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第四章 王子の依頼
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夜那のギルド加入の疑問には、キャスが答えた。
「入ってるぜ。職人ギルドに所属しねぇと、商売許可が下りないかなら」
「では、なぜ共同工房で仕事をしないんですか?」
夜斗もキャスとサラが、結界魔晶石の保護下ではない、魔物も出没するような危険な場所に、工房を構えているのが、気になっていたために問いかけた。
「簡単なことじゃ。街の職人は、一つの分野に特化した連中なんよ」
「鍛冶職人なら、のこぎりは作れても、家具を作ることはできねぇ。その逆もな」
「わしらは興味がわいたもんには、すぐに手を出すタチでのう。どうせ作るなら、一から全部、自分の手で作りたか」
サラは自分が作ったテーブルを撫でた。
「じゃがのぉ、街の職人共はそれを良しとせん」
「そんなわけで、街の外だが、すぐ近くに使われてないこの小屋があることは知っててな。改造して俺たち専用の工房にしたってわけだ」
「職人も、なかなか大変なんですね」
お気楽な暇人と思っていた二人の複雑な事情に、夜斗は意外だという表情を浮かべる。
だが次の瞬間、夜那が爆弾を落とした。
「つまり、嫌われてるんだ」
「ちょっ、こら夜那!」
夜那の直球さに、夜斗は慌てる。
「「アハハハハ!!」」
だが、キャスとサラは怒るどころか、腹を抱えて笑った。
「じょ、嬢ちゃん、ストレートだな!」
「じゃが、事実でもある。このあたりは繁殖力の高い魔物さえ討っていれば、そこまで危険はなか」
「一応、俺たちも戦えるし」
「そうなんですか?」
キャスの言葉に、兄妹は目を丸くした。
「じゃなきゃこんなとこに工房作らねぇっての。それに、いままで自分たちで掃除をやってたんだし」
「まぁ、これからはおまんに、頼むことになるじゃろうな」
「こっちとしては、お金がもらえるので、ありがたいです」
そういって、夜斗はヴェルデを飲み干した。それを見て、夜那も飲みきる。
兄妹の帰る雰囲気を感じ取ったキャスは腰を上げ、棚から金の入った袋を持ってきた。
「そろそろ帰るんだろ? いくらだ?」
「俺は十体。夜那は?」
「十くらい」
「合計二十体。十万五千ギルですね」
「わかった。ほれ」
夜斗はキャスから受け取り、金額を確認する。
「……はい。たしかに。それじゃあ、俺たちはこれで。お茶、ありがとうございました」
「ありがと」
「おー。気ぃつけて帰りな」
「王子様が、店に来とるかもしれんのぉ」
「嫌なこと言わないでください!」
「ハハハハッ」
夜斗の噛みつきに、サラは楽しそうに笑った。
キャスとサラの工房を出た兄妹は、街へと戻る。
「にぃ。そんなに嫌なの?」
「あぁ。なにか、大きなものに、巻き込まれそうな予感がするんだよ」
「でも、王子本人が来たら、断らないんでしょ?」
「どうかな」
そよ風が二人の間を抜けていく。その際、風の中にいたビエントが、夜那に囁いた。
『王子と従者が、チーア食堂にきたよ』
「ん。ありがとう、ビエント」
「どうした?」
夜那は夜斗を見上げる。
「王子と従者が、お店に来たって」
夜斗は眉間にしわを寄せた。
「入ってるぜ。職人ギルドに所属しねぇと、商売許可が下りないかなら」
「では、なぜ共同工房で仕事をしないんですか?」
夜斗もキャスとサラが、結界魔晶石の保護下ではない、魔物も出没するような危険な場所に、工房を構えているのが、気になっていたために問いかけた。
「簡単なことじゃ。街の職人は、一つの分野に特化した連中なんよ」
「鍛冶職人なら、のこぎりは作れても、家具を作ることはできねぇ。その逆もな」
「わしらは興味がわいたもんには、すぐに手を出すタチでのう。どうせ作るなら、一から全部、自分の手で作りたか」
サラは自分が作ったテーブルを撫でた。
「じゃがのぉ、街の職人共はそれを良しとせん」
「そんなわけで、街の外だが、すぐ近くに使われてないこの小屋があることは知っててな。改造して俺たち専用の工房にしたってわけだ」
「職人も、なかなか大変なんですね」
お気楽な暇人と思っていた二人の複雑な事情に、夜斗は意外だという表情を浮かべる。
だが次の瞬間、夜那が爆弾を落とした。
「つまり、嫌われてるんだ」
「ちょっ、こら夜那!」
夜那の直球さに、夜斗は慌てる。
「「アハハハハ!!」」
だが、キャスとサラは怒るどころか、腹を抱えて笑った。
「じょ、嬢ちゃん、ストレートだな!」
「じゃが、事実でもある。このあたりは繁殖力の高い魔物さえ討っていれば、そこまで危険はなか」
「一応、俺たちも戦えるし」
「そうなんですか?」
キャスの言葉に、兄妹は目を丸くした。
「じゃなきゃこんなとこに工房作らねぇっての。それに、いままで自分たちで掃除をやってたんだし」
「まぁ、これからはおまんに、頼むことになるじゃろうな」
「こっちとしては、お金がもらえるので、ありがたいです」
そういって、夜斗はヴェルデを飲み干した。それを見て、夜那も飲みきる。
兄妹の帰る雰囲気を感じ取ったキャスは腰を上げ、棚から金の入った袋を持ってきた。
「そろそろ帰るんだろ? いくらだ?」
「俺は十体。夜那は?」
「十くらい」
「合計二十体。十万五千ギルですね」
「わかった。ほれ」
夜斗はキャスから受け取り、金額を確認する。
「……はい。たしかに。それじゃあ、俺たちはこれで。お茶、ありがとうございました」
「ありがと」
「おー。気ぃつけて帰りな」
「王子様が、店に来とるかもしれんのぉ」
「嫌なこと言わないでください!」
「ハハハハッ」
夜斗の噛みつきに、サラは楽しそうに笑った。
キャスとサラの工房を出た兄妹は、街へと戻る。
「にぃ。そんなに嫌なの?」
「あぁ。なにか、大きなものに、巻き込まれそうな予感がするんだよ」
「でも、王子本人が来たら、断らないんでしょ?」
「どうかな」
そよ風が二人の間を抜けていく。その際、風の中にいたビエントが、夜那に囁いた。
『王子と従者が、チーア食堂にきたよ』
「ん。ありがとう、ビエント」
「どうした?」
夜那は夜斗を見上げる。
「王子と従者が、お店に来たって」
夜斗は眉間にしわを寄せた。
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