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第三章 チーア食堂の女主人
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夜斗が冒険者ギルドの扉を開けた瞬間、中の喧騒が響いてきた。
ギルドの中は、右側の壁に冒険者への依頼が貼られたクエストボードがあり、奥には受付カウンターがある。左側のスペースは情報交換のための、飲食スペースとなっていた。チームで行動している者たちや、プラチナやミスリルといったランクの高い者たちは、二階の比較的静かな場所を使えるが、一階のスペースは、ただただ賑やかしい。
夜斗と夜那は受付カウンターに向かった。受付嬢が二人に気づいて、書類整理から顔を上げる。
「こんちには! お二人とも、初めての方ですね。ご依頼ですか? それとも冒険者登録ですか?」
「どっちも無し。今回は、滞在証明をしに来た」
夜斗と夜那は冒険者メダルを外し、カウンターに置いた。
「ご確認しますね。えっと……え!? お二人ともミスリル!? それに<剣銃の死神>と<紫金の魔剣士>!?」
受付嬢の悲鳴に近い声に、ギルド内がシーンッと静まりかえる。
「おい、あいつらが?」
「二つ名持ちとは、思えねぇな。まだガキじゃねぇか」
「しかも、一人は小さな女の子だぞ? 腰に剣を差しちゃいるが、ちゃんと扱えんのか?」
ギルド内にいた冒険者たちが、小声で兄妹のことを話し始める。
「そういえば、さっき時計塔広場の騒ぎのときに、あいつら見たな」
「え? じゃあ、あのチビが魔剣を制御したって、本当なのか?」
「そもそも、魔剣が本物なのかわかんねぇだろ。あんなレア物、本来なら古代遺跡の最奥とかにあるもんだろ」
「でもよ、魔物を生み出してたじゃねぇか。そんなん普通、できるわけねぇだろ?」
先ほど起きた、時計塔広場の事件を見ていた者たちが、夜那が腰に差す闇の魔剣の紫闇について、口々に言い合う。そんな中、夜那は自分をじっと見つめてくる視線に気づいた。
夜那がそちらに目を向けると、そこには頬に十字の傷がある無精ひげの男がいた。彼の右腕上腕部には、十字に二匹の蛇が巻き付いた刺青があった。
(なんだか、広場のときにも感じたような……。それにしても、なんか気分が悪い)
嘗め回すような視線に、夜那は不快な顔をして、紫闇を撫でた。紫闇は答えるように、柄頭にある闇の魔晶石をキラリと輝かせる。
夜斗はカウンターを指先で叩き、受付嬢に意識を戻させた。彼女はハッとして、夜斗を見た。
「冒険者名は暁。メンバーは俺、夜斗とこっちの夜那。現在の居場所は、城へ続くの途中の高台にあるチーア食堂」
「早く、済ませて」
「あ、は、はい! ごめんなさい!」
夜那の催促に、受付嬢は慌てて、夜斗の言ったことを書類に書き起こす。
夜斗は続けて、疑問を投げかける。
「ミスリルだから、個人で依頼を受けるのは可能だよな?」
「はい。もちろんです。ですが、ギルドを通しての場合、手数料として依頼料の一割をいただきます」
「わかった。他に注意事項は?」
「あ、ありません」
受付嬢の言葉に、二人はメダルを手に取り、用は済んだとばかりに背を向ける。
「あ、あの! お二人はここに直属するつもりは、ありませんか? そうすれば、定期的にお仕事を回せます!」
冒険者は兄妹のように流浪の旅をする者もいれば、一つの町のギルドに所属し、そこから依頼を受けて仕事をする者と分かれている。
前者は仕事が不定期な分、収入も安定しない。後者は収入は安定するものの、ギルドからの命令は絶対と縛られることになる。
ギルドにとっては、ランクが高い者が多く所属すれば、それだけ信頼度があがり、依頼も増える。必然的にギルドへの収入が増えるのだ。
「悪いが直属になるつもりはない」
「一ヵ所に縛られるのは嫌」
二人はそう言って、冒険者ギルドを後にした。
ギルドの中は、右側の壁に冒険者への依頼が貼られたクエストボードがあり、奥には受付カウンターがある。左側のスペースは情報交換のための、飲食スペースとなっていた。チームで行動している者たちや、プラチナやミスリルといったランクの高い者たちは、二階の比較的静かな場所を使えるが、一階のスペースは、ただただ賑やかしい。
夜斗と夜那は受付カウンターに向かった。受付嬢が二人に気づいて、書類整理から顔を上げる。
「こんちには! お二人とも、初めての方ですね。ご依頼ですか? それとも冒険者登録ですか?」
「どっちも無し。今回は、滞在証明をしに来た」
夜斗と夜那は冒険者メダルを外し、カウンターに置いた。
「ご確認しますね。えっと……え!? お二人ともミスリル!? それに<剣銃の死神>と<紫金の魔剣士>!?」
受付嬢の悲鳴に近い声に、ギルド内がシーンッと静まりかえる。
「おい、あいつらが?」
「二つ名持ちとは、思えねぇな。まだガキじゃねぇか」
「しかも、一人は小さな女の子だぞ? 腰に剣を差しちゃいるが、ちゃんと扱えんのか?」
ギルド内にいた冒険者たちが、小声で兄妹のことを話し始める。
「そういえば、さっき時計塔広場の騒ぎのときに、あいつら見たな」
「え? じゃあ、あのチビが魔剣を制御したって、本当なのか?」
「そもそも、魔剣が本物なのかわかんねぇだろ。あんなレア物、本来なら古代遺跡の最奥とかにあるもんだろ」
「でもよ、魔物を生み出してたじゃねぇか。そんなん普通、できるわけねぇだろ?」
先ほど起きた、時計塔広場の事件を見ていた者たちが、夜那が腰に差す闇の魔剣の紫闇について、口々に言い合う。そんな中、夜那は自分をじっと見つめてくる視線に気づいた。
夜那がそちらに目を向けると、そこには頬に十字の傷がある無精ひげの男がいた。彼の右腕上腕部には、十字に二匹の蛇が巻き付いた刺青があった。
(なんだか、広場のときにも感じたような……。それにしても、なんか気分が悪い)
嘗め回すような視線に、夜那は不快な顔をして、紫闇を撫でた。紫闇は答えるように、柄頭にある闇の魔晶石をキラリと輝かせる。
夜斗はカウンターを指先で叩き、受付嬢に意識を戻させた。彼女はハッとして、夜斗を見た。
「冒険者名は暁。メンバーは俺、夜斗とこっちの夜那。現在の居場所は、城へ続くの途中の高台にあるチーア食堂」
「早く、済ませて」
「あ、は、はい! ごめんなさい!」
夜那の催促に、受付嬢は慌てて、夜斗の言ったことを書類に書き起こす。
夜斗は続けて、疑問を投げかける。
「ミスリルだから、個人で依頼を受けるのは可能だよな?」
「はい。もちろんです。ですが、ギルドを通しての場合、手数料として依頼料の一割をいただきます」
「わかった。他に注意事項は?」
「あ、ありません」
受付嬢の言葉に、二人はメダルを手に取り、用は済んだとばかりに背を向ける。
「あ、あの! お二人はここに直属するつもりは、ありませんか? そうすれば、定期的にお仕事を回せます!」
冒険者は兄妹のように流浪の旅をする者もいれば、一つの町のギルドに所属し、そこから依頼を受けて仕事をする者と分かれている。
前者は仕事が不定期な分、収入も安定しない。後者は収入は安定するものの、ギルドからの命令は絶対と縛られることになる。
ギルドにとっては、ランクが高い者が多く所属すれば、それだけ信頼度があがり、依頼も増える。必然的にギルドへの収入が増えるのだ。
「悪いが直属になるつもりはない」
「一ヵ所に縛られるのは嫌」
二人はそう言って、冒険者ギルドを後にした。
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