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 近衛唯人このえゆいとは、昼休みにも関わらず、机にノートと参考書を広げて、ひたすらシャープペンを動かしていた。
 もう片手にはおにぎりを持ち、時折それにかぶりついている。

「あいつ、またやってるよ」
「食べるか勉強するか、どっちかにすればいいのにね」
「ちょっと、異常だよね」

 クラスメートたちが、遠巻きに唯人のことを見つつ、そんな会話をしている。だが、唯人はそちらを見ようともしない。

 そんな唯人に近づく一人の女子生徒がいた。クラス委員長の染崎杏里そめざきあんりだ。
 彼女は唯人の机の前に立つと、クイッと眼鏡をあげる。

「近衛くん。少しいいですか?」

 唯人は染崎に一瞬だけ視線を向けるも、すぐに参考書に目を落とす。
 染崎の頬が、ピクリとひきつる。

「近衛くん!」
「うるさいな。そんなに大声ださないでよ。で? 用件は?」
「話すときは人の目を見て」
「用件は?」

 唯人は染崎の言葉を、遮った。
 彼女は怒りを抑えるかのように、ゆっくりと息を吐き出し、呼吸を整える。

「食事か勉強。やるならどちらか一方に、するべきではありませんか?」
「なんで?」
「え?」

 質問を質問で返されると思っていなかった染崎は、戸惑った。

「な、なんでって、行儀が悪いからです」
「だからなに?」

 唯人はようやく手を止めて、顔をあげる。

「だれかに迷惑をかけてるわけじゃないんだから、放っておいてよ」

 そういって、唯人は染崎から、視線をはずした。
 染崎は顔を真っ赤にして、唯人の前から立ち去った。

 二人のやりとりをみていたクラスメートたちが、またヒソヒソと言葉を交わしている。
 唯人はそれに対して「チッ」と舌打ちをした。

(なんで僕より劣るやつの言うことを、聞かなきゃいけないんだよ。僕は誰よりも優秀なんだ。だから、僕のやり方に口を出す権利は、誰にもないんだ!)

 唯人はおにぎりを包んでいたラップをぐしゃぐしゃにすると、鞄に放り込んだ。
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