【完結】暁の草原

Lesewolf

文字の大きさ
上 下
181 / 228
第11環「ルゼリア事変」

⑪-8 再びの再会の町②

しおりを挟む
 ひとしきり泣いたトゥルクと別れをすませ、ルクヴァは部屋を去っていった。次の日の進軍に備え、軍の編成をするという。トゥルクの腕には、ラダ族の白い紐が結ばれている。ルクヴァからの贈り物だ。

「大丈夫か、トゥルク」
「うん。みっともないところ、見せちゃった」
「無理もない。7年、いや8年越しか?」
「7年かな……。947年の大陸同盟以来だね」

 実の父親との再会は、兄と再会するよりもずっと嬉しかったであろう。トゥルクは泣きはらしてスッキリしたようだ。真面目な表情を浮かべると、レオポルトへ頭を下げた。メリーナも隣で控えており、頭を下げた。

「どうしたんだ、突然」
「兄さんも、お願いだよ。ミリーを助けてあげて」
「助けるか。……大丈夫だ、任せろ」
「兄さん!」

 去り行く兄の背中に対し、トゥルクは声を張り上げた。

「どうか、気を付けて……!」
「ああ。任せろ」

 レオポルトとトゥルクのやり取りを眼にし、心配そうなメリーナも声を張り上げる。

「アルブレヒト兄さん! 気を付けて行って。無事に戻ってきて……」
「ああ。お前らも気を付けるんだぞ!」
「またここで会おう」

 そう、また会える。生きてさえいれば。

 レオポルトの力強い言葉に、トゥルクとメリーナだけでなく、アルブレヒトもまた決意したのだ。再び会おうと。


 ◇◇◇

 次の日、外では既に兵士の整列が整っており、進軍の合図を待つだけであった。ルクヴァは旗を掲げるセシリアの横に立つと、手を上へ掲げた。兵士が一斉に姿勢を正す。

「これから、我々はシュタイン辺境伯領を通って、ルゼリア国へ進軍する! 今、ルゼリア国は混乱と悲しみの真っ只中にある。しかし、この場に集った全ての者と共に、我々はその絶望を払拭するために進むのだ!」

 ルクヴァの激励が始まった。ルクヴァ王の力強い言葉に、兵士たちの視線が一層鋭くなる。王の言葉に、場には静かな緊張感が漂う。

「皆が心に信念を抱き、ルゼリア国の未来のためにその身を捧げて欲しい。滅多な暴力は禁止とする。我々の目的は、平和を取り戻し、彼らに再び希望と安寧を与えることだ!」

 その言葉に応えるように、兵士たちは雄たけびを上げた。セシュール軍の結束は固く、その強さは対戦したアルブレヒトにとって、手強かったのだ。彼らは今、一つの意志の元、ルゼリアに光を取り戻すために進んでいく。

「皆の者、眼を冴え渡らせろ!」
「「守護獣の名の下に!」」
「「ケーニヒスベルクに誓って!」」
「「うおおおぉおお!」」

 ルクヴァの後方に控えるレオポルトの表情は硬く、その闘志は戦時中を思い起こさせた。かの国に、自身の国は滅ぼされたのだ。アルブレヒトは身に染みてそれを感じ取っていた。


 ◇◇◇



 軍の編成はルクヴァ王の近衛を主体に、レオポルト軍、そしてセリシア軍に分かれる。アルブレヒトは当然のようにレオポルトの軍に編成された。

「レオポルト様、またあなたの部隊に配属されて、私は幸せです!」
「お前はマキャーナ・ラダ・チェイニーか。またお前の武勇自慢を聞く機会が出来たな」
「何を言うのですか。アルブレヒト様とも戦えるなんて、感無量でございます」
「マキャーナ? あの二番槍か!」

 マキャーナは自慢の槍を高々に掲げた。恐らくお手製のその槍には、家族から贈られたであろう紐がいくつも括り付けられている。

「レオポルト様がいつも単身で突っ込まれましたからな! いつも二番煎じでしたよ」
「コルネリア将軍が、自重なされー!って続いていくんだ、お前は三番槍だろ!」
「すっげえ、アルブレヒト様と同じ舞台に立てるとは! あんたの剣は重くて、俺は半年寝込んでいたぞ」

 すぐ後ろの細身の男が笑みを浮かべている。その肩には古傷が見て取れる。

「そうか、俺がお前を傷つけてしまったのか」
「戦争だったんだ、仕方あるまい。今回は共闘だ。あんたには期待してるよ」
「俺も一兵士だ。様は余計だよ」

 アルブレヒトは想う。

 彼等の中にはいるだろう、アルブレヒトが奪った戦死者の家族が、同胞が。あれだけの戦争だったのだ。それでも彼等は自身を受け入れてくれた。戦死者のことを考えなかった日はないものの、その家族は自身のことを恨んでいるのではないだろうか。

 
 故郷の兵士たちにも家族がいた。仲間だった。かけがえのない国民、家族だったはずだ。


 彼らはどうしているだろう。あの放置された土地アンザインで。


 ティトーの言葉が蘇ってくる。

『アルブレヒトさんが夜を眠れずにいるのを、僕は知っています。夢に、悪いことが出てくるんだよね。苦しそうに唸っているのを、何度か聞いてます。父上や母上という寝言も、僕は何度か聞いていたから』

 ティトーはアルブレヒトの真意を見抜いていた。

『アルブレヒトさん。僕は何もわかりませんが、アルブレヒトさんが祖国を愛しているってことはわかっています。その為にセシュール国へ行って、祖国へ帰れるように努めて欲しいんです。僕は、ここまで連れて来てくれた貴方に、恩を返したい』

 そして囁くのだ。

『だから、ここでお別れです。僕は、ルゼリア国に行きます。行って、どうしてあんな戦争をしたのか、ルゼリア側からの理由も勉強してきます』


(お別れなどにはさせない。ティトー。いや、ティニア……)

 呼び名は出会うたびに変わる。ケーニヒスベルクであった時もあり、レンでもあった。

「ティニア……」

 それでも、今はあの時の彼女の名を呼んでしまう。

「アルブレヒト」

 俯いていたアルブレヒトに、親友のレオポルトが声を掛ける。


 かつても友人がいた。かけがえのない親友だった。彼は、のちにルゼリアの王族に生まれ変わった。彼はいつしか生まれ変わり、地球という星へ連れて来られて罪を犯したと言うが、それは大いに償われただろう。人々を支える医師になり、そして多くの人々を救った。それは、人以外の生き物たちをも……。

(そうか、二人の子孫なのか。レオも、ティトーも……)


「行こう。時間だ」
「ああ。わかった、レオポルト……」


 6月初夏のケーニヒスベルクは、青々とした色で見下ろしていた。全てを愛する彼女は、何を語りかけているのだろうか。
 それは、今のアルブレヒトにはわからない。
 それでも、彼女を助けるためにも。
 救援に向かうのだ。


 再び、ルゼリア大陸は戦火に包まれることとなる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【☆完結☆】転生箱庭師は引き籠り人生を送りたい

うどん五段
ファンタジー
昔やっていたゲームに、大型アップデートで追加されたソレは、小さな箱庭の様だった。 ビーチがあって、畑があって、釣り堀があって、伐採も出来れば採掘も出来る。 ビーチには人が軽く住めるくらいの広さがあって、畑は枯れず、釣りも伐採も発掘もレベルが上がれば上がる程、レアリティの高いものが取れる仕組みだった。 時折、海から流れつくアイテムは、ハズレだったり当たりだったり、クジを引いてる気分で楽しかった。 だから――。 「リディア・マルシャン様のスキルは――箱庭師です」 異世界転生したわたくし、リディアは――そんな箱庭を目指しますわ! ============ 小説家になろうにも上げています。 一気に更新させて頂きました。 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

幼女に転生したらイケメン冒険者パーティーに保護&溺愛されています

ひなた
ファンタジー
死んだと思ったら 目の前に神様がいて、 剣と魔法のファンタジー異世界に転生することに! 魔法のチート能力をもらったものの、 いざ転生したら10歳の幼女だし、草原にぼっちだし、いきなり魔物でるし、 魔力はあって魔法適正もあるのに肝心の使い方はわからないし で転生早々大ピンチ! そんなピンチを救ってくれたのは イケメン冒険者3人組。 その3人に保護されつつパーティーメンバーとして冒険者登録することに! 日々の疲労の癒しとしてイケメン3人に可愛いがられる毎日が、始まりました。

小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします

藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です  2024年6月中旬に第一巻が発売されます  2024年6月16日出荷、19日販売となります  発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」 中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。 数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。 また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています 戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています そんな世界の田舎で、男の子は産まれました 男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました 男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります 絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて…… この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです 各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております

世界最強の勇者は伯爵家の三男に転生し、落ちこぼれと疎まれるが、無自覚に無双する

平山和人
ファンタジー
世界最強の勇者と称えられる勇者アベルは、新たな人生を歩むべく今の人生を捨て、伯爵家の三男に転生する。 しかしアベルは忌み子と疎まれており、優秀な双子の兄たちと比べられ、学校や屋敷の人たちからは落ちこぼれと蔑まれる散々な日々を送っていた。 だが、彼らは知らなかったアベルが最強の勇者であり、自分たちとは遥かにレベルが違うから真の実力がわからないことに。 そんなことも知らずにアベルは自覚なく最強の力を振るい、世界中を驚かせるのであった。

豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜

自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成! 理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」 これが翔の望んだ力だった。 スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!? ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。

アラヒフおばさんのゆるゆる異世界生活

ゼウママ
ファンタジー
50歳目前、突然異世界生活が始まる事に。原因は良く聞く神様のミス。私の身にこんな事が起こるなんて…。 「ごめんなさい!もう戻る事も出来ないから、この世界で楽しく過ごして下さい。」と、言われたのでゆっくり生活をする事にした。 現役看護婦の私のゆっくりとしたどたばた異世界生活が始まった。 ゆっくり更新です。はじめての投稿です。 誤字、脱字等有りましたらご指摘下さい。

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

処理中です...