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第五環「黄昏は、ハープを奏でて」
⑤-2 邂逅②
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「ごめんなさい。私が怖いよね。ティトーくん、落ち着いた?」
「ううん。ごめんなさい。僕、取り乱してしまって」
「ううん。仕方ないわ。私が悪いんだし……」
そこまで話すと、マリアは気付いたようにグリットことアルブレヒトへ迫った。
「で? なんでアンタが生きてて、敵国の王子と一緒なのよ」
「マリア嬢、王子というのは語弊がある」
「なによ。ルゼリアの王子に変わりないじゃない」
マリアは吐き捨てるものの、レオポルトは苦笑いを浮かべると、自虐的に語った。
「いや。複雑な上、今は説明は控えるが、俺にはもう継承権はおろか、何もないんだ。血の繋がった、親戚なだけなんだ。俺に、ルゼリアでの価値はないさ」
「ルゼリアが複雑なのは知っているけれど、私にとっては、……結局、敵国に変わらないのよ。それは判るでしょう、ルゼリアの王子」
マリアにとっては敵国。その言葉はティトーにとって、とても恐ろしい言葉に聞こえた。ティトーが表情を暗くしたとき、少年はあえて発言をした。
「僕が聞いていても、いい御話なの? その、僕は何も知らないでいたから、出来れば聞いていたい、です」
「ああ。レオポルトに関係がある話は、ティトーにも関係がある話だから、聞いていていいんだぞ」
アルブレヒトの優しい言葉に、ティトーの表情は緊張はしているものの、本来の明るさを取り戻した。すぐに真剣な眼差しでマリアを見つめ、マリアもティトーを見つめた。
「ティトーは、レオの弟なんだ」
「……そう。え、ええ? じゃあこの子、ルゼリアの王子でもあるの!?」
「え!? ぼく、王子なの!?」
ティトーとマリアは同じように驚くと、交互にアルブレヒトとレオポルトを見つめた。レオポルトは呆れ顔なものの、アルブレヒトは苦笑いを浮かべている。
「だから、話がややこしくなるっていっただろう。ティトーは、本当に大して何も知らないまま、ルゼリアからセシュールへ来たばかりなんだ。順を追って話すぞ。いいな? マリア」
「わ、わかったわ……」
マリアは心を落ち着けるようにに、水差しで水を注いで一口飲んだ。そのまま、別のコップへ水を注ぐとティトーへ差し出した。
「え?」
「緊張して、喉がカラカラでしょ? 少し、飲んだほうがいいわ」
「あ、ありがとうございます」
ティトーはコクコクと少しずつ水を飲むと、コップの水を全て飲み干した。ティトーの仕草が落ち着くのを待って、アルブレヒトは口を開いた。
「まずは、俺とティトーが会ったところから話すぞ」
「ええ。お願いするわ」
ティトーはコップをテーブルへ置くと、椅子に座りなおした。椅子を多少、レオポルト寄りに移動させ、アルブレヒトとマリアから距離を取ったのを、三者の大人は目撃していた。やはり居心地は悪いようで、居た堪れないような表情をしている。三者は言葉をわかりやすく伝えようと、
「まず、俺は知り合いの宿に泊まって、情報を収集していたんだ。それは当然だが、ルゼリア国の情勢だった」
「ルゼリアの?」
「ああ。目的のためだ。それは後程話す」
「わかったわ」
アルブレヒトは宿屋に少年が現れ、少年が暴漢に襲われていたところを救助し、保護したことを説明した。マリアは顔を青ざめると、ティトーの方へ屈むと優しく手のひらを差し出した。
「怖かったでしょう。それなのに、私がまた怖がらせてしまったのね。ごめんなさい。許してくれる?」
「うん。僕、確かに怖かったけれど、お兄さまが無事だから大丈夫だよ」
ティトーはマリアの手を取ると、握手を交わした。マリアはティトーの小さな手に触れると、こんな子に痣があったのかと同情したのだ。無理もない。それには理由があったものの、事情を今はなすべきではないため心の奥底へ閉まったのだった。
「ううん。ごめんなさい。僕、取り乱してしまって」
「ううん。仕方ないわ。私が悪いんだし……」
そこまで話すと、マリアは気付いたようにグリットことアルブレヒトへ迫った。
「で? なんでアンタが生きてて、敵国の王子と一緒なのよ」
「マリア嬢、王子というのは語弊がある」
「なによ。ルゼリアの王子に変わりないじゃない」
マリアは吐き捨てるものの、レオポルトは苦笑いを浮かべると、自虐的に語った。
「いや。複雑な上、今は説明は控えるが、俺にはもう継承権はおろか、何もないんだ。血の繋がった、親戚なだけなんだ。俺に、ルゼリアでの価値はないさ」
「ルゼリアが複雑なのは知っているけれど、私にとっては、……結局、敵国に変わらないのよ。それは判るでしょう、ルゼリアの王子」
マリアにとっては敵国。その言葉はティトーにとって、とても恐ろしい言葉に聞こえた。ティトーが表情を暗くしたとき、少年はあえて発言をした。
「僕が聞いていても、いい御話なの? その、僕は何も知らないでいたから、出来れば聞いていたい、です」
「ああ。レオポルトに関係がある話は、ティトーにも関係がある話だから、聞いていていいんだぞ」
アルブレヒトの優しい言葉に、ティトーの表情は緊張はしているものの、本来の明るさを取り戻した。すぐに真剣な眼差しでマリアを見つめ、マリアもティトーを見つめた。
「ティトーは、レオの弟なんだ」
「……そう。え、ええ? じゃあこの子、ルゼリアの王子でもあるの!?」
「え!? ぼく、王子なの!?」
ティトーとマリアは同じように驚くと、交互にアルブレヒトとレオポルトを見つめた。レオポルトは呆れ顔なものの、アルブレヒトは苦笑いを浮かべている。
「だから、話がややこしくなるっていっただろう。ティトーは、本当に大して何も知らないまま、ルゼリアからセシュールへ来たばかりなんだ。順を追って話すぞ。いいな? マリア」
「わ、わかったわ……」
マリアは心を落ち着けるようにに、水差しで水を注いで一口飲んだ。そのまま、別のコップへ水を注ぐとティトーへ差し出した。
「え?」
「緊張して、喉がカラカラでしょ? 少し、飲んだほうがいいわ」
「あ、ありがとうございます」
ティトーはコクコクと少しずつ水を飲むと、コップの水を全て飲み干した。ティトーの仕草が落ち着くのを待って、アルブレヒトは口を開いた。
「まずは、俺とティトーが会ったところから話すぞ」
「ええ。お願いするわ」
ティトーはコップをテーブルへ置くと、椅子に座りなおした。椅子を多少、レオポルト寄りに移動させ、アルブレヒトとマリアから距離を取ったのを、三者の大人は目撃していた。やはり居心地は悪いようで、居た堪れないような表情をしている。三者は言葉をわかりやすく伝えようと、
「まず、俺は知り合いの宿に泊まって、情報を収集していたんだ。それは当然だが、ルゼリア国の情勢だった」
「ルゼリアの?」
「ああ。目的のためだ。それは後程話す」
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「怖かったでしょう。それなのに、私がまた怖がらせてしまったのね。ごめんなさい。許してくれる?」
「うん。僕、確かに怖かったけれど、お兄さまが無事だから大丈夫だよ」
ティトーはマリアの手を取ると、握手を交わした。マリアはティトーの小さな手に触れると、こんな子に痣があったのかと同情したのだ。無理もない。それには理由があったものの、事情を今はなすべきではないため心の奥底へ閉まったのだった。
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