呟きに、千尋は頷く。
千尋は由美を見て、颯人が彼女に寄り添っている姿を想像した。
そのイメージは、すぐに頭に浮かんだ。ならばと、今度は自分が由美の立ち位置にいるのを考えた。しかし、どんなに考えても、自分が恋人として颯人の隣に立っているイメージはわいてこなかった。そのことに、千尋本人は驚いた。
(ははっ。なんだ。私、もう松岡さんが颯人君の隣にいることを、認めているんだ。ううん。いてほしいんだ。颯人君の隣に)
千尋は胸のわだかまりが溶けていくにつれ、晴れやかな気分になっていくのを実感した。
「あっ! なんか、ごめんね。こんな話しちゃって」
「いえ。そもそも、私から話を振ったことですし。それに、話せてよかった。松岡さんの気持ちを知れて、嬉しかったです」
「え? なんで?」
由美は不思議そうな表情を浮かべる。
「だって、松岡さんは颯人君のこと、見た目じゃなくて、性格のことも知った上で、好きになったんですよね?」
「ま、まぁ」
「だったら、これからはどんどん自分を、アピールしないとですよ」
千尋はグッと握りこぶしを作る。それに由美は戸惑いを隠せない。
「で、でも、真島さんだって、九条君のことが好きなんじゃ……」
「好きですよ。大好きです! だけど、自分が颯人君の恋人として、隣に立っているのは、想像できないんです」
「真島さん……」
千尋はニコッと、由美に笑いかけた。
「それに颯人君、松岡さんを連れてくる前に、私に紹介したいやつがいるから、近いうちに連れてくるって言ってきたんです。颯人君、自分の自慢の恋人を私に紹介したかったんだと思います」
「……偽物なのに?」
「颯人君の中では、もしかしたらその嘘の恋人関係ってこと、忘れてるかもしれませんよ。颯人君、意外と忘れっぽいですし」
「たしかに」
颯人の幼馴染の千尋に言われて、由美は思わず同意する。
「だから自分に自信を持ってください。偽りの恋人関係が怖いなら、自分から気持ちを打ち明けちゃえばいいんです!」
力説する千尋。だが由美は、浮かない表情を見せる。
「でも、彼は真島さんのことが、好きかもしれないわよ? 現に、あなたの話ばかりするもの」
「それはないです」
千尋は断言する。
「わかるんです。ずっと見てきたから。私は颯人君の『大事な幼馴染』。それ以上でも、それ以下でもない。でも、松岡さんと話してる颯人くんは、なんだか嬉しそうですし!」
千尋の断言に、由美はポカンと口を開けた。
「私の初恋の人を譲るんですから、絶対にオトさなきゃ、ダメですよ」
「……強いね、真島さんは」
由美はしみじみと呟いた。その言葉に、千尋は目を閉じて、胸に手を当てる。
「強いかどうかは、わかりません。でも、この恋っていう感情を知ることができたのは、颯人君と松岡さんのおかげだから」
「そっか。……ねぇ、千尋ちゃんって、呼んでいい?」
「はい! じゃあ私は、由美さんって呼んでいいですか?」
「もちろんよ」
二人は笑い合う。
「楽しそうだな」
「颯人君!」
「九条君」
声のしたほうに視線をむけると、ドアに寄りかかるようにして、制服姿の颯人が、立っていた。
「二人して、何を話してたんだ?」
千尋と由美は、自然と目を合わせる。そして同時に、颯人に向けて言った。
「「内緒!」」
「はぁ?」
女子二人は、仲良く笑い合った。
「きっかけの一つではあるかな。でも気が付いたら、好きになってた。一緒にいるようになってから、今まで以上に彼の優しさを知って、心がドキドキしっぱなし。ドキドキするけど、落ち着く気持ちもあって、もっと一緒にいたいと思ったの」
由美の颯人への告白に、千尋は母から聞いた言葉を思い出した。
(心がドキドキする。一緒にいて落ち着く。もっと一緒にいたい。それが恋……)
千尋は無意識にきゅっと、手に力を込めていた。その手を、そっと由美が包み込む。
「わたしね、実は言うと、真島さんに嫉妬してたの」
「えっ?」
千尋は信じられないと、目を見開く。
「本当よ。わたしといるとき、九条君はいつも、真島さんの話ばかりするの。
その時の彼の顔は、すごくイキイキとしてて。本当に真島さんのことが大事だってことが伝わってくる。それで一途な人だなぁって。そこが好印象ではあったけど、わたしでは絶対に引き出せない顔を簡単に引き出すことができる、あなたが羨ましかった」
千尋は顔を真っ赤にした。まさか颯人が、自分のことを他人に話しているとは思わなかったからだ。
由美はその愛らしい千尋の姿に、目を細める。
「どんな子なんだろうってずっと思ってた。わたしの好きな人の心を掴んで放さない、彼の幼馴染はどんな女の子なんだろうって。でも、なんとなくだけど、彼が警戒しているのに気付いていたから、会いたいなんて言えなかった」
「警戒……」
千尋は考えるように、唇に指を当てる。
千尋は学校にはあまり通えない。そのせいで、弾かれるのは小学生、正確には幼稚園時代から当たり前のようにあった。なので、進んで友達を作ろうとはしなかった。
それでもちょっかいを掛けてくる者は、必ずいる。だが彼女に手を出した者は、遅くて翌週、早くて翌日には態度を一変させ、千尋に対してペコペコと、頭を下げ、中には怯えた表情を見せることもあった。
(今思えば、全部、颯人君がなにかやっていたってことなのかな……)
「だから、九条君がわたしを真島さんと会わせてくれたことに驚いたの。でも、ずっと理由がわからなかった。わたしなら無害だと思ったからなのかなって。わたしなら危害を与えない。だから、近づくことを許した」
「それは違いますよ。さっきも言いましたけど、颯人君は松岡さんを信頼してます」
「でも、それは恋愛感情じゃない」
千尋はフルフルと、首を横に振る。
「颯人君は、松岡さんのこと信頼もしてるし、ちゃんと好きだと思います」
「どうして、そう思うの?」
千尋は視線を落とした。
「松岡さんから電話があったとき、颯人君、嬉しそうだったんです。雰囲気が私と一緒にいるときとは違う、ふんわりとした柔らかい感じにもなって。だから、私も松岡さんに嫉妬してたんです。ずるいって、思っていたんで」
「……わたしたちは、ある意味、九条君のことを知らないのかもね」
由美の呟きに、千尋は頷く。
千尋は由美を見て、颯人が彼女に寄り添っている姿を想像した。
そのイメージは、すぐに頭に浮かんだ。ならばと、今度は自分が由美の立ち位置にいるのを考えた。しかし、どんなに考えても、自分が恋人として颯人の隣に立っているイメージはわいてこなかった。そのことに、千尋本人は驚いた。
(ははっ。なんだ。私、もう松岡さんが颯人君の隣にいることを、認めているんだ。ううん。いてほしいんだ。颯人君の隣に)
千尋は胸のわだかまりが溶けていくにつれ、晴れやかな気分になっていくのを実感した。
「あっ! なんか、ごめんね。こんな話しちゃって」
「いえ。そもそも、私から話を振ったことですし。それに、話せてよかった。松岡さんの気持ちを知れて、嬉しかったです」
「え? なんで?」
由美は不思議そうな表情を浮かべる。
「だって、松岡さんは颯人君のこと、見た目じゃなくて、性格のことも知った上で、好きになったんですよね?」
「ま、まぁ」
「だったら、これからはどんどん自分を、アピールしないとですよ」
千尋はグッと握りこぶしを作る。それに由美は戸惑いを隠せない。
「で、でも、真島さんだって、九条君のことが好きなんじゃ……」
「好きですよ。大好きです! だけど、自分が颯人君の恋人として、隣に立っているのは、想像できないんです」
「真島さん……」
千尋はニコッと、由美に笑いかけた。
「それに颯人君、松岡さんを連れてくる前に、私に紹介したいやつがいるから、近いうちに連れてくるって言ってきたんです。颯人君、自分の自慢の恋人を私に紹介したかったんだと思います」
「……偽物なのに?」
「颯人君の中では、もしかしたらその嘘の恋人関係ってこと、忘れてるかもしれませんよ。颯人君、意外と忘れっぽいですし」
「たしかに」
颯人の幼馴染の千尋に言われて、由美は思わず同意する。
「だから自分に自信を持ってください。偽りの恋人関係が怖いなら、自分から気持ちを打ち明けちゃえばいいんです!」
力説する千尋。だが由美は、浮かない表情を見せる。
「でも、彼は真島さんのことが、好きかもしれないわよ? 現に、あなたの話ばかりするもの」
「それはないです」
千尋は断言する。
「わかるんです。ずっと見てきたから。私は颯人君の『大事な幼馴染』。それ以上でも、それ以下でもない。でも、松岡さんと話してる颯人くんは、なんだか嬉しそうですし!」
千尋の断言に、由美はポカンと口を開けた。
「私の初恋の人を譲るんですから、絶対にオトさなきゃ、ダメですよ」
「……強いね、真島さんは」
由美はしみじみと呟いた。その言葉に、千尋は目を閉じて、胸に手を当てる。
「強いかどうかは、わかりません。でも、この恋っていう感情を知ることができたのは、颯人君と松岡さんのおかげだから」
「そっか。……ねぇ、千尋ちゃんって、呼んでいい?」
「はい! じゃあ私は、由美さんって呼んでいいですか?」
「もちろんよ」
二人は笑い合う。
「楽しそうだな」
「颯人君!」
「九条君」
声のしたほうに視線をむけると、ドアに寄りかかるようにして、制服姿の颯人が、立っていた。
「二人して、何を話してたんだ?」
千尋と由美は、自然と目を合わせる。そして同時に、颯人に向けて言った。
「「内緒!」」
「はぁ?」
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