暁~双子の冒険者~

岡本梨紅

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第四章 王子の依頼

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 クリスティルパラードの外れにある旧市街地。ここは、唯一戦争の被害を逃れた場所ではあるが、今となっては荒くれ者たちの溜まり場と化している。
 そんな場所を、リチャードとファルは歩いていた。
 
「昨日の時計塔広場の事件、死人がでなくてよかったな」
「そうですね。あの兄妹がいたからこそ、さほど被害が大きくならなかったといえるでしょう」
「だな。運が良かったよ」

 二人は旧市街地の広場のようなところへ出た。

「あ! 王子さまとファルさまだ!」
「ほんとだ!」

 そこには旧市街地に住む子供たちが遊んでおり、その中の一人がリチャードたちを見つけて声を上げると、どこからともなく大勢の子供が現れ、二人を囲んだ。

「おーおまえら、元気か?」
「「元気だよー!!」」

 リチャードの問いかけに、口をそろえて答える子供たち。

「〝家族〟にいたずらをして、迷惑をかけていませんか?」
「「良い子はいたずらしませーん!!」」
「そうですね。みんな良い子ですからね。仕事をほったらかして、フラフラしているどこぞの方と大違いです」

 ファルは優しく笑いながら、子供らの頭を順番に撫でてやる。

「おいファル。最後のって、俺のこと言ってんのか?」
「おや? 私はまだ一言も殿下であると申しておりませんよ?」

 ファルはいじわるな笑みを浮かべる。

「王子さまー、それって、ひがいもうそうっていうんだぜ?」
「ダッセー」
「んだとコラ!」
「わー! おこったー!」
「にげろー!」

 リチャードは逃げ回る子供たちを追いかける。

「殿下―。みんなー。ほどほどにしてくださいねー」

 追いかけっこをしだしたリチャードと子供たちに、ファルはゆるやかに注意をした。

「さて、きみたち。なにか、困ったこととかはありませんか?」

 ファルは自分の元に集まる、大人しい性格の男の子や、小さな女の子たちに声をかけた。

「んー。とくにないよ」
「あ、でもね。見たことない、おとなの人が、出入りしてるの」
「うん! なにかをさがしてるみたいに、あるきまわってるよ」

 ファルは真剣な表情を見せる。

「誰か、その者たちに近づいたり、声をかけられたりしたことは?」
「わ、たし、声をかけられたけど、すぐにお姉ちゃんたちが、来てくれて、なんともなかったの。でもなんか、こわい人だった」

 少女は当時のことを思い出したのか、しきりに腕をさする。
 ファルは真剣に、向き合う。

「怖いとは? わかるとこだけでいいので、教えてくれますか?」
「う、うん。その人、えがお、なんだけど、うそっぽくて。わたしのうで、つよくにぎってきて、いたくて、すごくこわかった」
「そう、ですか。怖いのに、思い出してくれてありがとう」

 ファルは震える女の子を抱きしめた。

「ビエントが、『王子たちが来たよ』て言うからバーで待ってたのに、いつまでも来ないと思ったら、こんなところにいた」
「おや、ロイ」

 ファルが顔を上げると、腰に手を当て呆れた表情の青年がいた。彼は黒髪で、切れ長の細目で、簡素な青系統の服を着ていた。ファルの異父弟、ロイである。
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