80 / 180
暁の草原 番外編1
〇番外編1-2 マルティーニという家②
しおりを挟む
「大変! あなた!」
ボロボロの衣服を身にまとい、食事の支度をしていると母親であるキコナが騒がしく洋館を走り出す。埃が舞えば、マリアの責任になるのだ。食事前のこの時間帯に掃除となれば、それなりの報復を受ける。
「どうしだ、キコナ。王からの勅命だぞ」
「でも、この子を連れて行くなんて」
母親はマリアに目配せすると、すぐに汚らしいと言わんばかりの表情を浮かべた。父親も同様に苦虫を嚙み潰したように新聞を睨みつける。
「そうだ、マーシャを連れて行きましょう。きっと殿下の心も晴れるわ。だってマーシャは可愛らしくて愛らしくて、女の子ですもの」
「そうだな。マリアを従者として連れて行かせよう」
よく判らない両親の言葉に、マリアは淡々と食事をテーブルに並べていく。3人分の食事を並べたところで、マーシャが大きな図体を揺らしながら現れた。
「呼びました?」
「おお、マーシャ。聞いてくれ」
「さあ、かけて頂戴。マリアはその辺にいて」
「………………」
立ち尽くしたマリアを尻目に、にやにやと笑みを浮かべながらマーシャが席に着いた。椅子がギシリと悲鳴を上げる。
「この度、王命でパーティーが開かれることになった」
「まあ、ドレスを新しくしてくれるなら行ってあげてもいいわよ」
マーシャはそういいながら、肉にかぶりついた。マナーの悪さなど、マーシャだけ特例で許される。
「王命ということは、貴賓が来られるの?」
「そうだ。賢いな、マーシャは」
「アンセム国の王子よ!」
「まあ素敵! アルブレヒト様ね」
アンセム国とは、ルゼリア大陸の北方地域に存在する国であり、帝国から王政に切り替わったばかりの若い国だ。情勢は安定しており、木材の輸入を仲裁しているのはマルティーニ家だ。マルティーニ家は商売を長年してきた貴族であり、その信用はルゼリア大陸へも轟いているという。
「そう、そのアルブレヒト様が来られるっていうのでな。そのパーティーの招待状が来たんだが」
「あろうことか、長女のマリアが名指しなのよ」
「まあ。かわいそうなお姉さま。ドレスなんてないでしょうに」
肉を頬張ったマーシャは、すぐにスープで飲み込み、また肉へ食らいついた。
「そこで、従者としてマリアをパーティーへ行かせるから、マーシャが参列してやってくれ」
「仕方ないですわね。いいですわよ。新しいドレス、早く作ってよね」
「マリア、そういうことだ。ドレスはお古やお下がりを着なさい」
「マーシャのドレスなんですから、大切に着るんですよ」
「はあ。汚らしいお姉さまに着せてあげるなんて、仕方ないですわね」
「マーシャはなんて慈悲深いんだ」
肉の油で頬までギラつかせながら、マーシャは漫勉の笑みを浮かべていた。
そう、これがマルティーニという家である。
ボロボロの衣服を身にまとい、食事の支度をしていると母親であるキコナが騒がしく洋館を走り出す。埃が舞えば、マリアの責任になるのだ。食事前のこの時間帯に掃除となれば、それなりの報復を受ける。
「どうしだ、キコナ。王からの勅命だぞ」
「でも、この子を連れて行くなんて」
母親はマリアに目配せすると、すぐに汚らしいと言わんばかりの表情を浮かべた。父親も同様に苦虫を嚙み潰したように新聞を睨みつける。
「そうだ、マーシャを連れて行きましょう。きっと殿下の心も晴れるわ。だってマーシャは可愛らしくて愛らしくて、女の子ですもの」
「そうだな。マリアを従者として連れて行かせよう」
よく判らない両親の言葉に、マリアは淡々と食事をテーブルに並べていく。3人分の食事を並べたところで、マーシャが大きな図体を揺らしながら現れた。
「呼びました?」
「おお、マーシャ。聞いてくれ」
「さあ、かけて頂戴。マリアはその辺にいて」
「………………」
立ち尽くしたマリアを尻目に、にやにやと笑みを浮かべながらマーシャが席に着いた。椅子がギシリと悲鳴を上げる。
「この度、王命でパーティーが開かれることになった」
「まあ、ドレスを新しくしてくれるなら行ってあげてもいいわよ」
マーシャはそういいながら、肉にかぶりついた。マナーの悪さなど、マーシャだけ特例で許される。
「王命ということは、貴賓が来られるの?」
「そうだ。賢いな、マーシャは」
「アンセム国の王子よ!」
「まあ素敵! アルブレヒト様ね」
アンセム国とは、ルゼリア大陸の北方地域に存在する国であり、帝国から王政に切り替わったばかりの若い国だ。情勢は安定しており、木材の輸入を仲裁しているのはマルティーニ家だ。マルティーニ家は商売を長年してきた貴族であり、その信用はルゼリア大陸へも轟いているという。
「そう、そのアルブレヒト様が来られるっていうのでな。そのパーティーの招待状が来たんだが」
「あろうことか、長女のマリアが名指しなのよ」
「まあ。かわいそうなお姉さま。ドレスなんてないでしょうに」
肉を頬張ったマーシャは、すぐにスープで飲み込み、また肉へ食らいついた。
「そこで、従者としてマリアをパーティーへ行かせるから、マーシャが参列してやってくれ」
「仕方ないですわね。いいですわよ。新しいドレス、早く作ってよね」
「マリア、そういうことだ。ドレスはお古やお下がりを着なさい」
「マーシャのドレスなんですから、大切に着るんですよ」
「はあ。汚らしいお姉さまに着せてあげるなんて、仕方ないですわね」
「マーシャはなんて慈悲深いんだ」
肉の油で頬までギラつかせながら、マーシャは漫勉の笑みを浮かべていた。
そう、これがマルティーニという家である。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
【完結】お父様に愛されなかった私を叔父様が連れ出してくれました。~お母様からお父様への最後のラブレター~
山葵
恋愛
「エリミヤ。私の所に来るかい?」
母の弟であるバンス子爵の言葉に私は泣きながら頷いた。
愛人宅に住み屋敷に帰らない父。
生前母は、そんな父と結婚出来て幸せだったと言った。
私には母の言葉が理解出来なかった。
暁の荒野
Lesewolf
ファンタジー
少女は、実姉のように慕うレイスに戦闘を習い、普通ではない集団で普通ではない生活を送っていた。
いつしか周囲は朱から白銀染まった。
西暦1950年、大戦後の混乱が続く世界。
スイスの旧都市シュタイン・アム・ラインで、フローリストの見習いとして忙しい日々を送っている赤毛の女性マリア。
謎が多くも頼りになる女性、ティニアに感謝しつつ、懸命に生きようとする人々と関わっていく。その様を穏やかだと感じれば感じるほど、かつての少女マリアは普通ではない自問自答を始めてしまうのだ。
Nolaノベル様、アルファポリス様にて投稿しております。執筆はNola(エディタツール)です。
Nolaノベル様、カクヨム様、アルファポリス様の順番で投稿しております。
キャラクターイラスト:はちれお様
婚約者の幼馴染?それが何か?
仏白目
恋愛
タバサは学園で婚約者のリカルドと食堂で昼食をとっていた
「あ〜、リカルドここにいたの?もう、待っててっていったのにぃ〜」
目の前にいる私の事はガン無視である
「マリサ・・・これからはタバサと昼食は一緒にとるから、君は遠慮してくれないか?」
リカルドにそう言われたマリサは
「酷いわ!リカルド!私達あんなに愛し合っていたのに、私を捨てるの?」
ん?愛し合っていた?今聞き捨てならない言葉が・・・
「マリサ!誤解を招くような言い方はやめてくれ!僕たちは幼馴染ってだけだろう?」
「そんな!リカルド酷い!」
マリサはテーブルに突っ伏してワアワア泣き出した、およそ貴族令嬢とは思えない姿を晒している
この騒ぎ自体 とんだ恥晒しだわ
タバサは席を立ち 冷めた目でリカルドを見ると、「この事は父に相談します、お先に失礼しますわ」
「まってくれタバサ!誤解なんだ」
リカルドを置いて、タバサは席を立った
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
婚約者の浮気相手が子を授かったので
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。
ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。
アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。
ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。
自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。
しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。
彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。
ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。
まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。
※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。
※完結しました
選ばれたのは美人の親友
杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる