暁の草原

Lesewolf

文字の大きさ
上 下
66 / 180
第五環「黄昏は、ハープを奏でて」

⑤-4 邂逅④

しおりを挟む
「マリアさん」
「なあに? ティトーくん」
「マリアさんには、旦那様がいるの?」
「あっ! 忘れてた」

 マリアは再び腰に手を当てると、赤毛を揺らしながらアルブレヒトへ、再び何度目かの迫りを見せた。

「アンタ、結局誤魔化してるんじゃない! どうやって無事だったのよ!」
「そうだった、すまない」
「無事? 無事って、アルブレヒトさんどうしたの?」
「う……………………」

 ティトーの声に、レオポルトは仕方なく助け舟を出すことにしたのだ。

「アル、二人で話すべきだ。まだ、ティトーには」
「え、何よ。逃げるの?」
「そうじゃない。君は、旧姓が答えにくいと言っていたな」
「…………」
「それくらい、察している。いいから、二人できちんと話すんだ。ティトーには、俺から説明を施す」

 ティトーはアルブレヒトとマリアの顔を交互に見つめた。マリアはアルブレヒトを睨むものの、アルブレヒトの眼は泳いでいる。

「もしかして」

 ティトーは空気を読まずに、思ったことをそのまま発言した。そう、子供に悪気はないのだ。

「モトカノ?」

 首を傾げながら問う少年に対し、マリアは可愛いと思ってしまい出遅れてしまった。

「何処でそんな言葉覚えた! アル、君か?」
「いや、レオ。ややこしくするな、オイこら待て」
「待って、余計にややこしくなるわ! …………もう夫婦でも何でもないの。元妻よ」

 マリアは投げやりに言うと、ティトーの目線までしゃがみこんだ。瞳は潤うと共に、滑らかに揺らいでいる。

「ティトーくん、少しアルと話をさせてもらっても、いいかな」
「……はい」
「うん。ありがとう」

 目線を落としたマリアの瞳からは煌めく雫が落ちたものの、マリアは直ぐに振り切ると何食わぬ顔でアルブレヒトへ対峙しながらティトーへ説明した。

「死んだと思っていたのよ。アルがね。だから、びっくりしたの。ごめんね、ティトーくん」
「! い、いえ。こちらも、すみません……」
「じゃあ、ティトー。もう一部屋借りているから、俺たちはそこで話そう」
「うん」

 二人の兄弟は手を繋ぐと、隣の部屋へ移った。扉が閉まる際、レオポルトは振り返ろうとしたが、マリアの安堵した表情に心を奪われそうになり、直ぐに視線を外した。
 結界のおかげからか、閉まった扉の向こうの声や物音は一切聞こえない。

「兄さま」
「どうしたんだ」
「大戦で、何があったの」
「部屋に入るまで、待って欲しい」
「はい」

 ティトーは周囲を気に掛けながら、そこで言い留まった。

「説明をするから、心配をするな」
「うん。知らなきゃ、いけないことですね」

 



「部屋へ。結界を張る」
「お兄さまも、張れるんですか。凄いです」
「マリア嬢よりは頼りないが、聞こえる程度の様なヘマはしない。風魔法だからな、いずれティトーも使えるようになる」
「うん。勉強する」

 扉を閉めると、レオポルトは窓の鍵を確認し、カーテンを閉めなおした。そして、短く詠唱したのちに結界を張ると、ティトーをベッドに座らせた。

「辛い話になるから、辛くなったらいつでも止める」
「うん。お願いします」


 その日はティトーにとって、忘れられない日となる。そして、辛く重い決意を秘めることになるのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

【完結】お父様に愛されなかった私を叔父様が連れ出してくれました。~お母様からお父様への最後のラブレター~

山葵
恋愛
「エリミヤ。私の所に来るかい?」 母の弟であるバンス子爵の言葉に私は泣きながら頷いた。 愛人宅に住み屋敷に帰らない父。 生前母は、そんな父と結婚出来て幸せだったと言った。 私には母の言葉が理解出来なかった。

暁の荒野

Lesewolf
ファンタジー
少女は、実姉のように慕うレイスに戦闘を習い、普通ではない集団で普通ではない生活を送っていた。 いつしか周囲は朱から白銀染まった。 西暦1950年、大戦後の混乱が続く世界。 スイスの旧都市シュタイン・アム・ラインで、フローリストの見習いとして忙しい日々を送っている赤毛の女性マリア。 謎が多くも頼りになる女性、ティニアに感謝しつつ、懸命に生きようとする人々と関わっていく。その様を穏やかだと感じれば感じるほど、かつての少女マリアは普通ではない自問自答を始めてしまうのだ。 Nolaノベル様、アルファポリス様にて投稿しております。執筆はNola(エディタツール)です。 Nolaノベル様、カクヨム様、アルファポリス様の順番で投稿しております。 キャラクターイラスト:はちれお様

婚約者の幼馴染?それが何か?

仏白目
恋愛
タバサは学園で婚約者のリカルドと食堂で昼食をとっていた 「あ〜、リカルドここにいたの?もう、待っててっていったのにぃ〜」 目の前にいる私の事はガン無視である 「マリサ・・・これからはタバサと昼食は一緒にとるから、君は遠慮してくれないか?」 リカルドにそう言われたマリサは 「酷いわ!リカルド!私達あんなに愛し合っていたのに、私を捨てるの?」 ん?愛し合っていた?今聞き捨てならない言葉が・・・ 「マリサ!誤解を招くような言い方はやめてくれ!僕たちは幼馴染ってだけだろう?」 「そんな!リカルド酷い!」 マリサはテーブルに突っ伏してワアワア泣き出した、およそ貴族令嬢とは思えない姿を晒している  この騒ぎ自体 とんだ恥晒しだわ タバサは席を立ち 冷めた目でリカルドを見ると、「この事は父に相談します、お先に失礼しますわ」 「まってくれタバサ!誤解なんだ」 リカルドを置いて、タバサは席を立った

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

婚約者の浮気相手が子を授かったので

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。 ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。 アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。 ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。 自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。 しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。 彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。 ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。 まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。 ※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。 ※完結しました

選ばれたのは美人の親友

杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。

処理中です...