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第12環「業火のルゼリア」
⑫-2 シュタイン辺境伯領にて②
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「明日には王都か」
レオポルトが呟くと、アルブレヒトが驚いたように声を上げた。
「一日でたどり着けるのか?」
「今日一日、ここで休むわけではないからな」
「セシュール軍の進軍の速さには、いつも驚かされるよ」
複数人のシュタイン家のメイドたちが茶や菓子を振舞っているものの、その表情はどこか強張っていた。
「おい、君たちは情報は何も掴んでいないのか」
レオポルトがポニーテールのメイドに話しかけたが、彼女は首を横に振るだけで何も答えようとはしなかった。その非協力的な姿は噂通りだ。
「ティトーは、こんなところに居たのか」
レオポルトの言葉に、メイドの一人が反応した。カシャリと茶器の音を立て、動揺を見せたのだ。
「お前はティトーを知っているのだな」
「お答えできません」
「大巫女になったぞ、ティトーは。公式での発表はここには届いていないのか? 届けば、わかるだろう」
「別に虐げた扱いをしていたわけではありません。只、干渉しないようにとの主よりの命がございましたから」
「主? コルネリアがそんな指示を出していたのか?」
メイドは更に顔を強張らせ、カタカタと肩を震わせて黙り込んだ。コルネリアの言葉一つで首が飛ぶにせよ、コルネリアに忠誠心がない以上、何もしないのがこの屋敷の使用人たちだ。それはあまりに無気力で、自分勝手だ。
「メリーナについて、知っていることは?」
メリーナという言葉に、メイドは驚きを見せた。肩の震えは収まり、メイドは真剣な眼差しをアルブレヒトへ向けると、これまでとは打って変わって饒舌に喋りだした。
「メリーナ様は私たちに良くしてくださいます。優しく気高く、気品にあふれていて、どこぞの戦災孤児とは思えぬほどです」
「そうか。メリーナはティトーによく会いに来ていたそうなんだが」
「ええ、休みの度に何度も屋敷に」
「そうか。ありがとう」
「……いえ」
メイドはそのままお辞儀をすると、足早に去っていった。その姿を見つめていたレオポルトは、何か言いたげな表情でアルブレヒトを見つめた。
「やはり、コルネリアが怖いんだな。使用人たちは」
「そうだな。アルの言う通りだ。普段から非協力的なにも、当主に逆らえないってだけで忠誠心がないんだ。今だって、シュタイン家の人間は挨拶にも来ない。もう逃げた後じゃないのか? 使用人だけとは、失礼にもほどがある」
「レオはもうセシュールの人間だからわからないんだろう。ルゼリアではこれが普通かもしれないぞ」
「そうだな。ルゼリアではこれが普通だった。ルゼリアらしいといえば、らしい」
そこへタウ族が続々と戻り始め、周囲が騒がしくなってきた。レオポルトは状況の把握のため、ルクヴァの元へアルブレヒトを連れて向かった。外で待機している兵士の士気は高く、流石セシュール軍というべきだろう。
「状況は⁉」
「レオ。うむ、王都は昨日で陥落し、機能していないそうだ」
「城は?」
「籠城を続けているという、時間の問題だな。すぐに出発するぞ」
「ティトーの情報は?」
「それについてはない。籠城中の城の状況は掴めていない」
ルクヴァは拳を握りしめ、怒りをあらわにしながら、セシリアと共に地図を見つめた。
「ルクヴァと俺たちは王都の正門から入る。レオポルト、アルブレヒトは南門から攻めてくれ」
「セシリア、何も俺たちは攻めるわけじゃない」
「だーもう、わかってるよ。言葉を選ぶ暇がないだけだ、勘弁してくれ」
「鎮圧と言えばいいだろう」
「同じことだろ。制圧も鎮圧も、大して変わらん。よし、指示は俺が出すぞ、いいな! ルクヴァ!」
ルクヴァの返答を待たずに、セシリアは雄たけびを上げた。あまりの大声に、慣れていないシュタイン家の使用人たちは驚き、その場に崩れ落ちた者も出た。それが狙いだったのか、セシリアは満足そうな表情を浮かべた。
「行こう、アルブレヒト」
「ああ」
ふと、離れに小さな家が建っているのが見える。その小さな家は庭園の中心にあり、花々には手入れが施されているようだ。小さな家は静かな存在感を放っていた。花々はフェルド共和国に良く咲いている花であり、恐らく妖精の妙愛によって育てられた花だ。
ティトーが過ごしていたという家は、恐らくそこであろう。
「どうした、アルブレヒト」
「いや、なんでもない。行こう」
一度だけ振り返ったアルブレヒトは、その小さな家に向かって目を閉じた。
(無事でいてくれ、ティトー!)
レオポルトが呟くと、アルブレヒトが驚いたように声を上げた。
「一日でたどり着けるのか?」
「今日一日、ここで休むわけではないからな」
「セシュール軍の進軍の速さには、いつも驚かされるよ」
複数人のシュタイン家のメイドたちが茶や菓子を振舞っているものの、その表情はどこか強張っていた。
「おい、君たちは情報は何も掴んでいないのか」
レオポルトがポニーテールのメイドに話しかけたが、彼女は首を横に振るだけで何も答えようとはしなかった。その非協力的な姿は噂通りだ。
「ティトーは、こんなところに居たのか」
レオポルトの言葉に、メイドの一人が反応した。カシャリと茶器の音を立て、動揺を見せたのだ。
「お前はティトーを知っているのだな」
「お答えできません」
「大巫女になったぞ、ティトーは。公式での発表はここには届いていないのか? 届けば、わかるだろう」
「別に虐げた扱いをしていたわけではありません。只、干渉しないようにとの主よりの命がございましたから」
「主? コルネリアがそんな指示を出していたのか?」
メイドは更に顔を強張らせ、カタカタと肩を震わせて黙り込んだ。コルネリアの言葉一つで首が飛ぶにせよ、コルネリアに忠誠心がない以上、何もしないのがこの屋敷の使用人たちだ。それはあまりに無気力で、自分勝手だ。
「メリーナについて、知っていることは?」
メリーナという言葉に、メイドは驚きを見せた。肩の震えは収まり、メイドは真剣な眼差しをアルブレヒトへ向けると、これまでとは打って変わって饒舌に喋りだした。
「メリーナ様は私たちに良くしてくださいます。優しく気高く、気品にあふれていて、どこぞの戦災孤児とは思えぬほどです」
「そうか。メリーナはティトーによく会いに来ていたそうなんだが」
「ええ、休みの度に何度も屋敷に」
「そうか。ありがとう」
「……いえ」
メイドはそのままお辞儀をすると、足早に去っていった。その姿を見つめていたレオポルトは、何か言いたげな表情でアルブレヒトを見つめた。
「やはり、コルネリアが怖いんだな。使用人たちは」
「そうだな。アルの言う通りだ。普段から非協力的なにも、当主に逆らえないってだけで忠誠心がないんだ。今だって、シュタイン家の人間は挨拶にも来ない。もう逃げた後じゃないのか? 使用人だけとは、失礼にもほどがある」
「レオはもうセシュールの人間だからわからないんだろう。ルゼリアではこれが普通かもしれないぞ」
「そうだな。ルゼリアではこれが普通だった。ルゼリアらしいといえば、らしい」
そこへタウ族が続々と戻り始め、周囲が騒がしくなってきた。レオポルトは状況の把握のため、ルクヴァの元へアルブレヒトを連れて向かった。外で待機している兵士の士気は高く、流石セシュール軍というべきだろう。
「状況は⁉」
「レオ。うむ、王都は昨日で陥落し、機能していないそうだ」
「城は?」
「籠城を続けているという、時間の問題だな。すぐに出発するぞ」
「ティトーの情報は?」
「それについてはない。籠城中の城の状況は掴めていない」
ルクヴァは拳を握りしめ、怒りをあらわにしながら、セシリアと共に地図を見つめた。
「ルクヴァと俺たちは王都の正門から入る。レオポルト、アルブレヒトは南門から攻めてくれ」
「セシリア、何も俺たちは攻めるわけじゃない」
「だーもう、わかってるよ。言葉を選ぶ暇がないだけだ、勘弁してくれ」
「鎮圧と言えばいいだろう」
「同じことだろ。制圧も鎮圧も、大して変わらん。よし、指示は俺が出すぞ、いいな! ルクヴァ!」
ルクヴァの返答を待たずに、セシリアは雄たけびを上げた。あまりの大声に、慣れていないシュタイン家の使用人たちは驚き、その場に崩れ落ちた者も出た。それが狙いだったのか、セシリアは満足そうな表情を浮かべた。
「行こう、アルブレヒト」
「ああ」
ふと、離れに小さな家が建っているのが見える。その小さな家は庭園の中心にあり、花々には手入れが施されているようだ。小さな家は静かな存在感を放っていた。花々はフェルド共和国に良く咲いている花であり、恐らく妖精の妙愛によって育てられた花だ。
ティトーが過ごしていたという家は、恐らくそこであろう。
「どうした、アルブレヒト」
「いや、なんでもない。行こう」
一度だけ振り返ったアルブレヒトは、その小さな家に向かって目を閉じた。
(無事でいてくれ、ティトー!)
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