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第五章 ユグルの森
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休憩を終え、一行は再び馬に乗ってユグルの森へと向かう。
しばらく走っていると、前方に鬱蒼とした森が見えてきた。
「あれがユグルの森です」
「入り口で馬を止めよう」
リチャードの指示で、森の入り口で、馬を止めて降りる。
森は、木々が生い茂り、日の光が届かないせいか、奥まで見ることができない。
「いかにも、なにかが出そうな森だな」
リチャードが不気味だと言わんばかりに、森を見ながら呟く。
「実際に魔物と盗賊は出ますがね。もしかしたら、魔物に喰われた者の幽霊が」
「やめろよ! 俺がそういうの苦手だって知ってるだろ!」
ファルの脅かしに、リチャードは泣きそうになる。
主従のやりとりには目もくれず、夜斗は夜那を見下ろす。
「夜那。念のため、盗賊のアジトの場所を、小精霊たちに聞けないか?」
「やってみる」
夜那は森に視線を向け、語りかけた。
「小精霊たち。だれでもいいから、応えてほしい。この森に、人間たちがいるはずなんだ。居場所を知っていたら、案内してほしい」
精霊たちの姿が視えない夜斗たちは、じっと夜那の様子を見守る。
「お願い。応えて」
『主、我が問いかけてみよう。精霊たちには、我の声も聞こえるはずだ』
夜那の腰にある紫闇が、闇の魔晶石を瞬かせながら、提案する。
「そのほうが良さそうだ。頼むよ」
『うむ。小精霊たちよ、我の声が聞こえるな。我が主の願いを、聞き届けてほしい』
夜那にしか聞こえない声で、紫闇が語り掛ける。すると、ぽわぁっと紫色の球体が、夜那の前に現れた。闇の小精霊オスクロだ。
『わかるけど、危ないよ。シュピネが暴れてるの』
「シュピネ?」
『大きな魔物。ほんとうは、刺激を与えなければ、むやみにおそってこないの。でも、変な模様をつけた人間たちが怒らせたの』
「……」
夜那は眉間に皺を寄せながら、唇を撫でる。
「夜那、小精霊は応えてくれたか?」
夜斗が問いかけると、夜那は渋い顔のまま答えた。
「オスクロが応えてくれた。場所はわかる。でも、シュピネっていう魔物が、変な模様をした人間たちを襲ってるって」
夜那の言葉を聞いて、ファルはリチャードに告げた。
「精霊の言う変な模様とは、刺青のことかもしれません。セプスクルクスは、仲間の証として、共通の刺青をしていたはずです」
「なら急がねぇと!」
リチャードは慌てる。ファルは今度は、暁の兄妹に視線を向ける。
「お二方は、危険ですが先に行って、魔物の相手をお願いします。盗賊のほうは我々が」
「了解しました。夜那」
「うん。オスクロ、案内して」
『わかった。でも、魔物がこわいから近くまでね』
二人はオスクロの案内で、森の中に飛び込んだ。すぐに姿が見えなくなる。
兄妹を見送り、リチャードは騎士たちと向かい合う。
「おまえらにやってもらいたいのは、生き残った盗賊たちの確保だ。怪我をしている場合、拘束したのちに最低限の手当てを。できる限り、無用な戦闘は避けろ」
「「はい!!」」
「私が先行して、盗賊の痕跡を探しましょう」
「頼むな、ファル。行くぞ!」
リチャードたちも、夜斗たちを追うように、森へと入った。
しばらく走っていると、前方に鬱蒼とした森が見えてきた。
「あれがユグルの森です」
「入り口で馬を止めよう」
リチャードの指示で、森の入り口で、馬を止めて降りる。
森は、木々が生い茂り、日の光が届かないせいか、奥まで見ることができない。
「いかにも、なにかが出そうな森だな」
リチャードが不気味だと言わんばかりに、森を見ながら呟く。
「実際に魔物と盗賊は出ますがね。もしかしたら、魔物に喰われた者の幽霊が」
「やめろよ! 俺がそういうの苦手だって知ってるだろ!」
ファルの脅かしに、リチャードは泣きそうになる。
主従のやりとりには目もくれず、夜斗は夜那を見下ろす。
「夜那。念のため、盗賊のアジトの場所を、小精霊たちに聞けないか?」
「やってみる」
夜那は森に視線を向け、語りかけた。
「小精霊たち。だれでもいいから、応えてほしい。この森に、人間たちがいるはずなんだ。居場所を知っていたら、案内してほしい」
精霊たちの姿が視えない夜斗たちは、じっと夜那の様子を見守る。
「お願い。応えて」
『主、我が問いかけてみよう。精霊たちには、我の声も聞こえるはずだ』
夜那の腰にある紫闇が、闇の魔晶石を瞬かせながら、提案する。
「そのほうが良さそうだ。頼むよ」
『うむ。小精霊たちよ、我の声が聞こえるな。我が主の願いを、聞き届けてほしい』
夜那にしか聞こえない声で、紫闇が語り掛ける。すると、ぽわぁっと紫色の球体が、夜那の前に現れた。闇の小精霊オスクロだ。
『わかるけど、危ないよ。シュピネが暴れてるの』
「シュピネ?」
『大きな魔物。ほんとうは、刺激を与えなければ、むやみにおそってこないの。でも、変な模様をつけた人間たちが怒らせたの』
「……」
夜那は眉間に皺を寄せながら、唇を撫でる。
「夜那、小精霊は応えてくれたか?」
夜斗が問いかけると、夜那は渋い顔のまま答えた。
「オスクロが応えてくれた。場所はわかる。でも、シュピネっていう魔物が、変な模様をした人間たちを襲ってるって」
夜那の言葉を聞いて、ファルはリチャードに告げた。
「精霊の言う変な模様とは、刺青のことかもしれません。セプスクルクスは、仲間の証として、共通の刺青をしていたはずです」
「なら急がねぇと!」
リチャードは慌てる。ファルは今度は、暁の兄妹に視線を向ける。
「お二方は、危険ですが先に行って、魔物の相手をお願いします。盗賊のほうは我々が」
「了解しました。夜那」
「うん。オスクロ、案内して」
『わかった。でも、魔物がこわいから近くまでね』
二人はオスクロの案内で、森の中に飛び込んだ。すぐに姿が見えなくなる。
兄妹を見送り、リチャードは騎士たちと向かい合う。
「おまえらにやってもらいたいのは、生き残った盗賊たちの確保だ。怪我をしている場合、拘束したのちに最低限の手当てを。できる限り、無用な戦闘は避けろ」
「「はい!!」」
「私が先行して、盗賊の痕跡を探しましょう」
「頼むな、ファル。行くぞ!」
リチャードたちも、夜斗たちを追うように、森へと入った。
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