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第五環「黄昏は、ハープを奏でて」
⑤-5 大戦への追想①
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「ティトーは、大戦の事はどのくらい知っている?」
「大戦が、大きな戦争があったとしか、知らないんです。王女様が行方不明になったこと、だけ」
「そうか」
「ごめんなさい」
ティトーは指を抓りながら、兄レオポルトへ対峙した。そんな様子を見て、レオポルトは自身の6歳の時を思い起こしたのだ。
「それでは話す」
レオポルトは深く呼吸をすると、髪の色を白髪に戻し、そして眼帯を外すと青い深淵の煌めきの瞳、そして深緑の瞳というオッドアイの素の姿で、ティトーの深淵の瞳を見つめた。兄として、そして王族として。容赦なく語る心づもりであるという、彼なりの覚悟である――。
◇
「大戦が開戦したのは。ネリネ歴950年だ。だが、その前から火種は燻っていた。それが大国であるルゼリア側だった」
レオポルトは地図を取り出すと、北東地域一帯、今はルゼリア領土の地形を指さし、ペンでアンセム国と書いた。
「過去、大陸での同盟締結は、婚姻によって一つの国となっていたルゼリア・セシュール連合王国以外存在していなかった。実質的に無かったと言っていい。それを、アンセム国が主導となって、大陸同盟を締結させようと、アンセム王は尽力なさっていた。ティトーが生まれた947年の何年も前からだ。アンセム王は良き人で、良き王だった。アルの父君だ。そう、アル。アルブレヒトはアンセムの王子だ」
「だから、アンセム国って……」
「ああ。あいつの故郷はアンセム国だからな」
レオポルトは指で指しながらアンセムの領土をティトーに教えると、次にルゼリア国を指さした。
「ティトーの生まれたネリネ歴947年に大陸同盟は締結された。にもかかわらず、あの国の、ルゼリア領民たちは、何食わぬ顔で、アンセム領内で略奪行為を始めたんだ。両国間の不可侵条約を使い、反撃や犯行は許さなかった。そう、諫めるための、軍隊は投入できなかった。許さなかったのだ、ルゼリアがな。もし不可侵条約を破るのであれば、徹底抗戦すると通告してきたそうだ」
「そんな……! 卑怯じゃないですか」
「アンセム国側は何度もルゼリア国へ申告し、徹底するように求めていたそうだ。だが、単なる野党の襲撃であるというだけで、何の対策も講じなかったんだ。そして、2年が経った950年、アンセム領の村が焼きうちにあった。ここだ。人が大勢亡なり、家を、そして田畑を失った。だがそれを、ルゼリア国は黙認したのだ」
ティトーが息を飲み、ゆっくりを吐き出したのを見ると、レオポルトは続けた。
「その年の、ネリネ歴950年。ついにアンセム国がルゼリア国へ宣戦布告をして、進軍を開始したのだ。軍を率いていたのは、そう。アンセムの王子だ。わかるな、アルブレヒトだ。アルは軍を率いて、母の国を攻めたんだ」
レオポルトは静かに頷くと、地図を指さした。
「アルブレヒト王子は、ルゼリアの北側地方一体を僅か二ヵ月足らずで制圧する。そして、ヴァジュトールとルゼリアを繋ぐ港をも抑えた。そしてその年の950年秋、母とアルブレヒトは対峙し、ルゼリア領のここ、北東地域で激突した。衝撃で大地が避け、巨大なクレバスが発生した。クレバスは大陸中央のエーディエグレス山脈周辺に広がるエーディエグレスの森にまで到達したんだ」
「そんな。アルブレヒトさんがお母様と戦ってたなんて……。クレバスって、大きな谷底みたいなやつですか? そんなに大きな激突で、衝撃だったんですか?」
「そうだ。事実上、底なしと言われている。だからこそ、橋などかけられなかったのだ」
そして、レオポルトは大陸中央のエーディエグレスを迂回するように、指を動かした。
「アルブレヒト率いるアンセム軍は、南からの侵攻を断念し、北西のフェルド共和国から、軍を進軍する予定だった」
◇
「フェルド共和国は長年に渡り、ルゼリア国の属国。長年差別を強いられてきた。当然、アンセム軍を通すと考えていたんだ。ところが、フェルド共和国はそれを拒んだ。神聖な我が領地に軍を進軍などさせぬ、とな。フェルド平原は、彼等にとって聖地だった。そして同年冬、アンセム国がフェルド共和国へ宣戦を布告する」
「………………まさか」
「そう、ネリネ歴950年の冬だ。セシュール国はフェルド共和国への支援を全面的に支援。結果的にルゼリア国を支援し、大戦へ参戦した。それが年を開けてすぐの1月、ネリネ歴951年だ」
レオポルトはティトーを見ずに言い放った。
「そうやって、フェルド平原戦乱、大戦が幕開けしたんだ」
ティトーは自身の心音が早くなるのを感じた。もうティトーの言葉を待っていることは無く、少年は絶句したまま兄を見つめているのだ。
「俺も、2月には軍を率いて戦争へ赴き、アルブレヒトと対峙した。文字通り殺し合った、俺たちはな」
「………………ッ……そんな」
「ルゼリアの将軍、コルネリアがルゼリア軍の最高司令官だった。俺と将軍の連合軍はアンセムの首都まで進軍し、陥落させた。激しい戦いだったが、夏にはアルブレヒトの祖国、アンセム国は滅びを迎えた。そう、あいつの国を滅ぼしたのは、他でもない、俺だ」
「大戦が、大きな戦争があったとしか、知らないんです。王女様が行方不明になったこと、だけ」
「そうか」
「ごめんなさい」
ティトーは指を抓りながら、兄レオポルトへ対峙した。そんな様子を見て、レオポルトは自身の6歳の時を思い起こしたのだ。
「それでは話す」
レオポルトは深く呼吸をすると、髪の色を白髪に戻し、そして眼帯を外すと青い深淵の煌めきの瞳、そして深緑の瞳というオッドアイの素の姿で、ティトーの深淵の瞳を見つめた。兄として、そして王族として。容赦なく語る心づもりであるという、彼なりの覚悟である――。
◇
「大戦が開戦したのは。ネリネ歴950年だ。だが、その前から火種は燻っていた。それが大国であるルゼリア側だった」
レオポルトは地図を取り出すと、北東地域一帯、今はルゼリア領土の地形を指さし、ペンでアンセム国と書いた。
「過去、大陸での同盟締結は、婚姻によって一つの国となっていたルゼリア・セシュール連合王国以外存在していなかった。実質的に無かったと言っていい。それを、アンセム国が主導となって、大陸同盟を締結させようと、アンセム王は尽力なさっていた。ティトーが生まれた947年の何年も前からだ。アンセム王は良き人で、良き王だった。アルの父君だ。そう、アル。アルブレヒトはアンセムの王子だ」
「だから、アンセム国って……」
「ああ。あいつの故郷はアンセム国だからな」
レオポルトは指で指しながらアンセムの領土をティトーに教えると、次にルゼリア国を指さした。
「ティトーの生まれたネリネ歴947年に大陸同盟は締結された。にもかかわらず、あの国の、ルゼリア領民たちは、何食わぬ顔で、アンセム領内で略奪行為を始めたんだ。両国間の不可侵条約を使い、反撃や犯行は許さなかった。そう、諫めるための、軍隊は投入できなかった。許さなかったのだ、ルゼリアがな。もし不可侵条約を破るのであれば、徹底抗戦すると通告してきたそうだ」
「そんな……! 卑怯じゃないですか」
「アンセム国側は何度もルゼリア国へ申告し、徹底するように求めていたそうだ。だが、単なる野党の襲撃であるというだけで、何の対策も講じなかったんだ。そして、2年が経った950年、アンセム領の村が焼きうちにあった。ここだ。人が大勢亡なり、家を、そして田畑を失った。だがそれを、ルゼリア国は黙認したのだ」
ティトーが息を飲み、ゆっくりを吐き出したのを見ると、レオポルトは続けた。
「その年の、ネリネ歴950年。ついにアンセム国がルゼリア国へ宣戦布告をして、進軍を開始したのだ。軍を率いていたのは、そう。アンセムの王子だ。わかるな、アルブレヒトだ。アルは軍を率いて、母の国を攻めたんだ」
レオポルトは静かに頷くと、地図を指さした。
「アルブレヒト王子は、ルゼリアの北側地方一体を僅か二ヵ月足らずで制圧する。そして、ヴァジュトールとルゼリアを繋ぐ港をも抑えた。そしてその年の950年秋、母とアルブレヒトは対峙し、ルゼリア領のここ、北東地域で激突した。衝撃で大地が避け、巨大なクレバスが発生した。クレバスは大陸中央のエーディエグレス山脈周辺に広がるエーディエグレスの森にまで到達したんだ」
「そんな。アルブレヒトさんがお母様と戦ってたなんて……。クレバスって、大きな谷底みたいなやつですか? そんなに大きな激突で、衝撃だったんですか?」
「そうだ。事実上、底なしと言われている。だからこそ、橋などかけられなかったのだ」
そして、レオポルトは大陸中央のエーディエグレスを迂回するように、指を動かした。
「アルブレヒト率いるアンセム軍は、南からの侵攻を断念し、北西のフェルド共和国から、軍を進軍する予定だった」
◇
「フェルド共和国は長年に渡り、ルゼリア国の属国。長年差別を強いられてきた。当然、アンセム軍を通すと考えていたんだ。ところが、フェルド共和国はそれを拒んだ。神聖な我が領地に軍を進軍などさせぬ、とな。フェルド平原は、彼等にとって聖地だった。そして同年冬、アンセム国がフェルド共和国へ宣戦を布告する」
「………………まさか」
「そう、ネリネ歴950年の冬だ。セシュール国はフェルド共和国への支援を全面的に支援。結果的にルゼリア国を支援し、大戦へ参戦した。それが年を開けてすぐの1月、ネリネ歴951年だ」
レオポルトはティトーを見ずに言い放った。
「そうやって、フェルド平原戦乱、大戦が幕開けしたんだ」
ティトーは自身の心音が早くなるのを感じた。もうティトーの言葉を待っていることは無く、少年は絶句したまま兄を見つめているのだ。
「俺も、2月には軍を率いて戦争へ赴き、アルブレヒトと対峙した。文字通り殺し合った、俺たちはな」
「………………ッ……そんな」
「ルゼリアの将軍、コルネリアがルゼリア軍の最高司令官だった。俺と将軍の連合軍はアンセムの首都まで進軍し、陥落させた。激しい戦いだったが、夏にはアルブレヒトの祖国、アンセム国は滅びを迎えた。そう、あいつの国を滅ぼしたのは、他でもない、俺だ」
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