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城内へ入ると、ちょうど宿直舎に戻る神流を、黎明が見つけた。
「神流! いいところに!」
「黎明様? え? ひ、比奈!?」
黎明に抱えられている妹を見て、神流は驚いきで声を上げながら、二人に走り寄る。
「神流。俺の部屋に、水を入れた桶と手ぬぐいを持って来てくれ。事情を話す。部屋の場所、わかるか?」
神流が口を開くより先に、黎明が早口で用件を告げた。神流も場所が悪いことを察しているのか、頷く。
「城のことでしたら、すべて把握しております。銀と番頭に告げてから、早急に向かいます」
神流は頭を下げて、身をひるがえした。
彼を見送る間もなく、黎明は自室に向かう。
「すぐに、神流が来るから」
「はい」
黎明は器用に足で、部屋の襖を開け、胡座をかいて座ると、その上に比奈を乗せる。
「れ、黎明様! 下ろしてくださいっ」
「足、汚れてるだろ。俺のせいだけど」
しばらくして、神流が言われた通りの道具を持って、やってきた。
比奈の乱れた着物に汚れた足。比奈が何者かに襲われたのは明白だったが、神流は先に比奈の身なりを整えてやる。
「よし。きれいになった」
「ありがとうございます。兄様。黎明様も、ずっと抱えていてくださり、ありがとうございました」
比奈は礼を言って、黎明の膝から下りて、神流の隣に座った。
「じゃあ、事情を説明するな」
黎明は事細かに、神流にすべてを話した。
「ーー以上だ」
「そんなこと、俺は聞いていない!」
神流は力強く、畳を殴った。
「比奈が無事なんだから、物に当たるな」
「そう、ですね。すみません。本当に、ありがとうございます。黎明様がいなければ、比奈がどうなっていたことか。黎明様にはご迷惑ばかりかけていますね」
「気にするなよ。俺だって好きな女が、他の男に良いようにされるなんて、考えただけでも虫唾が走る」
黎明の「好きな女」発言に、比奈は頬を赤らめた。
彼女の反応を見て、黎明はきょとんとした顔で、神流に視線を向ける。
「……俺、いま、なんて言った?」
「好きな女が、他の男に」
「わー!」
黎明は奇声を上げて、頭を抱え込んだ。
「あーもう! 俺、告白する前に、なに言ってんだろう」
「今も墓穴を掘ってますよ、黎明様」
「……あー!!」
再び奇声を上げる黎明。
神流は黎明が下を向いているのをいいことに、ひどく冷ややか目を向けていた。
「ほんと、うっかりしていますね」
「うー」
神流の言葉に、黎明はうなる。
彼は夕日のように真っ赤な顔をしながら、比奈と向き合い、彼女の手を取る。
「比奈。いろいろ、もう言っちまってる気がするけど、俺の気持ち、聞いてくれるか?」
「は、はい」
比奈は緊張と恥ずかしさでいっぱいになりながらも、頷いた。
「神流! いいところに!」
「黎明様? え? ひ、比奈!?」
黎明に抱えられている妹を見て、神流は驚いきで声を上げながら、二人に走り寄る。
「神流。俺の部屋に、水を入れた桶と手ぬぐいを持って来てくれ。事情を話す。部屋の場所、わかるか?」
神流が口を開くより先に、黎明が早口で用件を告げた。神流も場所が悪いことを察しているのか、頷く。
「城のことでしたら、すべて把握しております。銀と番頭に告げてから、早急に向かいます」
神流は頭を下げて、身をひるがえした。
彼を見送る間もなく、黎明は自室に向かう。
「すぐに、神流が来るから」
「はい」
黎明は器用に足で、部屋の襖を開け、胡座をかいて座ると、その上に比奈を乗せる。
「れ、黎明様! 下ろしてくださいっ」
「足、汚れてるだろ。俺のせいだけど」
しばらくして、神流が言われた通りの道具を持って、やってきた。
比奈の乱れた着物に汚れた足。比奈が何者かに襲われたのは明白だったが、神流は先に比奈の身なりを整えてやる。
「よし。きれいになった」
「ありがとうございます。兄様。黎明様も、ずっと抱えていてくださり、ありがとうございました」
比奈は礼を言って、黎明の膝から下りて、神流の隣に座った。
「じゃあ、事情を説明するな」
黎明は事細かに、神流にすべてを話した。
「ーー以上だ」
「そんなこと、俺は聞いていない!」
神流は力強く、畳を殴った。
「比奈が無事なんだから、物に当たるな」
「そう、ですね。すみません。本当に、ありがとうございます。黎明様がいなければ、比奈がどうなっていたことか。黎明様にはご迷惑ばかりかけていますね」
「気にするなよ。俺だって好きな女が、他の男に良いようにされるなんて、考えただけでも虫唾が走る」
黎明の「好きな女」発言に、比奈は頬を赤らめた。
彼女の反応を見て、黎明はきょとんとした顔で、神流に視線を向ける。
「……俺、いま、なんて言った?」
「好きな女が、他の男に」
「わー!」
黎明は奇声を上げて、頭を抱え込んだ。
「あーもう! 俺、告白する前に、なに言ってんだろう」
「今も墓穴を掘ってますよ、黎明様」
「……あー!!」
再び奇声を上げる黎明。
神流は黎明が下を向いているのをいいことに、ひどく冷ややか目を向けていた。
「ほんと、うっかりしていますね」
「うー」
神流の言葉に、黎明はうなる。
彼は夕日のように真っ赤な顔をしながら、比奈と向き合い、彼女の手を取る。
「比奈。いろいろ、もう言っちまってる気がするけど、俺の気持ち、聞いてくれるか?」
「は、はい」
比奈は緊張と恥ずかしさでいっぱいになりながらも、頷いた。
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