72 / 225
第五環「黄昏は、ハープを奏でて」
⑤-10 聖女アレクサンドラ②
しおりを挟む
聖女はゆっくりと信者たちの身姿を確認すると、最後に最前列のアルブレヒトたちを見つめた。信者は首を垂れていたが、アルブレヒトは下げなかった。そして、目線が重なった。
「本日は、ようこそおいで下さいました。それでは、本日は経典の一部を読ませていただきます」
聖女サーシャは静かに聖書を胸に当てながら、ゆっくりとした語り口で信者へ話しかけた。
「晴天の世、愚かな刃が降り注ぎ、聖女へ歯向かう」
読み出しは、経典の最終章・聖女の死と女神としての復活の章だ。あまり信徒向けには語られない項目に、司祭たちは顔を見合わせている。
「聖女は自らの体に毒を注ぎ、そして地に伏せてしまった」
ティトーはハラハラとしながら、胸を抑えている。他の信徒も同じように祈りながら、胸を抑えるような仕草をしている。女神の痛みを感じ取っているのだろう。
「やがて、聖女は眩い光に包まれ、大地を浄化すると、エーディエグレスを登って天へ召され、女神として降臨した」
ステンドグラスから、再び光が差し込み、聖女ではなくアルブレヒトたちの方へ光が囁かれた。
聖女サーシャはティトーを見つめながら、ゆっくりを歩み寄って来る。
「女神は、あなたの様な少女に生まれ変わり、そして女神として人々を守り長い時を生き大人の姿となり、新たな聖女の前へ現れました。女神は今も尚、人々の為に生き続けているのです」
司祭たちは演出として受け取ってはいたが、サーシャはアルブレヒトを見つめながら、最後の言葉を連ねる。
「そして、守護竜の大地は再び祝福を受け、守護竜の不在を祈りの力で守り抜いて往くのです」
人々が拍手や涙を流した所で、聖女は人々と直接手を繋ぎながら話をするようだった。気付けば帰路に立つ信徒はおらず、皆が聖女の列へ並んでいる。
「俺たちは最後でいいな、アル」
「混み入った話だからな」
アルブレヒト一行は今度こそ最後尾へ並ぶと、その順番を守っていたが、ティトーは落ち着きがなく、キョロキョロと教会内を見つめていた。
◇
「次の方々です」
「………………」
「聖女・サーシャ?」
聖女サーシャは、信徒が扉を出るまで見送ると、扉が閉まるまでを見守った。そして改めて一行へ向かった。
「驚きましたよ」
「俺もだ、サーシャ」
「こほん! アレクサンドラ、様です」
「失敬」
アルブレヒトの様子に、ティトーは無邪気に笑うと、コホンを真似して見せた。その姿にサーシャは微笑むと、年相応な表情を浮かべた。聖女はまだ選定の年の15歳を迎えたばかりの16歳だ。
「そうですね。混み入った話もしたいですし、故郷の思い出も語りたいのですが、彼らと奥へ下がっても良いでしょうか」
「アレクサンドラ様がよければ、我々は何も言えません」
「そう。じゃあそうしましょう。どうぞ、こちらへ」
聖女は一行を私室へ案内すると、人払いをした。
「さて。防音の結界はさすがに張れないですが、誰も聞いてはおりません」
サーシャは後ろ向きでケープを脱ぎ去ると、振り返った。金髪に青い目の美しい美少女は短めのカールした癖毛を震わせると、万遍の笑みを浮かべた。
「アルブレヒト兄さま、よくご無事で」
「本日は、ようこそおいで下さいました。それでは、本日は経典の一部を読ませていただきます」
聖女サーシャは静かに聖書を胸に当てながら、ゆっくりとした語り口で信者へ話しかけた。
「晴天の世、愚かな刃が降り注ぎ、聖女へ歯向かう」
読み出しは、経典の最終章・聖女の死と女神としての復活の章だ。あまり信徒向けには語られない項目に、司祭たちは顔を見合わせている。
「聖女は自らの体に毒を注ぎ、そして地に伏せてしまった」
ティトーはハラハラとしながら、胸を抑えている。他の信徒も同じように祈りながら、胸を抑えるような仕草をしている。女神の痛みを感じ取っているのだろう。
「やがて、聖女は眩い光に包まれ、大地を浄化すると、エーディエグレスを登って天へ召され、女神として降臨した」
ステンドグラスから、再び光が差し込み、聖女ではなくアルブレヒトたちの方へ光が囁かれた。
聖女サーシャはティトーを見つめながら、ゆっくりを歩み寄って来る。
「女神は、あなたの様な少女に生まれ変わり、そして女神として人々を守り長い時を生き大人の姿となり、新たな聖女の前へ現れました。女神は今も尚、人々の為に生き続けているのです」
司祭たちは演出として受け取ってはいたが、サーシャはアルブレヒトを見つめながら、最後の言葉を連ねる。
「そして、守護竜の大地は再び祝福を受け、守護竜の不在を祈りの力で守り抜いて往くのです」
人々が拍手や涙を流した所で、聖女は人々と直接手を繋ぎながら話をするようだった。気付けば帰路に立つ信徒はおらず、皆が聖女の列へ並んでいる。
「俺たちは最後でいいな、アル」
「混み入った話だからな」
アルブレヒト一行は今度こそ最後尾へ並ぶと、その順番を守っていたが、ティトーは落ち着きがなく、キョロキョロと教会内を見つめていた。
◇
「次の方々です」
「………………」
「聖女・サーシャ?」
聖女サーシャは、信徒が扉を出るまで見送ると、扉が閉まるまでを見守った。そして改めて一行へ向かった。
「驚きましたよ」
「俺もだ、サーシャ」
「こほん! アレクサンドラ、様です」
「失敬」
アルブレヒトの様子に、ティトーは無邪気に笑うと、コホンを真似して見せた。その姿にサーシャは微笑むと、年相応な表情を浮かべた。聖女はまだ選定の年の15歳を迎えたばかりの16歳だ。
「そうですね。混み入った話もしたいですし、故郷の思い出も語りたいのですが、彼らと奥へ下がっても良いでしょうか」
「アレクサンドラ様がよければ、我々は何も言えません」
「そう。じゃあそうしましょう。どうぞ、こちらへ」
聖女は一行を私室へ案内すると、人払いをした。
「さて。防音の結界はさすがに張れないですが、誰も聞いてはおりません」
サーシャは後ろ向きでケープを脱ぎ去ると、振り返った。金髪に青い目の美しい美少女は短めのカールした癖毛を震わせると、万遍の笑みを浮かべた。
「アルブレヒト兄さま、よくご無事で」
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
【完結】暁の荒野
Lesewolf
ファンタジー
少女は、実姉のように慕うレイスに戦闘を習い、普通ではない集団で普通ではない生活を送っていた。
いつしか周囲は朱から白銀染まった。
西暦1950年、大戦後の混乱が続く世界。
スイスの旧都市シュタイン・アム・ラインで、フローリストの見習いとして忙しい日々を送っている赤毛の女性マリア。
謎が多くも頼りになる女性、ティニアに感謝しつつ、懸命に生きようとする人々と関わっていく。その様を穏やかだと感じれば感じるほど、かつての少女マリアは普通ではない自問自答を始めてしまうのだ。
Nolaノベル様、アルファポリス様にて投稿しております。執筆はNola(エディタツール)です。
Nolaノベル様、カクヨム様、アルファポリス様の順番で投稿しております。
キャラクターイラスト:はちれお様
=====
別で投稿している「暁の草原」と連動しています。
どちらから読んでいただいても、どちらかだけ読んでいただいても、問題ないように書く予定でおります。読むかどうかはお任せですので、おいて行かれているキャラクターの気持ちを知りたい方はどちらかだけ読んでもらえたらいいかなと思います。
面倒な方は「暁の荒野」からどうぞ!
※「暁の草原」、「暁の荒野」共に残酷描写がございます。ご注意ください。
=====
この物語はフィクションであり、実在の人物、国、団体等とは関係ありません。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
箱庭から始まる俺の地獄(ヘル) ~今日から地獄生物の飼育員ってマジっすか!?~
白那 又太
ファンタジー
とあるアパートの一室に住む安楽 喜一郎は仕事に忙殺されるあまり、癒しを求めてペットを購入した。ところがそのペットの様子がどうもおかしい。
日々成長していくペットに少し違和感を感じながらも(比較的)平和な毎日を過ごしていた喜一郎。
ところがある日その平和は地獄からの使者、魔王デボラ様によって粉々に打ち砕かれるのであった。
目指すは地獄の楽園ってなんじゃそりゃ!
大したスキルも無い! チートも無い! あるのは理不尽と不条理だけ!
箱庭から始まる俺の地獄(ヘル)どうぞお楽しみください。
【本作は小説家になろう様、カクヨム様でも同時更新中です】
バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話
紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界――
田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。
暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。
仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン>
「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。
最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。
しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。
ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと――
――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。
しかもその姿は、
血まみれ。
右手には討伐したモンスターの首。
左手にはモンスターのドロップアイテム。
そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。
「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」
ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。
タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。
――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――
護国の鳥
凪子
ファンタジー
異世界×士官学校×サスペンス!!
サイクロイド士官学校はエスペラント帝国北西にある、国内最高峰の名門校である。
周囲を海に囲われた孤島を学び舎とするのは、十五歳の選りすぐりの少年達だった。
首席の問題児と呼ばれる美貌の少年ルート、天真爛漫で無邪気な子供フィン、軽薄で余裕綽々のレッド、大貴族の令息ユリシス。
同じ班に編成された彼らは、教官のルベリエや医務官のラグランジュ達と共に、士官候補生としての苛酷な訓練生活を送っていた。
外の世界から厳重に隔離され、治外法権下に置かれているサイクロイドでは、生徒の死すら明るみに出ることはない。
ある日同級生の突然死を目の当たりにし、ユリシスは不審を抱く。
校内に潜む闇と秘められた事実に近づいた四人は、否応なしに事件に巻き込まれていく……!
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる