狐に嫁入り

岡本梨紅

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 村を抜け、社に続く参道を歩き続けながら、千鶴は隣を歩く白銀を見上げた。

「白銀様、私との約束を守ってくださり、ありがとうございます」
「当然だ。神と交わした約束は絶対だからな」
「でも、私は寂しかったです。だって、父には会いに来たのに、私のもとへは来てくださらなかったのですから」

 千鶴がすねたように言うと、白銀は千鶴をなだめるように、握っている手に力を優しくこめ、親指でさする。

「すまなかった。神との約束は絶対だが、無条件で千鶴を手元に置くには、こうするしかなかったのだ。隠すという手もあったが、それをすれば大騒ぎになってしまうからな」

 白銀の言う「隠す」というのは、いわば神隠しのことだ。

「私はそれでもかまいませんでしたのに」
「まったくおまえは。やんちゃなのもほどほどにしておくれ」
「やんちゃではありません」

 千鶴の反応に、白銀はふっと笑う。

「何を言うか。今でも昨日のことのように思い出すぞ。人の目を忍んで、こんな山奥にある私の社に、小さな千鶴は遊びに来て、必ず『大きくなったら、お嫁さんにして』と言っていたな」
「そ、そんな昔のことは忘れてください!」

 幼いころ、千鶴は一太郎たちの目を盗んで、社で遊んでいたのだ。その相手をしていたのが、社に祀られている白銀だった。

 千鶴は幼いときから、白銀に想いを寄せていた。相手が神様とかそんなこと関係なしに、千鶴は将来、結ばれるんだと思い込んでいた。

「おまえが嫁に行くと知った時は、どうするべきか正直悩んだ。私といるより、人間と結ばれたほうが良いと思った」
「なにをおっしゃいます。私の幸せは、白銀様と共にいることです。白銀様がきてくださらなければ、自ら赴くつもりでした」

 千鶴の言葉に、白銀は笑った。

「ははははっ。行動力のある娘だ。だが、これからはずっと一緒だ」
「はい」
「さあ、祝言をあげよう。私の仲間たちがみな、千鶴と結ばれることを祝いたくてしょうがないようでな」
「つまり、私は白銀様の嫁にふさわしいと、認められているといことですね」
「あぁそうだ。千鶴は私の唯一無二の愛しい妻だ」
「うれしいです。ずっと、お側におります。白銀様」

 そうして二人は、白銀の神域につながる赤い鳥居を潜り抜けて、姿を消した。
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