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一ノ巻 大工仕事はお任せを 紅丸

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 お蘭は店の奥に向けて、声を投げかけた。

「白菊、お客さんにお茶を一つ頼むよ」
「はいにゃ」

 返事を聞いたお蘭は、喜助に向き直った。

「さて、ここに来たってことは、うちの子たちの手を借りたいってことだろうけど、どの子の手を貸してほしいんだい?」
「いや、えっと……」

 お蘭の問いかけに、喜助は焦った。仁平に「化け猫亭に行って、誰々を借りてこい」と言われたものの、喜助は「化け猫亭」について何も知らず、かつ誰を借りてくればいいか、わからなくなっていた。

「すんません。俺、親方にここに行けって言われたけど、この店がなんなのか、いまいちわかっていなくて。あと、誰を借りてこいって言われたかも忘れちまって」
「そうかい。まずはこの店の説明をしようかね。この店は、戸口の立て看板にあったように、化け猫の手を貸すんだよ。化け猫っていっても、私のような人型じゃなく、猫又だけどね。人手の代わりに猫の手を貸すってわけさね」
「はぁ」
 説明を聞いても、いまいち理解できない喜助は、気の抜けた返事しかできない。

「その化け猫と猫又の違いって、なんなんすか?」
「種族の違いですにゃ。猫又は化け猫族に属する一族なんですにゃ」

 第三者の声が聞こえると同時に、喜助の視界の下から御盆の上に乗せられた、緑茶が入った湯呑みがせり上がってきた。

「お茶をお持ちしましたにゃ。お客様」
「ね、猫がしゃべった!?」

 御盆のかげから、前掛けをつけた白猫が、喜助に笑いかけた。しかし、喜助が驚いて飛び上がると、白猫はむっと不満そうな顔をする。

「白菊は猫又ですにゃ。人間の言葉を話せて当然ですにゃ」
「あ、そうなんすか。すんません、驚いて。お茶、いただきます」

 喜助は白猫こと白菊に謝って、湯呑を受けとると、ずずずっとすすった。

「うめぇ! 俺、こんなうまいお茶、初めてっす!」
「よかったですにゃ」

 白菊は嬉しそうに笑い、しっぽをゆらゆらと揺らした。そのあと白菊は「失礼しますにゃ」と言って、奥へ下がった。
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