【完結】暁の草原

Lesewolf

文字の大きさ
上 下
188 / 228
第12環「業火のルゼリア」

⑫-2 シュタイン辺境伯領にて②

しおりを挟む
「明日には王都か」

 レオポルトが呟くと、アルブレヒトが驚いたように声を上げた。

「一日でたどり着けるのか?」
「今日一日、ここで休むわけではないからな」
「セシュール軍の進軍の速さには、いつも驚かされるよ」

 複数人のシュタイン家のメイドたちが茶や菓子を振舞っているものの、その表情はどこか強張っていた。

「おい、君たちは情報は何も掴んでいないのか」

 レオポルトがポニーテールのメイドに話しかけたが、彼女は首を横に振るだけで何も答えようとはしなかった。その非協力的な姿は噂通りだ。

「ティトーは、こんなところに居たのか」

 レオポルトの言葉に、メイドの一人が反応した。カシャリと茶器の音を立て、動揺を見せたのだ。

「お前はティトーを知っているのだな」
「お答えできません」
「大巫女になったぞ、ティトーは。公式での発表はここには届いていないのか? 届けば、わかるだろう」
「別に虐げた扱いをしていたわけではありません。只、干渉しないようにとの主よりの命がございましたから」
「主? コルネリアがそんな指示を出していたのか?」

 メイドは更に顔を強張らせ、カタカタと肩を震わせて黙り込んだ。コルネリアの言葉一つで首が飛ぶにせよ、コルネリアに忠誠心がない以上、何もしないのがこの屋敷の使用人たちだ。それはあまりに無気力で、自分勝手だ。

「メリーナについて、知っていることは?」

 メリーナという言葉に、メイドは驚きを見せた。肩の震えは収まり、メイドは真剣な眼差しをアルブレヒトへ向けると、これまでとは打って変わって饒舌に喋りだした。

「メリーナ様は私たちに良くしてくださいます。優しく気高く、気品にあふれていて、どこぞの戦災孤児とは思えぬほどです」
「そうか。メリーナはティトーによく会いに来ていたそうなんだが」
「ええ、休みの度に何度も屋敷に」
「そうか。ありがとう」
「……いえ」

 メイドはそのままお辞儀をすると、足早に去っていった。その姿を見つめていたレオポルトは、何か言いたげな表情でアルブレヒトを見つめた。

「やはり、コルネリアが怖いんだな。使用人たちは」
「そうだな。アルの言う通りだ。普段から非協力的なにも、当主に逆らえないってだけで忠誠心がないんだ。今だって、シュタイン家の人間は挨拶にも来ない。もう逃げた後じゃないのか? 使用人だけとは、失礼にもほどがある」
「レオはもうセシュールの人間だからわからないんだろう。ルゼリアではこれが普通かもしれないぞ」
「そうだな。ルゼリアではこれが普通だった。ルゼリアらしいといえば、らしい」

 そこへタウ族が続々と戻り始め、周囲が騒がしくなってきた。レオポルトは状況の把握のため、ルクヴァの元へアルブレヒトを連れて向かった。外で待機している兵士の士気は高く、流石セシュール軍というべきだろう。

「状況は⁉」
「レオ。うむ、王都は昨日で陥落し、機能していないそうだ」
「城は?」
「籠城を続けているという、時間の問題だな。すぐに出発するぞ」
「ティトーの情報は?」
「それについてはない。籠城中の城の状況は掴めていない」

 ルクヴァは拳を握りしめ、怒りをあらわにしながら、セシリアと共に地図を見つめた。

「ルクヴァと俺たちは王都の正門から入る。レオポルト、アルブレヒトは南門から攻めてくれ」
「セシリア、何も俺たちは攻めるわけじゃない」
「だーもう、わかってるよ。言葉を選ぶ暇がないだけだ、勘弁してくれ」
「鎮圧と言えばいいだろう」
「同じことだろ。制圧も鎮圧も、大して変わらん。よし、指示は俺が出すぞ、いいな! ルクヴァ!」

 ルクヴァの返答を待たずに、セシリアは雄たけびを上げた。あまりの大声に、慣れていないシュタイン家の使用人たちは驚き、その場に崩れ落ちた者も出た。それが狙いだったのか、セシリアは満足そうな表情を浮かべた。

「行こう、アルブレヒト」
「ああ」

 ふと、離れに小さな家が建っているのが見える。その小さな家は庭園の中心にあり、花々には手入れが施されているようだ。小さな家は静かな存在感を放っていた。花々はフェルド共和国に良く咲いている花であり、恐らく妖精の妙愛によって育てられた花だ。

 ティトーが過ごしていたという家は、恐らくそこであろう。

「どうした、アルブレヒト」
「いや、なんでもない。行こう」

 一度だけ振り返ったアルブレヒトは、その小さな家に向かって目を閉じた。

(無事でいてくれ、ティトー!)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。 念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。 戦闘は生々しい表現も含みます。 のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。 また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり 一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。 また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や 無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという 事もございません。 また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。

夜明けのブルーメンヴィーゼ

Lesewolf
恋愛
 「暁の草原」の続編になります。 かつて守護竜の愛した大陸、ルゼリアがある。  暁の草原から数年。かつて少女だったティトーは成人し、大人になっていた。ある時、ヴァジュトール国へ渡ろうとしていた青年ロウェルと出会う。行先で待っていたのは・・? 不定期18時更新です。 ===== この物語はフィクションであり、実在の人物、国、団体等とは関係ありません。 ===== 他、Nolaノベル様、カクヨム様、なろう様にて投稿しておりますが、執筆はNola様で行っております。

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

グリフォンとちいさなトモダチ

Lesewolf
児童書・童話
 とある世界(せかい)にある、童話(どうわ)のひとつです。  グリフォンという生き物(いきもの)と、ちいさな友達(ともだち)たちとのおはなしのようなものです。  グリフォンがトモダチと世界中(せかいじゅう)をめぐって冒険(ぼうけん)をするよ!  よみにくかったら、おしえてね。 ◯グリフォン……とおいとおい世界《せかい》からやってきたグリフォンという生《い》き物《もの》の影《かげ》。鷲《わし》のような頭《あたま》を持《も》ち、おおきなおおきな翼《つばさ》をもった獅子《しし》(ライオン)の胴体《どうたい》を持《も》っている。  鷲《わし》というおおきなおおきな鳥《とり》に化けることができる、その時《とき》の呼《よ》び名《な》はワッシー。 ◯アルブレヒト……300年《ねん》くらい生《い》きた子供《こども》の竜《りゅう》、子《こ》ドラゴンの影《かげ》。赤毛《あかげ》の青年《せいねん》に化《ば》けることができるが、中身《なかみ》はかわらず、子供《こども》のまま。  グリフォンはアルブレヒトのことを「りゅうさん」と呼《よ》ぶが、のちに「アル」と呼《よ》びだした。  影《かげ》はドラゴンの姿《すがた》をしている。 ☆レン……地球《ちきゅう》生《う》まれの|白銀《はくぎん》の少《すこ》しおおきな狐《きつね》。背中《せなか》に黒《くろ》い十字架《じゅうじか》を背負《せお》っている。いたずら好《ず》き。  白髪《はくはつ》の女性《じょせい》に化《ば》けられるが、湖鏡《みずうみかがみ》という特別《とくべつ》な力《ちから》がないと化《ば》けられないみたい。 =====  短編作品↓「グリフォンとおおかみさんのやくそく」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/317452050/395880002 ふりがながないから、お父さん、お母さんに読んでもらってね! =====  この物語はフィクションであり、実在の人物、国、団体等とは関係ありません。  げんじつには、ないとおもうよ! =====  アルファポリス様、Nolaノベル様、カクヨム様、なろう様にて投稿中です。 ※別作品の「暁の荒野」、「暁の草原」と連動しています。 どちらから読んでいただいても、どちらかだけ読んでいただいても、問題ないように書く予定でおります。読むかどうかはお任せですので、おいて行かれているキャラクターの気持ちを知りたい方はどちらかだけ読んでもらえたらいいかなと思います。 面倒な方は「暁の荒野」からどうぞ! ※「暁の草原」、「暁の荒野」共に残酷描写がございます。ご注意ください。 =====

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

スライムからパンを作ろう!〜そのパンは全てポーションだけど、絶品!!〜

櫛田こころ
ファンタジー
僕は、諏方賢斗(すわ けんと)十九歳。 パンの製造員を目指す専門学生……だったんだけど。 車に轢かれそうになった猫ちゃんを助けようとしたら、あっさり事故死。でも、その猫ちゃんが神様の御使と言うことで……復活は出来ないけど、僕を異世界に転生させることは可能だと提案されたので、もちろん承諾。 ただ、ひとつ神様にお願いされたのは……その世界の、回復アイテムを開発してほしいとのこと。パンやお菓子以外だと家庭レベルの調理技術しかない僕で、なんとか出来るのだろうか心配になったが……転生した世界で出会ったスライムのお陰で、それは実現出来ることに!! 相棒のスライムは、パン製造の出来るレアスライム! けど、出来たパンはすべて回復などを実現出来るポーションだった!! パン職人が夢だった青年の異世界のんびりスローライフが始まる!!

素材採取家の異世界旅行記

木乃子増緒
ファンタジー
28歳会社員、ある日突然死にました。謎の青年にとある惑星へと転生させられ、溢れんばかりの能力を便利に使って地味に旅をするお話です。主人公最強だけど最強だと気づいていない。 可愛い女子がやたら出てくるお話ではありません。ハーレムしません。恋愛要素一切ありません。 個性的な仲間と共に素材採取をしながら旅を続ける青年の異世界暮らし。たまーに戦っています。 このお話はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。 裏話やネタバレはついったーにて。たまにぼやいております。 この度アルファポリスより書籍化致しました。 書籍化部分はレンタルしております。

処理中です...