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第13環「白銀の再会」
⑬-2 再会とわだかまり②
しおりを挟む「アルブレヒト」
レン呼びかけに、アルブレヒトは言葉にならず、口を開閉させた。
「どうしたの! 言葉になっていないよ?」
「いや……」
レンは驚きつつもお道化て見せたが、アルブレヒトはそれでも言葉に詰まっていた。
「キミは、ボクが守るから!」
「…………」
白銀の髪が、風に靡いていく。青々とした青空は雲一つなく、その白銀の髪がより一層美しく映えている。
「今度こそ、守るからね」
「守らなくていい」
「どうして?」
レンは寂しそうな表情を浮かべ、アルブレヒトに歩み寄った。アルブレヒトはそれを数歩下がる形で拒絶した。レンは俯きつつも、その表情はあまり変わらない。
「…………ごめん。辛い思いばかりさせて」
「ッ……いや、これは…………」
「ううん。ボクは嫌われても仕方がないことをしていたからね」
「違う、俺は……」
心配そうにアルブレヒトを見つめるレン。レンはアルブレヒトの手を取ると、跪いた。あまりに自然な動作に、アルブレヒトにためらいが生まれた。
「ボクにとっては、今もキミは大切な友人だよ。守護竜アルブレヒト」
「…………レン……」
「今度こそ、キミを守るよ。だから……」
レンは立ち上がると、腕を思い切り上げた。そのまま伸びをしたのだ。耳としっぽがピーンとなり、やがて震えた。懐かしいレンの動作に、アルブレヒトの目頭が熱くなる。
「ふう。落ち着いたら、ゆっくり話そうよ」
「ゆっくり話す時間なんてあるのか?」
「少しくらいなら、頑張るよ」
「…………黒龍の件が片付いたら、ティトーに戻るのか?」
「そりゃね。これは、ティトーちゃんの身体だからね」
レンは腰に手を当てると天を仰いだ。やはり雲一つない晴天の空は、遠く、気高い。そして、空には巨大な月の幻影がある。
「お前の意識は、記憶はどうなるんだ」
「それは……。消えちゃうんじゃないかな。一時的に無理やり出て来てるだけだから」
「そうか……」
「ごめん。黒龍に対抗するには、無理やり記憶を残すしかなかったの。巫女継承のオーブに触れたことで、ボクは一時的に力を取り戻したけれど、やっぱり昔のようにはいかないし。ボクの前世はどうしても、記憶が重なっているからね。混同しないだけマシだよ。とはいえ、過去に黒龍を撃退した時と同じ、期限付きだよ。君たちみたいに思い出すかもしれないけれどね」
「…………」
「でも」
レンは無邪気に笑った。まるで、晴天の青空のように。明るくなった表情に、アルブレヒトは眼を奪われる。
「キミにまた会えた……」
「レン…………」
アルブレヒトがレンへ歩み寄ろうとした時、周囲がざわつき始めた。そこにはルクヴァとコルネリアに抱きかかえられる形で、代王であるクラウス。そして、手枷を付けられたミリティアが姿を現した。その後ろから、レオポルト、マリアや多くの兵士が顔を並べた。
「アルブレヒト王子……」
「クラウス代王、アルブレヒト王子については、今は問題にしないで頂きたい」
「…………」
ルクヴァの言葉に、アルブレヒトを睨みつけるクラウスからは憎悪の眼差しが突き刺さっていく。クラウスの娘、ミラージュ王女は先の戦乱で行方不明のままだ。戦死したと噂する貴族も居る中で、クラウスは娘の安否を探し続けているのだ。憎悪の眼差しはアルブレヒトの心を貫いていく。
「アルブレヒト王子は、ルゼリア国内のクーデターを止めるために奔走してくれました。そうですよね、アルブレヒト・フォン・アンザイン殿下」
「…………」
「そうか。だが、儂は……」
クラウスがさらに睨みを利かせた所で、レンがその視線に割って入る形で歩み出た。
「おじいちゃん、そこまでにしてよ」
「ティトー……」
おじいちゃんと呼ばれ、クラウスの顔が緩んでいく。レンはアルブレヒトの前に立つと、クラウスを優しそうに見つめた。
「アルブレヒトは、ボクの友人なんだ。生まれ変わろうと、それが揺らぐことない。それは、ティトーにとっても同じことだよ。そうだよね、アルブレヒト」
「…………そうだな。でも、友人というだけで……」
「うん。それにね、ミラージュは生きてるよ。ミラージュお母さんってことになるのか」
「何?」
言葉にならなかったクラウスに代わり、ルクヴァが声を上げた。わなわなと震えながら、ルクヴァはレンに迫った。
「どういうことだ、レン。ミラは、生きているのか? どこに、どこにいるんだ!」
「あの時。本当は何があったのか、真実を話すよ」
レンはクラウス、そしてルクヴァ、そしてレオポルトにミリティアを見つめた。
「まずね、幼いボクは力を満足に使えなかった。記憶というエーテルを別に作っていたボクは、別人格として動けたの。生まれてすぐに、ミラージュとコルネリアに真実を告げた。コルネリアは前世の記憶を保持していたから、話はスムーズに伝わったよ。それでも、ルクヴァに伝えることは出来なかった。それは二国間の問題があったんだよ」
セシュール国とルゼリア国の間には、隔たりの絶壁と言われるほどの政治的にも心情的にも壁が存在していた。連合王国だった時代こそ安定していたものの、解体されてからの二国間は国を隔てる絶壁だけではなくなった。
ルゼリア国内では民衆や王族たちとの壁が生み出されたのだ。共に連絡を取ることなど出来なかったルクヴァもまた、一方的な書面にて離婚を突き付け、知らなかったとはいえ身重のミラージュを絶望のどん底へ突き落してしまったのだ。
その結果、両国間の間には壁であり、溝が生み出されてしまった。その溝は、巨大なクレバスよりも深い。
「先の大戦で、黒龍と反ニミアゼルが暗躍していた。反ニミアゼルは、大巫女の存在をも否定している。だからあの戦乱の混乱の中で、ミラージュ王女を暗殺しようと計画していたんだ」
「な、なんだと……」
クラウスが声を漏らした。クラウスによっては一人娘のミラージュだ。その憤りは計り知れないだろう。
「黒龍本人の攻撃によって、ミラージュは大きなダメージを負った。それは、小さなボクでは修復することが出来なかった。その時のボクはシュタイン辺境伯領にいたから、遠かったしね」
「そうです。ティトー姫はまだ幼かった」
コルネリアは真実を知っているかのように、レンの言葉の後押しをした。その言葉に、ルクヴァだけではなく、クラウスも熱い視線を送った。
「だから、ミラージュを時の止まった亜空間に無理やり閉じ込めて、時間を止めて、傷を修復することにしたの」
「あ、亜空間だって?」
「そう。でも、ボクはそれだけで力尽きて、目覚めたのは最近なの。だから、コルネリアに伝える事も出来なかったんだ。ごめんね」
「……そうだな。私は戦争に行っていたから、戻ってきたときにはもうレンの意識はなく、ティトーだった」
レンは寂しそうな笑みを浮かべると、コルネリアからルクヴァ。そしてクラウスからレオポルトを見つめた。
「だから、ミラージュは生きてる。でも、まだ傷の修復が終わっていない。でも、今のボクにはその修復が出来るんだ」
「だったら、今すぐにでも……!」
「そう焦らないで、ルクヴァ。亜空間はこじ開けた場所からじゃないと、開けられないんだ。だから、フェルド平原へ行く必要があるの」
「フェルド平原か……」
「フェルド平原は広いから、黒龍と闘うには適している。倒した後にでも、ゆっくり傷の修復をするよ。影響を受けさせないために、フェルド共和国側には、頑丈なバリアを張らせてもらうから、今のうちに移動しておく必要がある」
レンはミリティアを見つめた。ミリティアはバツが悪そうに視線を逸らしたが、すぐに視線を上げ、レンを見つめながら頷いた。ミリティアにとって、黒龍という存在は恐ろし存在であるかのように、怯えていた。
「大丈夫だよ。もう、黒龍がルゼリア王家にちょっかいなんて出せないようにしてやるから」
レンは月を見つめた。それは昔からそこに存在していた、幻影の月だ。
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