暁の草原

Lesewolf

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第14環「金色の真実」

⑭-8 フェルド平原で待つもの④

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「もしかして、あの子……」
「そう、黒龍だ」

 頷きながら答えるルクヴァに、あまり余裕はない。ミラージュの肩を抱き寄せながらも、ルクヴァは黒龍から目を離さなかった。

「レンは許さないそうだ」
「まあ」

 ミラージュはそっと黒龍の少年に近づくと、ゆっくりと屈んだ。

「お名前は?」
「え……。いえ、黒龍としか……」
「人として暮らすのであれば、名前があった方がいいですわ」
「え? でも、僕は名前なんて……」

 手を握るマリアは、黒龍に向かって微笑みかけた。その微笑みに照れ、少年は頬を赤く染めた。

「ゆっくり考えましょう。これから、生きていくのだから……」
「マリア……」
「あら、ようやく名前を呼んでくれたのね」
「うっ…………」

 更に赤面させる少年を見つめ、一行は笑った。心から笑えない者も、今だけは笑っていた。レン以外は……。



 ◇◇◇


 フェルド共和国へ一行が入ると、宿の前でルゼリアの王子であるトゥルクと、アルブレヒトの妹であるメリーナが待っていた。ミラージュの姿に感激したトゥルクが駆け寄ろうしたが、病弱な王子より先にミラージュが駆け寄り抱き寄せた。

「ああ、トゥルク……。大きくなりましたね、少し太ったかしら」
「最近は調子がいいのです。ああ、お母さん……。兄さんも! 父さんも、よく無事で……」
「トゥルク、呼ぶのが渋滞しているじゃないか。俺は最後か?」
「違うのです、お父様!」

 トゥルクは涙を流しながら、家族と共に宿へ向かった。サーシャの手筈で、アルブレヒトやマリアも宿泊できることになっていた。フリージアはサーシャに付き添って何処かへ行ってしまったのだ。そして、宿の部屋の数に、レンは含まれていない。

「レンはどうするの?」

 黒龍の少年の手を繋ぎながら、マリアはレンへと問いかけた。それでも、レンは黒龍を見下ろすように複雑な表情を浮かべた。

「ボクは、さすがにもう戻るよ」
「戻るって、ティトーに?」
「うん」
「レン様」

 聖女であるサーシャは深く首を垂れると、レンのように黒龍を見つめた。

「教会を開けておきました」
「教会? なんでまた」
「信者はもう寝る時間でございます。二人で話すの出れば、教会が静かでよろしいかと思いまして」
「うん」

 サーシャはアルブレヒトを見つめると、黙って頷いた。二人で話をして来いという意味であろう。

「わかった。ねえ、マリア」
「なに?」

 レンは黒龍と手を繋ぐマリアを、力いっぱい抱きしめた。お別れを感じ、マリアの目に涙が滲んでいく。

「泣かないつもりだったのに」
「ごめん。マリア、……辛い思いをさせた」
「ううん、いいのよ。もう、いいの。レンは、ティニアは帰ってきてくれたじゃない」
「うん」

 顔を上げたマリアの頬を、レンの指がなぞる。止めどなく流れゆく涙を、レンはそっと救い上げた。

「泣かないで、ラーレ」
「泣くわよ、ティニア……。ありがとう」
「兄さんと、それから小さな僕をよろしくね」
「ええ……」

 レンは黒龍を一瞥した。

「黒龍」
「…………」
「ボクは君を許さないから。悔い改めて」
「…………」
「ほら、黒龍ちゃん」

 マリアの呼び名に反応するように、黒龍の少年が顔を上げる。レンと目が合うと、黒龍の少年は即座に目を逸らした。そして、呟いたのだ。

「こんなに近くで、レンを見るのは初めてだ」
「…………」

 少年は顔を上げる。レンの瞳は、黒龍を映し出していた。黙って見つめ合っていた二人だったが、レンが目を閉じる形で視線を逸らした。

「貴重な時間を、こいつに使いたくない」
「行こう、レン」

 アルブレヒトが手を差し出したものの、レンはその手を取ることが出来ずにいた。

「レンはどうして、そいつの愛を拒むんだ」
「愛って……」

 レンは呆れたように黒龍を見つめた。黒龍は目を離すことなく、レンを見つめていた。レンはそれが面白くなかったのか、ため息を吐き出した。

「やっぱりボクは、お前とは相容れないな」

 レンはアルブレヒトの腕を掴むと、腕を組むように掴んだ。

「行こう、アル」
「え、あ。レン、待って……」

 その姿をみて、マリアは思わず吹き出してしまった。その笑いの意味が分からず、黒龍の少年は首を傾げることしか出来なかった。
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