暁の草原

Lesewolf

文字の大きさ
上 下
116 / 159
第七環「知識より先に」

⑦-7 再びの約束を、ここに④

しおりを挟む
 サーシャはそんなティトーに歩み寄り、優しく頭を撫でた。ティトーは顔を上げると心配そうに見上げている。そんなティトーに、サーシャは優しく語りかけた。

「いいえ。充分ですわ。私は参拝の儀式をすればいいだけですもの。そうだ、追加報酬をお渡ししましょう」
「いや、サーシャ。さすがにそれは」

 アルブレヒトが駆け寄ると、サーシャは首を横に振って人差し指を口へ当てた。

「アドニス司教から、直々に追加報酬を渡すという事にしたら良いのです。当然、巫女選定の儀を受けるティトーちゃんを護衛してきたという、追加報酬ですわ」
「さ、サーシャ。教会の資金繰りは大丈夫なの?」

 マリアの心配そうな声に、サーシャは笑顔を振りまいた。くるくると回ると、ティトーに優しく声をかける。

「巫女選定の儀を行えば、それなりに出自は明らかになります。となれば、レオポルト殿下の所在が明らかになるのです。であれば、義兄様の保護をしなくてはなりませんわ。となれば、それが出来るのはアドニス司教くらいでしょう?」
「それは…………。大丈夫なのか? ルゼリア国と教会はベッタリだろう」
「そこまでべったりではありませんわ。今度は私を信じてくださいません事? ティトーちゃん」

 サーシャは胸に手を当てると、片手をティトーへ差し出した。ティトーは一瞬躊躇したものの、その手を受け取った。

「信じます、サーシャおねえちゃんを」
「ふふ。ありがとう。そう云う事ですわ。では、私はこれで。殿下もなにかあれば、遠慮なく申して下さいませ」
「明日はすぐ発つのか」
「そうなると思いますわ。見送りは結構ですので、良くなったら約束の町で再会といたしましょう」

 サーシャは祈るようにゆっくりと目を閉じると、再び目を見開いた。頷くように、一行の顔を順番にじっと見つめていく。

「一週間は安静ですので、一週間はこの屋敷を使えるように手はずと取らせていただきますわ。恐らく、アドニス司教から迎えが来る筈ですので、そこで判断してくださいませ」
「そうか。俺の身分がバレればそうなるか」
「セシュールが王、そしてラダ族族長が長子であるだけでなく」
「ルゼリアの血を引くからな、俺は」
「お兄ちゃん、大丈夫だよ」

 ティトーはレオポルトの手を取ると、アルブレヒトとマリア手招きした。二人は頷きあい、レオポルトの手を取った。

「俺は大丈夫だ、レオ。だから、安心して今は休んでくれ。アドニスさんの事だ、俺の事も上手くやってくれるさ」
「私はあの人信用できないけれど、でも信じてみましょうよ。いざとなったら、私が教会ごと消し炭にしてくれるわ」
「ふふ。そうならない事を祈りますわ、マリア」

 サーシャもレオポルトの手に触れると、レオポルトはついに観念したのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ロリっ子がおじさんに種付けされる話

オニオン太郎
大衆娯楽
なろうにも投稿した奴です

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

妹を見捨てた私 ~魅了の力を持っていた可愛い妹は愛されていたのでしょうか?~

紗綺
ファンタジー
何故妹ばかり愛されるの? その答えは私の10歳の誕生日に判明した。 誕生日パーティで私の婚約者候補の一人が妹に魅了されてしまったことでわかった妹の能力。 『魅了の力』 無自覚のその力で周囲の人間を魅了していた。 お父様お母様が妹を溺愛していたのも魅了の力に一因があったと。 魅了の力を制御できない妹は魔法省の管理下に置かれることが決まり、私は祖母の実家に引き取られることになった。 新しい家族はとても優しく、私は妹と比べられることのない穏やかな日々を得ていた。 ―――妹のことを忘れて。 私が嫁いだ頃、妹の噂が流れてきた。 魅了の力を制御できるようになり、制限つきだが自由を得た。 しかし実家は没落し、頼る者もなく娼婦になったと。 なぜこれまであの子へ連絡ひとつしなかったのかと、後悔と罪悪感が私を襲う。 それでもこの安寧を捨てられない私はただ祈るしかできない。 どうかあの子が救われますようにと。

子育て失敗の尻拭いは婚約者の務めではございません。

章槻雅希
ファンタジー
学院の卒業パーティで王太子は婚約者を断罪し、婚約破棄した。 真実の愛に目覚めた王太子が愛しい平民の少女を守るために断行した愚行。 破棄された令嬢は何も反論せずに退場する。彼女は疲れ切っていた。 そして一週間後、令嬢は国王に呼び出される。 けれど、その時すでにこの王国には終焉が訪れていた。 タグに「ざまぁ」を入れてはいますが、これざまぁというには重いかな……。 小説家になろう様にも投稿。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

処理中です...